デモーニッシュ!
女神の微笑み…
憂いと調和のハーモニー♫
今回は、魔にとりつかれたよう(デモーニッシュ)な魅力と、女神のほほ笑みが同居するモーツァルト《ピアノ協奏曲第20番》解説とおすすめ名盤を紹介です。
- 【解説】モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番
- 【各楽章を解説】モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番
- 【3枚の名盤の感想と解説】モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番
- 【まとめ】モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番
【解説】モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番
ピアノ協奏曲中の傑作:モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番
モーツァルト《ピアノ協奏曲第20番》のこんな解説があります。
モーツァルトのピアノ協奏曲27曲中最高傑作と考えられるものを一曲だけあげろ、と命じられたら、私ならこれをあげる。(中略)短調のモーツァルトはこのニ短調と、あとは第24番のハ短調があるだけだからだ。この二つの比較なら割合と気楽にできる。
「これがお前の本心か?」 と聞かれると 困ってしまう。本心は長調のモーツァルトの方が好きだからだ。でも第2楽章は変ロ長調だし(中略)長調のモーツァルトに、この曲の中でだって触れられるのだから……。とまあいろいろいいわけがつく。
出典:諸井誠 著 「ピアノ名曲名盤100」P42より引用
解説にありますようにモーツァルトは短調(暗い基調)のピアノ協奏曲を2曲しか書いていません。
これは当時のピアノ協奏曲というものが、ピアノの独奏者のテクニックを見せるために作曲されていたということと関係があります。
つまり「独奏者のテクニックを華やかに、そして明るく披露する」ためにピアノ協奏曲は作曲されたからです。
しかし、モーツァルトがピアノ協奏曲第20番は暗い曲でした。
それなのに当時の聴衆からの評価は高く、初演の5日後にも再び演奏されたほどでした。
モーツァルト自身はカデンツァ(曲中で演奏されるピアノの独奏部分)は作曲していませんが、ベートーヴェンが作曲し書き残したことで有名です。
このカデンツァはピアノの独奏者が即興で弾くことが普通ですが、ベートーヴェンの残したカデンツァが採用され弾かれることは現在でも多いですね。
作曲時のエピソード:モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番
モーツァルトは、ウィーン市立集会場の予約演奏会のためにピアノ協奏曲第20番を作曲していましたが完成したのは演奏会の前日でした。
しかも写譜屋による楽譜を書き写す作業が当日になっても終わらず、モーツァルトは第3楽章を通しで練習することなく演奏会に臨みました。
この演奏会にはモーツァルトの父レオポルトや、作曲家のハイドンも出席していました。
そして、演奏会の翌日、ハイドンは、父レオポルトにモーツァルトに対する最大級の賛辞を送っています。
つまり、
「神に誓って正直に申し上げますが、あなたのご子息は私の知る限り最も偉大な作曲家です。趣味がよく、作曲技術にも深く精通しています」。
と…。
映画《アマデウス》でも印象的:モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番
まさしく、魔に取り憑かれたがごとくの「デモーニッシュな第1楽章と第3楽章」の
- 激しさ
- 悲しさ
- やるせなさ
そして、そのはざまで光る第2楽章の
- はかなさ
- 優しさ
- 美しさ
は絶品ですね。
この第2楽章は、ミロス・フォアマン監督の映画《アマデウス》のエンディングテーマとして流れたことでも有名です。
モーツァルトの創り出す澄み切った音楽の代表と言えそうな選曲です。
またエンディングテーマが優美に流れるとともに、モーツァルトの高笑いが響き渡ります。
この映画アマデウスのエンディングにおける
- 音楽の美しさと
- 品のない高笑い…
これこそモーツァルトの「芸術と人」を、もっともよく表していて《アマデウス》という映画の演出の見事さが強く印象に残っています。
【各楽章を解説】モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番
それでは、各楽章について解説したいと思います。
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番は第1楽章から第3楽章までの3曲で成り立っています。
第1楽章 アレグロ(速く)
冒頭から襲う静かに迫りくる陰うつな運命の波。
それに抗うこともままならずに、悲しみの歌を歌い出すピアノのなんとも耽美でやるせないことでしょう。
これこそモーツァルト《ピアノ協奏曲第20番》の根源的なテーマと思えますし、よくたとえられる「デモーニッシュ」とは、まさしく怖いくらいに
- 静かで
- 陰うつな
- 運命の波…
そんな想いを抱かせ、また呼び起こさせます…。
これがモーツァルト特有の美しいメロディでつむがれていくのですから引き込まれ、取り憑かれるのです。
そんなモーツァルト《ピアノ協奏曲第20番》のはじまりの第1楽章です。
第2楽章 ロマンツェ
別世界…そう、
- 天国的で
- 優しくて
- なんとも調和に満ちている
そんな第2楽章…。
しかし、その中間部にはさまれた嵐のごとく吹き荒れるがごとくの激情はどうしたことでしょう!
この「叫びの感情」はモーツァルト《ピアノ協奏曲第20番》の根本テーマ…。
そしてその嵐がおさまると、再び調和の天国世界へと戻っていく。
なんとも不思議な魅力を持った楽章と言えそうです。
第3楽章 ロンド:アレグロ・アッサイ(非常に速く)
よみがえる「おだやかならざる」 デモーニッシュな展開!
ピアノと管弦楽の語り合いは熱を帯びて、モーツァルト《ピアノ協奏曲第20番》の劇的なフィナーレに向けて駆け抜けていきます。
そして、最後においてオーボエとファゴットの歌により表現される天上より降りてくる静かであり、またおだやかな光…。
そして、デモーニッシュなモーツァルト《ピアノ協奏曲第20番》は最後は、
- 明るくて
- 熱情的であり
- また、ドラマティックな
ハッピーエンドで終わっていくのです。
【3枚の名盤の感想と解説】モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番
クララ・ハスキル:ピアノ
イーゴリ・マルケヴィチ:指揮
コンセール・ラムルー管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
天に召される1ヶ月前に録音されたピアノの天使クララ・ハスキルの名盤です。
モーツァルト《ピアノ協奏曲第20番》をその孤高の響きを持ったピアノで魅了します。
- 気品に満ちて
- さみしくて
- しかし毅然と美しく…
そんな女流モーツァルト弾きの透明感に満ちた永遠の名盤に触れて、それこそ永遠への思いを馳せてみたいですね。
イングリット・ヘブラー:ピアノ
アルチェオ・ガリエラ:指揮
ロンドン交響楽団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
ズシリ…♫
重苦しく、さみしげに始まるオーケストラに続いて歌う、ヘブラーのピアノの
- 切なさ
- 優しさ
- あたたかさ
まるで、天の与えた「重苦しい苦難を淡々と受け入れ、そして誠実に生きていく…」。
そんなピアノの歌ごころを感じます。
音楽の神様モーツァルトが後世の人たちに与えた問題集…。
「ほの暗く、望みかなうこと少なき世界に…光を…」。
その投げかけられた問題に対して見事に、そして…そっと静かに出した答え…。
それがもうひとりのピアノの天使イングリット・ヘブラーのピアノです。
アルフレッド・ブレンデル:ピアノ
サー・ネヴィル・マリナー:指揮
アカデミー室内管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
デモーニッシュな引き込まれ系の名盤からは、少し距離をとった知性や理性をともなった名盤です。
すみずみまで洗練されていて、少し速めのテンポで展開する運命の嵐はむしろまた違った怖さを感じます。
またその怖さを優美とをあたたかさをもって表現するサー・ネヴィル・マリナーの指揮する演奏で進むのですから、ある意味壮絶…。
ストレートに激情に沈まされることなく聴ける、スッキリ系の美しさを秘めた名盤です。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【まとめ】モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番
さて、モーツァルト《ピアノ協奏曲第20番》の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
- 激情の嵐
- それにはさまれた調和の世界…
モーツァルトの音楽の深遠な心のひだの部分に触れられるかも…。
雨の夜…あかりを落とした部屋の中、デモーニッシュなモーツァルト《ピアノ協奏曲第20番》を聴きながら、第2楽章を迎えたところで目を閉じる…。
そんな聴き方も中々いいものなのですよ…。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。