聴かないほうがいい(?)名曲
あまりにも暗い…
でも、それは一面の「真実」かも…です
明るく、楽しいことはいいこと。
それは正しい…。
でも、毎日のなかには、そうでない瞬間も、あるのかも…。
- 【その楽曲と詩情を解説】シューベルト:弦楽四重奏曲第14番《死と乙女》
- 【各楽章を解説】シューベルト:弦楽四重奏曲第14番《死と乙女》
- 【名盤3選を解説】シューベルト:弦楽四重奏曲第14番《死と乙女》
- 【解説と名盤 まとめ】シューベルト:弦楽四重奏曲第14番《死と乙女》
【その楽曲と詩情を解説】シューベルト:弦楽四重奏曲第14番《死と乙女》
ほの暗い、シューベルト:弦楽四重奏曲第14番《死と乙女》のこんな解説があります。
「死と乙女」と名づけられているのは、第2楽章に、シューベルトが20歳の時に作曲した歌曲「死と乙女」の前奏の部分に使われている、陰鬱(いんうつ)な動機を変奏主題として用いているためである。(中略)
曲は、すべて短調で書かれ、シューベルト特有のほの暗い詩情と、美しい旋律にみちている。また、第4楽章プレスト(きわめて速く)の主題は、(中略)この力作をしめくくるのに、ふさわしい迫力をもっている。
出典:志鳥栄八郎 著 「不滅の名曲はこのCDで」P255より引用
「陰鬱(いんうつ)な動機」それは、シューベルトの音楽には、ひんぱんに現れるものですね。
「明るく楽しい音楽」の多いクラシック音楽の中に、時たま現れる「暗く陰鬱(いんうつ)」な曲。
それは、「明るく楽しい音楽」を、ますます明るく、楽しいものと感じるための、コントラスト(対比)のために存在してくれている。
そう感じることがあります。
ここで、シューベルト:弦楽四重奏曲《死と乙女》の第2楽章の、モチーフになった詩である《死と乙女》を書きとめておきます。
《死と乙女》
乙女:
あっちへ行って!
残酷な死神よ!
私はまだ若いのよ。
行っておしまいなさい。
私に触れないで!
死神:
さあ、手を取るのだ。
美しく可憐(かれん)な君よ。
むしろ、あなたは、私の友人。
バツを与えに来たのではないのだよ。
心を安らかに、保ちなさい。
私は卑(いや)しいものではない。
私の腕の中にて、安らかに眠るのだ。
マティアス・クラウディウス:詩
乙女の死の間際に、冥界への案内人として現れる死神。
乙女にとっては、ただ、忌(いま)まわしいのみの存在ですが、人は遅かれ早かれ、死へと向かうものですね。
この詩から感じられる死神は、たしかに忌まわしいものではありますが、「一面の真実」を伝えるための「通達の役」を果たしていることは事実だと思います。
【各楽章を解説】シューベルト:弦楽四重奏曲第14番《死と乙女》
それでは、各楽章について解説したいと思います。
この曲は第1楽章から第4楽章までの4曲で成り立っています。
第1楽章 アレグロ(速く)
ジャーン、ジャジャジャジャン!!
いきなり、強く奏でられる劇的な始まり。
また、シューベルト:弦楽四重奏曲第14番《死と乙女》の「悲劇の始まり」とも言えそうです。
様々な音楽の展開を見せながら、「陰鬱(いんうつ)」な曲調のまま続き、さまざまなドラマを展開しながら、終わっていきます。
第2楽章 アンダンテ・コン・モート(歩く速さで、動きを付けて)
シューベルトの歌曲《死と乙女》のメロデイを、たどりながら展開します。
テーマとなるメロディの、5つの変奏が行われながら、進んでいく「静かでほの暗い」1曲。
第3楽章 スケルツォ:アレグロ・モルト(急速で快活に:非常に速く)
悲劇の中に、「激情」が含まれて、ドラマティックに展開する「運命的なもの」が感じられる曲です。
第4楽章 プレスト(きわめて速く)
テンポが速く、テキパキとした動きのダンスである、タランテラ(テンポの速いイタリア舞曲)のイメージ。
大空をさっそうと駆け抜けてゆく、死神のイメージにも近いでしょうか?
黒装束(くろしょうぞく)に、巨大なマントをひるがえしながら、今日も冥界への案内人として、その活躍に、終わりということはないのです。
この世というものが、存在する限り…。
【名盤3選を解説】シューベルト:弦楽四重奏曲第14番《死と乙女》
アルバン・ベルク四重奏団
アルパカのおすすめ度★★★★★
「バッサアッー!!」
ひときわ大きな黒マントを広げつつ…
ズッシリ重く、どんより曇った空より降りてくる死神のイメージ。。。
ほの暗く…そして、超絶美しい一糸乱れぬアンサンブル♫
これは、聴いてはいけない!!
そんな…恐ろしい名盤です!
ハーゲン四重奏団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
スッキリと筋の通った冷たさのなかに「静けさ」がひそむ…。
そんな名盤です。
どこか淡々としていて、行き過ぎない感情の表出に、むしろ恐ろしさを感じます。
それは特に第2楽章に感じますが、デカダンス(退廃的)な響きの中に、凛とした緊張感を秘めた名盤。
哀しみの中に、たしかに存在する透明度の高い「孤高(独り超然とした理想)」を感じる名盤。
イタリア弦楽四重奏団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
解散の前年に録音された、「終わりに近い」鬼気迫る集中力が生み出す美感と、円熟の境地からあふれ来る恐ろしいほどの詩情とおだやかさ。
とくに、第2楽章の「死と乙女」のモチーフによる1曲は、「暗い曲」でありながら、なんとも、人の心を安らかさへと誘う音芸術を体験させてくれます。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【解説と名盤 まとめ】シューベルト:弦楽四重奏曲第14番《死と乙女》
さて、シューベルト:弦楽四重奏曲第14番《死と乙女》の、名盤紹介と、解説はいかがでしたか?
「いつも聴きたい」曲では、ないかもしれませんね(汗)
ただ、こんな暗い曲でも、「一面の真実を音楽として、表現している」部分もあります。
心情的に、落ち込みすぎるのは、よくありませんが、「一面の真実」に触れる機会は「ごくたまに…」なら、あってもいいのかもしれません。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は以上になります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
関連記事↓
「暗く」はないけど、こんな透明度の高い曲はいかが?
内省しながら自分を見つめたい時に…。