
苦悩からの
静かな…歓喜♫
ベートーヴェン最後のピアノソナタであり集大成。2楽章形式ながら、曲に込められた構造と表現の独自性が秀逸です。内面世界のモノローグともいえそう…。
今回は、ベートーヴェンのピアノソナタ第32番、解説とおすすめ名盤を紹介します。
【曲の解説】

仇名をつけるとすれば、君なら何とする......。 私は《昇天ソナタ》か《天国》。理由は第2楽章=アリエッタ変奏曲にある。あの後半を聴いてみたまえ。何と天国的であることか。昇天の情景まで描かれているように思えるが……。第1楽章は、苦悩する人間の最後の姿。苦痛もある。怒りもある。そして嘆きも……。だが、ここには慰めも、安らぎも、平和もない。ベートーヴェンは、最後のソナタをこのように鋭く対照的な2楽章で構成した。
出典:諸井誠 著 「ピアノ名曲名盤100」P66より引用
ピアノソナタ第32番を作曲中に「ミサ・ソレムニス」や「交響曲第9番」の作曲にも取り組んでいました。晩年のベートーヴェンの曲は深まりを増していく中で、最後のピアノソナタも生まれたわけです。晩年、ベートーヴェンの曲に共通するものとして「頻繁に表れるフーガ」と「苦悩から歓喜へ」といったテーマがあります。
フーガに近い対位法の形がピアノソナタ第32番でも顔を覗かせますし、第1楽章の苦悩から第2楽章の歓喜へと音楽は流れます。歓喜と言っても有名な第9交響曲とは違って静けさを含んだもの。解説にあるようにまさしく《昇天ソナタ》か《天国》とでもいえそうです。
弟子のアントン・シントラーが「なぜ2楽章しかないのですか?」と尋ねたのに対し、ベートーヴェンは「時間がなかったから」と答えています。あながち嘘ではなかったと思われますが、2楽章以降に曲が存在する必要性を感じていなかったのではないでしょうか?つまりピアノソナタ第32番は2楽章で完成をみたということだろうと想像します。
ベートーヴェンは楽譜出版社のペータースには次のピアノソナタを作曲している旨を伝えていましたが楽譜は見つかっていません。もし日の目を見ていないだけで存在していたらどのようなものだろう…と妄想してしまいます。
曲は、ブレンターノ家のアントニーに献呈する予定でしたが、最終的にはルドルフ大公に献呈されています。
【各楽章を解説】

第1楽章 マエストーソ|アレグロ・コン・ブリオ・エド・アパッショナート(荘厳に速く、生き生きと、そして情熱的に)
地を震わすようなピアノの衝撃が鳴り響く始まりです。有名な運命交響曲の冒頭のようなインパクトの強さもあります。悲劇を象徴しているようではありますが、解説にあるように「苦悩」「苦痛」「怒り」「嘆き」を吐露しているようでもあります。
強い緊迫感と、逆風を力ずくで押し返すように進もうとする強い意志の表明のようでもあり、感動的なドラマを展開していきます。
第2楽章 アリエッタ|アダージョ・モルト、センプリチェ・エ・カンタービレ(ゆったりと、易しく歌うように)
主題
第1楽章とは打って変わって、調和的で慈しみに満ちた音楽です。第1楽章での激動の苦悩を静かに見つめながら諦観とともに安らぎの思いへと導かれたような感覚です。
第1変奏
主題を引き継ぎ、淀みなく流れるように展開します。慈しみ深く、ベートーヴェンが自身の人生を静かに回顧しているような印象すら感じられる曲です。
第2変奏
柔らかい歌は弾みを加えながら、ジャズ的な要素を含ませていきます。
第3変奏
テンポを増しながら、リズミカルな駆け足に変化します。自由自在に弾けながらわずかばかりの悲しい思いを乗せていきます。
第4変奏
テンポは弱まりながら、優美で歌謡的な音楽へと変化します。弱音からだんだんと音を強めていきながら第5変奏へと橋渡しをします。
第5変奏
主題の旋律に戻りつつ歌われますが、微細な変化を伴いながら思うがままに姿を変えて彩りを増します。2楽章形式で短く、しかし、ドラマティックなピアノソナタ第32番は静かにその歌を終えていきます。
【名盤3選の感想と解説】

クラウディオ・アラウ:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
劇的な第1楽章でも、粗雑にならない丁寧さの中にバランス良く情熱を込めた名盤です。第2楽章でも抒情性の甘さに溺れることない冷静さを保っています。2楽章形式のピアノソナタとはいえ、それなりに時間を要しますが優れたバランス感覚の中に深い詩情を含ませています。
第2楽章の変奏曲における表情の微細な変化に感動を覚え、目頭が熱くなる思いです。晩年のベートーヴェンの移り変わる感情の細やかさがアラウの第32番を聴くことで伝わってくるような素晴らしい名盤です。
アルフレッド・ブレンデル:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
激情と熱情で覆われることがありません。常に繊細さを失わないピアノのキラメキが聴ける名盤です。他の名盤に比べると恬淡(てんたん)な印象を与えるかもしれませんが、むしろ晩年のベートーヴェンの諦観を見事に表しているように聴こえます。
知的なアプローチを行いながら冷たくなることのないブランデルのベートーヴェン。澄み切った美を放って潤いのあるピアノソナタ第32番を紡いでいます。
グレン・グールド:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
第1楽章の悲劇は、駆け抜けるようなスピード感を伴って展開します。パンチの効いた破壊力はピアノソナタ第32番の持つ悲劇性を強く打ち出しています。
第2楽章は起伏が多く抒情性を感じ取るといった印象からは遠いかもしれませんが、これはこれで面白く聴けます。かなり個性的で実験的なピアノソナタ第32番ですが、深い説得力を持って迫ってくる奇々怪々で不可思議な迷盤…いえ、名盤です。
【まとめ】

ベートーヴェン:ピアノソナタ第32番の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
苦悩からの
静かな…歓喜♫
2楽章形式の中に移り変わる感情と彩り豊かな詩情を織り込んだ名曲ピアノソナタ。ベートーヴェンの構造美と表現法の独自性がはち切れんばかりに閉じ込められています。
せひ一度、聴いてみてくださいね。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の醍醐味ですよね』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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