激しく
美し…
慟哭(どうこく)ソナタ♫
モーツァルトの18曲あるピアノソナタの中、短調の曲は2曲のみ…。
- ピアノソナタ第8(9)番 イ短調
- ピアノソナタ第14番 ハ短調
短調のピアノソナタ、2曲とも「悲しみが、通り過ぎる時のよな…」
今回は、《ピアノソナタ第14番ハ短調》と、演奏会ではともに演奏されることの多い《幻想曲ハ短調》の解説とおすすめ名盤を紹介です。
- 【解説】モーツァルト《ピアノソナタ第14番》
- 【各楽章を解説】モーツァルト《ピアノソナタ第14番》
- 【名盤3選の感想と解説】モーツァルト《ピアノソナタ第14番》
- 【まとめ】モーツァルト《ピアノソナタ第14番》
【解説】モーツァルト《ピアノソナタ第14番》
激しい緊迫感のただよう「第14番」と、暗くドラマティックな性格をもつ「幻想曲」は、ともにハ短調という調性をもっているせいか、内容も似通っており、モーツァルトのピアノ曲のなかでもたいへん傑出した作品となっている。
出典:志鳥栄八郎 著 「新版 不滅の名曲はこのCDで」P281より引用
以上の志鳥先生の言葉によってズバリ解説し終わった感すらある《ピアノソナタ第14番ハ短調》と《幻想曲ハ短調》です。
あえて言葉を加えるとするならば、ケッヘル番号で言うところの400番台には「印象的な短調の曲が多いな」と感じます。
- 弦楽四重奏曲第15番 ニ短調 K. 421(417b)
- 2台のピアノのためのフーガ ハ短調 K. 426
- ピアノソナタ第14番 ハ短調 K. 457(本記事の曲)
- ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K. 466
- 幻想曲 ハ短調 K. 475(本記事の曲)
- ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 K. 478
- ピアノ協奏曲第24番 ハ短調 K. 491
人の心を覆う「ふとした瞬間に訪れる悲しみの心」そう「乾いた風」が吹きすぎるような感覚の名曲が多いと感じるのです…。
《ピアノソナタ第14番ハ短調》の数か月後に作曲された《幻想曲ハ短調》は、調性が同じことから2曲合わせて同じ曲として作曲したという説があります。ただ1990年に発見された自筆譜から、使われている五線紙とインクが異なることがわかりました。
《ピアノソナタ第14番ハ短調》はモーツァルトのピアノの教え子でもあったテレーゼ・トラットナー夫人に献呈されています。
【各楽章を解説】モーツァルト《ピアノソナタ第14番》
ピアノソナタ第14番
第1楽章 モルト・アレグロ(きわめて速く)
激しくも熱く…
悲しくも美しい…
まるで慟哭(どうこく)するよな狂おしソナタ
始まりの楽章は、寒さに震えて吹きすさぶ、それはまるで真冬の風…。
嵐の運命あらがえず、身悶えしつつも動けずに、襲う苦痛に縛られて…そして悲しみ深まるソナタ、そして、なんとも美しソナタ…。
第2楽章 アダージョ(ゆっくりと)
第2主題は、ベートーヴェンの《ピアノソナタ第8番 悲愴》の第2楽章の冒頭とよく似ています。
第1楽章の、熱を帯びた悲しみを通り越して表れた「静寂の時…」。
- 優しさ…
- 安らかさ…
- 平らかな心…
第3楽章 アレグロ・アッサイ(非常に速く)
《ピアノソナタ第14番》の魅力は、第2楽章のこの上ない調和的美しさを挟み込むようにして、激情が聴く人の心をかきむしって来るところ。
そして、この第3楽章でその激情を高ぶらせ、悩乱させ、そして…終わらせる。
そう、感動的ソナタを終わらせてゆくのです。
ピアノ幻想曲ハ短調
モーツァルトがソナタを披露する際には、前奏曲を即興で弾いた後で演奏していたと言われています。
ピアノソナタ第14番をテレーゼ・トラットナー夫人に献呈したことは前述しましたがテレーゼ・トラットナー夫人は即興演奏はできません。
そこでモーツァルトはピアノソナタ第14番の前奏曲として《幻想曲ハ長調》を書いたのではないかと言われています。
曲の構造としてのバランスが良く評価の高い1曲です。
- アダージョ
- アレグロ(転調部)
- アンダンティーノ
- ピウ・アレグロ(転調部)
- アダージョ
重く垂れ込める雲を思わせるように始まります。雲が作った影は深くなり闇が濃くなっていきます。
急な大雨が、強く大地を叩くがごとくに激しく展開していきます。
ポツ、ポツ、ポツ…雨の勢いは弱まります。しかし影が無くなることはなく、どこか寂しげな展開です。そして再び雨は強まり…。
叩く、叩く、叩く…雨は叩く、痛いくらい…。雨は叩く、寂しいくらい…。
そして、冒頭のテーマに戻り曲全体のバランスを保っていきます。
なんともドラマティックな映像が浮かぶ…そんな名曲ピアノ曲です。
【名盤3選の感想と解説】モーツァルト《ピアノソナタ第14番》
アルフレッド・ブレンデル:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
ピアノソナタ第14番や幻想曲ハ短調のようなパッションがこもった名曲は、それが行き過ぎるとそれはそれで聴いていてつらいことがあります。
ブレンデルの名盤なら知性が働いていて聴きやすい。このバランスの良さは絶妙で、熱すぎないし冷たすぎもしません。
バランスの美学が詰まった幻想曲ハ短調にもピッタリな名盤とも言えます。
ブレンデルの名盤を聴きつつ他の演奏を聴いていると、中心軸や立ち位置が明確になり、ピアノソナタ第14番や幻想曲の良さが浮き彫りになってきます。
そういった意味でオススメの名盤と言えそうです。
ダニエル・バレンボイム:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
音楽に感情を乗せる際にも気品を失わないピアニズムに引き込まれます。
深い透明感も魅力で、特に第2楽章の「静寂の美」の表現に舌を巻きます。
その第2楽章の美を覆すような情熱的な第1楽章と第3楽章もバレンボイムの透明感が保たれたままの美しさ。
ピアノの音の一粒一粒がキラリと光った名盤です。
マリア・ジョアン・ピリス:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
女性的な優しさや柔らかい感性が嬉しい名盤です。でもだからと言ってピアノソナタ第14番や幻想曲ハ短調の熱情の部分が減じているわけではありません。
感性に溺れることなく理性の効いた背筋の伸びるような緊張感も保っています。
暗くて深い情念の燃え盛る印象からは少し離れますが、それだからこその聴きやすさもあります。
しなやかで音楽の流れの美しいモーツァルトが聴ける名盤です。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【まとめ】モーツァルト《ピアノソナタ第14番》
さて、ピアノソナタ第14番ハ短調と幻想曲ハ短調の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
激しく
美し…
慟哭(どうこく)ソナタ♫
本来、明るい曲の多いモーツァルトですが、人の持つ暗い情念を描いても美しい。
そんなピアノソナタの名曲、ピアノソナタ第14番ハ短調と幻想曲ハ短調ぜひ聴いてみてくださいね。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。