澄みきった白…
清らかな静けさで
つむがれたレクイエム♫
- なぐさめ…
- 救い…
- 涼(すず)やかな透明感…
レクイエム(死者のためのミサ曲)にしては、
- 悲壮感の少なさ
- 究極なまでの純白さ
- そして、清らかな静けさ
に満ちた名曲です。
さて、今回は、そんなフォーレ《レクイエム》の歌詞の解説やおすすめ名盤を紹介です。
【解説】フォーレ:レクイエム
フォーレ《レクイエム》を紹介した、こんな解説があります。
古今東西の《レクイエム》のなかでも、フォーレのそれほど、優しさと慈愛に満ちた作品は他にないだろう。
グレゴリオ聖歌以来のカトリック教会の伝統と、フォーレ特有の抒情性が融合し、高雅で平安に満ちたこの曲は、神の深い愛情と、それを知る人間の感謝と信頼、そして安心感と深い幸福感が、全曲を支配している。ドラマティックなディエス・イレ(怒りの日)でさえ、フォーレの音楽は神の救済を信じさせてくれる。
レクイエムについて、フォーレはこのように語っています。
「レクイエムは、特定の人物や、あるいは出来事に関してのことを書いたわけではありません。それよりはむしろ、楽しみのためとでも言えましょうか…」。
しかし、作曲の前にはフォーレは父親を亡くしており、また作曲の最中には母親を亡くしています。
このことが、フォーレの《レクイエム》作曲に全く影響が無く、ただ「楽しみのため」だけの作曲であったのでしょうか。
もちろん、後世に生きる私たちには、もうフォーレの本心に迫る術はないわけなのだけれども…。
フォーレ《レクイエム》の当時の批評はあまり良いものではありませんでした。
初演を行ったマドレーヌ寺院の司祭からは「奇抜である」という印象を持たれます。
なぜなら、本来のレクイエムは「死の恐怖」が描かれることが通例であり、それが欠けているフォーレの《レクイエム》に対して、違和感を感じたことが原因です。
しかし、フォーレ自身の《レクイエム》、あるいは「死」というものに対する考えは明確でした。
それはフォーレの以下の言葉に表れています。
つまり、
「私にとって、死は苦しみというより、むしろ永遠の幸福と喜びに満ちた開放感に他ならないのです。」
と…。
終生、敬虔なカトリック信者であったフォーレです。
この《レクイエム》こそフォーレ自身の宗教的な告白であり、また感情でもあったのかなと思うのは、たぶん、私、アルパカだけではないのでは…?
また《レクイエム》といいますと3大レクイエムが有名ですが、その3曲とは、
- モーツァルト
- ヴェルディ
- そして、フォーレ
ですね。
聴き比べてみると、フォーレのレクイエムが、モーツァルトやヴェルディのレクイエムとは明らかに性格が違うことがわかります。
- 劇的というよりは瞑想的…。
- 悲しみというよりは平和的…。
そのような…「静けさを含んだ幸福」とも言えそうな印象を持ちます。
【歌詞と解説】フォーレ:レクイエム
それでは、各曲の歌詞と、曲そのももの解説をしていきます。
フォーレ《レクイエム》は、全7曲で成り立っています。
第1曲 入祭唱(イントロイトゥス)とキリエ
Requiem aeternam dona eis, Domine,
「主よ、世を去りしものたちに永遠の安らぎをお与えください」
et lux perpetua luceat eis.
「そして、彼らに絶えざる光が降りそそぎますように」
Te decet hymnus, Deus, in Sion,
「神よ、あなたは、こころ清き者において賛美されるものです」
et tibi reddetur votum in Jerusalem.
「そして、エルサレムにおいて、あなたへの誓いが捧(ささ)げられるでしょう」
Exaudi orationem meam,
「どうか私の祈りをお聞き届けください」
ad te omnis caro veniet.
「体を持つ者のすべてが、主のもとへと帰ることが出来ますように…」
Kyrie eleison.
「主よ、いつくしみをお与えください」
Christe eleison.
「キリストよ、いつくしみをお与えください」
Kyrie eleison.
「主よ、いつくしみをお与えください」
ドオオオオオ…♫
弦楽器の音にホルンとファゴットが絡みながら始まります。
そんな厳粛な響きの中に美しい合唱が加わります。
それに導かれるようにテノールが歌い始めると、そこにソプラノも混ざりフォーレ《レクイエム》の静かであり、また荘厳(そうごん)なる始まりを告げるのです。
曲は、入祭文(イントロイトゥス)から始まり、それが静かに終わると、そのまま静かに「キリエ」が歌われはじめます。
そして、そんな展開をしながら…フォーレ《レクイエム》の始まりの1曲が終わっていく…。
そんなフォーレ《レクイエム》始まりの1曲です。
第2曲 奉納唱(オッフェルトリウム)
O Domine Jesu Christe, rex gloriae,
「おお、主イエス・キリストよ、栄光の王よ」
libera animas defunctorum
「解き放ってください、世を去りし者の魂を」
de poenis inferni,
「黄泉(よみ)の世界の苦難から、」
et de profundo lacu.
「そして、深い淵から」
O Domine Jesu Christe, rex gloriae,
「おお、主イエス・キリストよ、栄光の王よ」
libera animas defunctorum de ore leonis,ne absorbeat Tartarus.
「世を去りし者を、獅子の口より救いたまえ、黄泉(よみ)の国へと、飲み込まれることがありませんように…」
O Domine Jesu Christe, rex gloriae,
「おお、主イエス・キリストよ、栄光の王よ」
ne cadant in obscurum.
「闇へと落ちることがありませんように…」
Hostias et preces tibi, Domine,
「捧(ささ)げものと祈りをあなたに…主よ」
laudis offerimus;
「(主よ)賛美をもって捧(ささ)げます」
tu suscipe pro animabus illis,
「主よ、お受け入れください、この世を去りし魂のために…」
quarum hodie memoriam facimus:
「私たちは今、その魂を、なつかしんでいるのです」
fac eas, Domine, de morte transire ad vitam.
「世を去りし魂をして、主よ、死を越えた本来の生命へと変化させたまえ」
Quam olim Abrahae promisisti,et semini ejus.
「それは、かつて、アブラハムとその子孫に約束されたことでもありました」
O Domine Jesu Christe, rex gloriae,
「おお、主イエス・キリストよ、栄光の王よ」
libera animas defunctorum,de poenis inferni, et de profundo lacu.
「世を去りし魂たちを、黄泉の国の苦難と深い淵から救いたまえ」
O Domine Iesu Christe, ne cadant in obscurum.
「おお、主イエス・キリストよ、闇へと落ちることがありませんように…」
Amen.
「アメーン」
弦楽器とともに合唱が歌うと、それに続いてオルガンが引き立てていきます。
- アルト
- テノール
- バリトン
が、祈りの歌を歌い…流れ…
そして、最後は、
- アーメン…♫
- アーメン…♫
- アーメン…♫
と、歌われて余韻を残しつつ、奉納唱(オッフェルトリウム)の歌は消え入っていきます。
第3曲 サンクトゥス(感謝の賛歌)
Sanctus, Sanctus, Sanctus Dominus Deus Sabaoth.
「聖なるかな…聖なるかな…聖なるかな…万軍の神なる、主よ」
Pleni sunt caeli et terra gloria tua.
「あなたの栄光は、天と地とに、満ちています」
Hosanna in excelsis.
「ホサナ(万歳)、いと高きところ、天において…」
聖なるかな…聖なるかな…聖なるかな… ♫
の静かな祈りが展開しますが、最後の方になりますと
ホサナ(万歳)…♫
と、音楽の勢いは一度、強まり感動的に展開します。
しかし、その勢いは続く長く続くことはなく、再び静けさを取り戻していきます。
第4曲 ピエ・イエズ(いつくしみ深いイエスよ)
Pie Iesu Domine, dona eis requiem.
「いつくしみ深き、主イエスよ、世を去りし全ての者に安らぎをお与えください」
フォーレ《レクイエム》の中でも印象的な1曲です。
ソプラノによる「透きとおった美しい祈り」が歌われます。
- 小さくて
- 繊細で
- そして、優しくて…♫
静かなフォーレ《レクイエム》の、静けさのもっとも深まった歌でもあります。
第5曲 アニュス・デイ(平和の賛歌)と拝領唱
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi, dona eis requiem.
「神の子ひつじ、世の罪を背負いたる主よ、かれらに安らぎを与えたまえ」
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi, dona eis requiem.
「神の子ひつじ、世の罪を背負いたる主よ、かれらに安らぎを与えたまえ」
Requiem aeternam dona eis, Domine,et lux perpetua luceat eis.
「神の子ひつじ、世の罪を背負いたる主よ、かれらに永遠の安らぎを与えたまえ」
Lux aeterna luceat eis, Domine.
「永遠の光が、彼らに照らしますように、主よ…」
Cum sanctis tuis in aeternum,
「常にあなたのそばにある、聖人たちとともに永遠に…」
quia pius es.
「なぜなら、あなたはいつくしみ深い方なのですから…」
Requiem aeternam dona eis, Domine,
「世を去りし者たちに永遠の安らぎを、お与えください、主よ…」
et lux perpetua luceat eis.
「そして、絶え間なく降りそそぐ光が、彼らを照らしますように…」
Cum Sanctis tuis in aeternum:quia pius es.
「永遠の光でかれらを照らしてください、主よ、あなたの聖人たちといつまでも、なぜならあなたはいつくしみ深い方です」
Requiem aeternam dona eis, Domine,et lux perpetua luceat eis.
「主よ、永遠の安らぎを死者に与えてください。そしてと永遠の光でかれらを照らしてください」
悲劇性を秘めながら展開する1曲です。
しかし、あまり深刻になりすぎることはありません。
第6曲 リベラ・メ(わたしをお救いください)
Libera me, Domine, de morte aeterna in die illa tremenda:
「私をお救いください、主よ、あの永遠の死による恐ろしい日より…」
Quando caeli movendi sunt et terra:Dum veneris iudicare saeculum per ignem.
「その時、天と地は震え…おののき…そして、あなたは来られる、火によりて世を裁くがために…」
Tremens factus sum ego et timeo,dum discussio venerit atque ventura ira.
「私は、おののき、震えています、その裁きの時におとずれる怒りを思う…その間に…」
Dies illa, Dies irae,calamitatis et miseriae,dies illa, dies magna et amara valde.
「その日、怒りの日、災いと不幸せ、大きな悲惨の日」
Requiem aeternam dona eis, Domine,
「永遠の安らぎを、お与えください、世を去りし者へ…主よ…」
et lux perpetua luceat eis.
「そして、絶え間なく降りそそぐ光が、彼らを照らしますように…」
Libera me, Domine, de morte aeterna. in die illa tremendae:
「私を解き放ちたまえ、主よ、永遠の死の淵から…」
in die illa tremendae:
「その時、天と地は震えおののき」
Dum veneris iudicare saeculum per ignem.
「あなたは火の力によって、世を裁くために来られる」
Libera me, Domine.
「私を解き放ちたまえ、主よ」
バリトンの美しい低音による独唱が印象的で、切々と歌い上げていきます。
死を迎えることの
- 恐れ
- 不安
- おののき
そんな感情を歌いながら、魂が解き放たれることを願う気持ちが「歌と音楽」に表れています。
第7曲 イン・パラディズム(楽園に)
In paradisum deducant angeli:
「天使たちが、楽園へ向けて、導きますように…」
in tuo adventu suscipiant te martyres,
「殉教者たちが、あなたのたどり着いたときに迎え入れられますように…」
et perducant te in civitatem sanctam Jerusalem.
「そしてあなたを聖なる都、エルサレムへとご案内させていただけますように…」
Chorus angelorum te suscipiat,
「歌い、舞い踊る天使たちが、あなたを迎え、」
et cum Lazaro quondam paupere aeternam habeas requiem.
「そして、かつては貧しかったラザロとともに、永遠のやすらぎを、得られますように…」
- 清くて
- 明るくて
- 澄みきっている
そんな「素朴な美しさと光」に満ち満ちた1曲です。
まさしく聴いていてイメージとして見えてくるのは、燦々(さんさん)と降りそそぐ優しい光の中を白くてきれいな羽の生えた天使たちが喜んでいる。
そんな印象です。
フォーレ《レクイエム》の最後の曲にふさわしく、また心安らぐ天国の風景を歌った曲という感想をもちます。
【3選の名盤の感想と解説】フォーレ:レクイエム
ミシェル・コルボ:指揮 ベルン交響楽団
サン・ピエール=オー=リアン・ド・ビュル聖歌隊
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
数は少ないけれども「永遠の名盤」と言っていい…そんな「名盤」というのはあるのかもしれないなと思うことがあります。
そのひとつがミシェル・コルボの指揮するフォーレ《レクイエム》です。
初めて聴いた時の
- 静謐(せいひつ)さ
- 敬虔さ
- 瞑想感
この「深くて清冽な泉のようなきらめき」はフォーレ《レクイエム》のひとつの極みと言っても過言ではないかもしれません。
普段、正式な場で演奏することのない小さな聖歌隊を起用しています。
とくにボーイソプラノのアラン・クレマンの歌う「ピエ・イエズ」はまさしく天国のような美しさ。
聖書にある「心、入れかえ、幼子(おさなご)のようでなければ天国の門は開かない」という言葉をそのまま音楽として昇華したような名盤のように感じます。
ミシェル・コルボは本名盤を含めて4回、フォーレ《レクイエム》を録音していますが、この名盤はその1回目、1972年の録音盤です。
アンドレ・クリュイタンス:指揮 パリ音学院管弦楽団
エリザベート・ブラッスール合唱団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
「定番」と言っていいくらいの「名盤」です。
なにせ独唱が
- 名ソプラノ「ビクトリア・デ・ロスアンヘレス」
- 比類なき王者、バリトンの「フィッシャー・ディースカウ」
なのですから、その美しさに舌を巻きます。
コルボのフォーレ《レクイエム》が「敬虔さ」が特徴であるならばクリュイタンスのフォーレ《レクイエム》は「荘厳さ…」。
そんな印象を受けたものです。
聴き比べをするには、このクリュイタンス盤とコルボ盤で行うといいですね。
これほど趣きって変わるのだなあと思い、感動も新たになります。
サー・コリン・デイヴィス:指揮 シュターツカペレ・ドレスデン
ルチア・ポップ(ソプラノ)&ライプツィヒ放送合唱団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
なかなか名盤としての紹介がされない1枚ですが、アルパカはけっこう好きな名盤です。
サー・コリン・デイヴィスの指揮する演奏は抑揚の少ない淡々としたしたものですが、何とも言えない深い味わいと透明感を感じます。
その深い味わいを引き出しているのはシュターツカペレ・ドレスデンのドイツ的な響きがそう感じさせるのかもしれません。
そして、この演奏の中で「柔らかくも明るい光」を感じさせるのがソプラノのルチア・ポップ の美声です。
この癒しの1曲とも言えるフォーレ《レクイエム》における「聖母マリアの慈しみ」的な側面を感じる名盤となっていることが嬉しいですね。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【まとめ】フォーレ:レクイエム
さて、フォーレ《レクイエム》の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
- なぐさめ…
- 救い…
- 涼(すず)やかな透明感…
そんな要素を感じる、悲劇的な感情に流されすぎない「癒しのミサ曲」フォーレ《レクイエム》です。
- 祈り
- 瞑想
- いつくしみ…
せわしく時間の流れ去る現代の中で「自分を見失いそう…」そんな瞬間は誰もが経験することでしょう。
そんな不安と焦燥感にさいなまれた時に思い出したい曲が、フォーレ《レクイエム》ですね。
静かな時間をとって、フォーレ《レクイエム》が表現する世界へと心を飛翔させたいものです。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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