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マーラー:交響曲第10番《全曲版》【解説と名盤5選の感想】

疑い、苦悩

裏切り!

そして、降りる、光♫

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この世の闇の深きこと…

深き暗さにおびえるか…

蒼い哀しみ心を冷やす…

 

だがしかし…

 

今回は、マーラー:交響曲第10番《全曲版》解説とおすすめ名盤を紹介です。

 

【ここをクリックすると名盤の解説へ飛びます】

【解説】マーラー:交響曲第10番《全曲版》

作曲の背景 

両外側楽章をアダージョにするという第9の構想の真の完成は、実は第7の裏返しのよ
うな構成の第10を待たねばならなかったのである。大傑作である第1楽章はさておき、第2と第4、つまり第3楽章 《煉獄》をはさむ2つのスケルツォを聴きながら、他人の手が入っているということで、疑問と疑惑にともすれば心が乱れがちな私だったが、終楽章を聴き終り、滂沱(ぼうだ)と落涙する自分を発見して驚く有様。マーラーの辞世は、第10の終楽章にあったのである。 第9はいわばその下書きだ。

出典:諸井誠 著 「交響曲名曲名盤100」P172より引用

 

交響曲第10番の作曲を開始した年(1910年)の3年前の1907年にマーラーの身には災いが降りかかっていました。

  • 長女マリア・アンナ(5歳)が他界
  • 自身の心臓病が発覚
  • ウィーン宮廷歌劇場を解雇される

追い打ちをかけるように1910年、交響曲第10番を作曲中にマーラーに追い打ちをかける事件がおきます。若き妻(年齢差19歳)アルマの浮気です。

もともとアルマの健康状態は精神面を含めて悪化していたころであり温泉療養のためマーラーの元を離れます。療養先のトーベルバートにおいて建築家のヴァルター・グロピウスと出会い恋愛関係が始まっています。

《交響曲第10番》はこの妻アルマの浮気による不安定な心情や苦悩などが反映されていると言われています。

 

災いの降り注ぐ1907年以降に作曲された交響曲が以下です。

  • 厭世的な雰囲気を持つ交響曲《大地の歌》
  • 「死」の印象を感じさせる《交響曲第9番》

 

解説にありますが《交響曲第10番》に至り「辞世」の思いが深まったのかもしれません。

実際に《交響曲第10番》は第1楽章をほぼ完成させたところでマーラーの50年の人生は途切れます。死因は敗血症でした。

 

交響曲第10番《全曲版》完成まで

不完全ながらも第1楽章は曲全体を通して演奏できるところまでは完成していました。第3楽章も一部スコアが完成。

過去、交響曲第10番を補筆して完成させようとの取り組みが行われました。もっとも有名なのがイギリスの音楽学者デリック・クックが作成したスコアです。

 

クックによる補筆スコアの完成後マーラー生誕百周年の1960年にゴルトシュミット指揮の演奏により放送されます。しかしこれにマーラーの元妻(マーラーの死後、浮気相手だったグロピウスと結婚)アルマが激怒します。マーラーの死後に著作権者であったためこの怒りは正当と言えます。

 

音楽学者のジャック・ディーサーは、クックの補筆スコアの完成度の高さを確信していました。そのためアルマ激怒の事件の後、1963年にクックの補筆スコアをアルマに認めてもらうべくアルマの元を訪れます。

補筆スコアでの交響曲第10番の放送以来、実際の演奏を聴くことをかたくなに拒んでいたアルマでしたがジャック・ディーサーは根気強く説得を試みます。

根負けしたしたアルマは録音された第5楽章を聴くに至ります。一度聴き終えたアルマはもう一度聴きたいと漏らします。

そして2度めを聴き終えたアルマはひとこと…

 

「Wunderbar(素晴らしい)…」

 

1963年4月のこの時を持って、交響曲第10番《全曲版》はその存在に命が吹き込まれたのでした。

 

全曲初演(第2および第4楽章に一部欠落があり)

:1960年12月19日(ラジオ放送)

指揮:ベルトルト・ゴルトシュミット

フィルハーモニア管弦楽団

 

全曲初演(第2および第4楽章欠落補填版)

:1964年8月13日

指揮:ベルトルト・ゴルトシュミット

ロンドン交響楽団

 

編成(クック版):

弦5部、フルート×3、オーボエ×3、クラリネット×3、ファゴット×3、ホルン×4、トランペット×4、トロンボーン×3、ティンパニ、シンバル、銅鑼(どら)

 

クック版以外の補筆スコア

デリック・クックの以外にも未完の《交響曲第10番》の補筆を試みた人たちがいます。

カーペンター版

1949年に完成(第1稿)しており、カーペンター自身の創作の部分が色濃く出ている。

 

スカルピーニ版

1950年に初録音、ピアニスト兼作曲家のピエトロ・スカルピーニがピアノ連弾用として作曲。

 

クルシェネク版

1951年に出版されたエルンスト・クルシェネクの補筆による第1楽章と第3楽章版。

 

ウィーラー版

1955年、イギリスの音楽学者ジョセフ・ウィーラーの手によるもの。ウィーラーの死後も第3者によって改定が続けられている。

バルシャイ版

2001年にルドルフ・バルシャイによりクック版を基本とした補筆にさらに手を加えたもの。クック版は演奏をする際に必要である最低限の補筆であるためオーケストレーションに厚みに欠けると言われます。

クック版の楽譜に忠実に従いながら打楽器などを加えてドラマティックに仕立てた感のあるバルシャイ版です。

 

ガムゾウ版

指揮者ヨエル・ガムゾウが16歳から23歳にかけて完成させた版であり、2011年にガムゾウ自身が指揮して初演しています。

 

【各楽章を解説】マーラー:交響曲第10番《全曲版》

第1楽章 アダージョ

アダージョと表記されていますがこれはマーラーが題名として「アダージョ」と名付けたものです。実際の始まりはヴィオラの序奏によるアンダンテ表記になっています。

マーラーが交響曲第9番を静かに音楽を終わらせた後、再び弱音から交響曲第10番を始めていくような感覚を覚えます。そして交響曲第10番の世界はまるでダンテの神曲のように幻想的な様相を呈していきます。

不安定な希望とともに旅の目的地にたどり着けずに疲れ切った旅人の姿を思います。そして突如としてやってくる転落…。音楽は地獄の様相を思わすほどの絶望感をまといながら叫びます。

その叫びはしばらく続きながら音楽は再び静けさを取り戻していきそしてその静けさの中へと音楽は姿を消すのです。

 

第2楽章 スケルツォ

曲中で何度も拍子が変化していることからマーラーの不安定な精神状態を想像してしまいます。しかし、曲調自体は明朗なものが流れてリズミカルでもあるところに不思議な魅力を醸しています。

 

第3楽章 プルガトリオ

煉獄とは「地獄ではないけれども天国でもない場所」というキリスト教で言うところのカトリックの思想になります。生前の行いがあまり芳しくなかったことから天国へ行けなかったけれども地獄へ落ちるほどでもないというあたりの魂が行く場所です。

なんとも不安定なリズムを刻みながらも時折現れる木管楽器たちによる天国的なメロディが天国と地獄の狭間で揺れ動く「迷える魂」の心を思ってしまいます

 

第4楽章 スケルツォ

悪魔が私と共に踊り…狂気は私に取り憑く…

楽譜に書かれたマーラーの言葉…さらに簡略譜の余白には…

さよなら、私の竪琴よ!

さよなら!

さよなら!

さようなら!

ああ!ああ!ああ!

 

このときにはアルマの浮気はの知るところとなっていました。同じ頃マーラーはフロイトの精神分析を受けています。

そう楽器たちから発されるの哀しみの思いと断末魔(死の間際)の叫びを聞き取れます。これは取りも直さずマーラーの心の叫びと言えるかもしれません。

 

第5楽章 フィナーレ

混濁する感情、困惑する精神、アルマへの愛情ゆえに嫉妬の炎、燃えさかる…心。そんな分裂し破壊されていく私生活の中。ある時たどり着くマーラーの「諦観」という境地。この流れこそ、第5楽章フィナーレ。

 

第4楽章の最後から続く

ドン…!

ドン…!

打ちのめされゆくマーラーと、無常にも流れていく時。毎日とどまることもなく削り取られていく残り少ない寿命。

ドン!

とは、マーラーに近づきつつある「死」の迫る音なのか…。焦燥と不安の中にある音楽の中にも美しくも若き妻、アルマを賛美するかのようなメロディが表れます

そして、やってくる…諦めの時…。マーラーは楽譜に書き込みます。

「お前のために生き!お前のため死す!アルマ!」

憔悴…、哀しみ…、絶望…?

いや、そこから流れ出してくるメロディは、まさしく…

救済…。

そう、未完のまま旅立ったマーラーの辞世の句そのもの…それが《交響曲第10番》…との感想を持ちます。

 

【名盤5選の感想と解説】マーラー:交響曲第10番《全曲版》

 

エリアフ・インバル:指揮 フランクフルト放送交響楽団 

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アルパカのおすすめ度★★★★★

【名盤の解説】

インバルとフランクフルト放送交響楽団はマーラーの全集を録音しています。ニュアンス的には教え諭すように音を運ぶ独特なマーラーという印象があります。洗練されてパンチの効いたビタミン系のマーラーも好きであるためインバルのマーラーはそれほど聴く機会は多くありませんでした。

けれども第10番の全曲盤はとても好きな名盤で昔からよく聴きます。一音一音の強弱やテンポのニュアンスが耽美であり、ここぞという場面でパンチを打ち込んでくる印象です。

時たま聞こえるインバルの唸り声が少し気になりますが、それもご愛嬌。交響曲第10番を通して伝えてくるマーラーの「死生観」が耳を通してググッと迫ってくる印象です。

 

クルト・ザンデルリンク:指揮 ベルリン交響楽団 

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アルパカのおすすめ度★★★★☆

【名盤の解説】

晩年のマーラーが味わった愛するひとの心が離れていく孤独と不安、焦燥感のようなものが淡々した味わいで語りかけてくる名盤です。華やかさや優雅さからは遠いかもしれませんが第10番の寂しさを水墨画のような枯淡な印象で聴けます。

ベルリン交響楽団の奏でる堅実な響きから繰り出されるマーラーも魅力的なものになっていて注目です。秘めた力強さを感じるマーラー交響曲第10番の全曲盤を言えそうです。

 

サイモン・ラトル:指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 

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アルパカのおすすめ度★★★★☆

【名盤の解説】

アンサンブルが整い洗練された交響曲第10番が聴けます。ただ完璧に近いことは逆に言うとあまりにもスッキリしすぎてしまって交響曲第10番のもつ死生観が深いところまで描けていない感覚も正直あります。それはそれで深刻さから少し離れているためある意味での魅力とは言えますが…。

 

デイビッド・ジンマン:指揮 トーンハレ管弦楽団 

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アルパカのおすすめ度★★★☆☆

【名盤の解説】

カーペンター版を採用した珍しい名盤です。カーペンター自身の創作がところどころに盛られています。

マーラーの遺したスコアをできる限り忠実に現そうとして行われたクック版は素晴らしいですが、ある意味でおとなしい印象があります。カーペンター版はそんなクック版に装飾を施した印象になります。

聴き慣れた第1楽章などは「盛りすぎ」と感じるかもしれませんが、全体としては新鮮な試みであって面白く交響曲第10番が聴けます。

ジンマンの指揮によるトーンハレ管弦楽団の演奏はバランスの良いクリアな演奏です。全体的に楽天的な交響曲第10番に仕上がっており「死生観」が薄まった感覚です。

マーラーが未完のままに死を迎えてしまったわけですので、この際、色んな版を楽しんでみるのもいいかもしれません。

 

レナード・バーンスタイン:指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 

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アルパカのおすすめ度★★★★☆

【名盤の解説】

第1楽章のみの名盤で、バーンスタインの持つねっとりとした情感が全面に出た演奏です。ウィーンフィルハーモニー管弦楽団はそんなバーンスタインの思いを深い美感を持って耽美の極みにまで昇華させています。

バーンスタインの演奏する全曲盤も聴いてみたかったです。ただ第1楽章だけでも遺してもらえたことは後世に生きる私たちの喜びとしなければならないかもしれません。

 

【まとめ】マーラー:交響曲第10番《全曲版》

さて、マーラー:交響曲第10番《全曲版》の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?

この世の闇の深きこと…

深き暗さにおびえるか…

蒼い哀しみ心を冷やす…

 

だがしかし…

 

マーラーの人生の中でもとりわけ大きな存在だった年若き妻アルマ。そのアルマが精神的に離れていく哀しみのなかで書かれた《交響曲第10番》。

未完ではあっても後世の人々の努力によって全曲版が生まれた《交響曲第10番》。クック版を基礎としたながら研究され続け、現在も新しく生まれ変わっています。

「他人の手が加わっているから…」と言って全く聴かないのはもったいないのでは?

ぜひ一度全曲版も聴いてみてくださいね。

 

 

 そんなわけで…

 

『ひとつの曲で、

 

たくさんな、楽しみが満喫できる。

 

それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』

 

今回は、以上になります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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