悲しみと内省
激しさ、静けさ、
清らなる…愛
《ヨハネ受難曲》は劇的。
始まりは聖書のラストシーン。
そして、歌で紡がれていくイエスの物語。
さて、今回は、バッハ《ヨハネ受難曲》の解説とおすすめ名盤を紹介です。
- 【解説】バッハ《ヨハネ受難曲》
- 【歌詞を解説】バッハ《ヨハネ受難曲》
- 第1部 第1〜14曲
- 第2部 第15〜40曲
- 【2選の名盤の感想と解説】バッハ《ヨハネ受難曲》
- 【まとめ】バッハ《ヨハネ受難曲》
【解説】バッハ《ヨハネ受難曲》
作曲背景を解説
バッハ《ヨハネ受難曲》のこんな解説があります。
この受難曲は、ヨハネによる福音書の記述にしたがってキリストの受難の物語が歌われてゆくものです。よく、ヨハネ受難曲とはヨハネの受難の音楽というように思っておられる方に出会いますので、いちおう念のために。(中略)ヨハネ受難曲の規模はややマタイ受難曲におとるところがありますが、そのふかい内省、劇的効果などでマタイ(受難曲)とはちがった世界をきりひらいていて、独特です。事実、マタイよりもこのヨハネの方が好きだという人びとが、わたくしの周囲にはすくなくありません。
出典:皆川達夫 著 「バロック名曲名盤100」P180より引用
1723年、バッハがケーテンからライプツィヒに移った頃に作曲されました。
初演は1724年4月7日でしたが、その後1749年までに4回の大幅な改定(1725年、32年、39年、49年)を行いながら完成しています。(現在、最も演奏回数が多いのは49年版)
解説にありますようにバッハの最高傑作と言われることの多い《マタイ受難曲》に比べますと規模は小さいものの「内省的である」という特徴があります。
《ヨハネ受難曲》のベースになっている新約聖書の4大福音書の中の「ヨハネの福音書」は、他の3つの福音書にはない要素が強いです。
どの福音書も「物語」としての要素があるものの、特に「ヨハネの福音書」に強く見られる要素が哲学性や教義性とも言えるものです。
- 信じるということ
- 十字架の意味
- 神への愛
- 隣人への愛
- イエスの贖(あがな)い
- 聖霊の働き
つまり、解説にありますように「ふかい内省、劇的効果」があるわけです。
そんなすばらしい福音書のひとつである「ヨハネの福音書」をもとにバッハは受難曲を作曲したわけです。
「ああ、バッハ生前の当時の教会において、バッハが作曲し奏でる《ヨハネ受難曲》を聴いていた参列者、信仰者のなんとも幸福であったことでしょう…」
付記しておきますが《ヨハネ受難曲》には「マタイによる福音書」からの引用も2箇所ほど見られます。
- 第1部の終わり
ペテロが、3度も「イエスを知らない」と否定した後、深く過ちを悟って泣きくずれる場面(マタイによる福音書 26章75節) - 十字架上のイエスの命が絶たれた瞬間に起きた神殿の幕まくが2つに裂け、地は揺れ岩が裂けた現象を描いた場面(マタイによる福音書 26章75節)
このことによって《ヨハネ受難曲》の劇的な要素は度合を増し聴くものを深い感動へと誘うわけなのです。
初演:
1724年4月7日
編成:
フルート2、オーボエ2(オーボエ・ダモーレとオーボエ・ダ・カッチャ持替え)、ファゴット、弦5部、ヴィオラ・ダモーレ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、通奏低音(オルガン、チェンバロ)、混声合唱
ソリスト:
ソプラノ、アルト、テノール(福音史家)、バス(イエス)、バス(ピラト・ペテロ)
【歌詞を解説】バッハ《ヨハネ受難曲》
バッハ《ヨハネ受難曲》は2部構成の全40曲で成り立っています。
本記事では下記の通りにトピックを区切って歌詞を紹介します。
第1部
合唱(第1曲)
イエスの捕縛(第2〜7曲)
ペテロの否認(第8〜14曲)
第2部
ピラトの尋問(第15〜20曲)
判決(第21〜26曲)
十字架と死(第27〜32曲)
遂げられた安息(第33〜40曲)
※表記として以下のように記載しておきます
- レチタティーヴォは【レ】
- レチタティーヴォ・アコンパニャート(伴奏付きレチタティーボ)は【レ・ア】
- コラールは【コ】
第1部 第1〜14曲
|合唱|(第1曲)
第1曲【合唱】
歌詞:
Herr, unser Herrscher, dessen Ruhm
主よ、私たちを治めたる主よ、あなたのほまれは
In allen Landen herrlich ist!
地に輝き、満ちています!
Zeig uns, durch deine Passion,
あなたの受難を通してお示しください
Daß du, der wahre Gottessohn,
まことの神の子であるあなたが
Zu aller Zeit,
いついかなる時にも
Auch in der größten Niedrigkeit,
さげすみの底にあっても
Verherrlicht worden bist!
栄えある光に満たされていたことを
|イエスの捕縛|(第2〜7曲)
第2曲a【レ】
歌詞:
Jesus ging mit seinen Jügern
イエスは弟子たちとともにに、
über den Bach Kidron.
ケデロンの谷の向こう側へ出て行かれた。
da war ein Garten,
そこには園があり、
darein ging Jesus und seine Jünger.
イエスは弟子たちとその中に入られた。
Judas aber der ihn verriet,
イエスを裏切ろうとしていたユダも、
wußte den Ort auch,
その場所を知っていた。
denn Jesus versammlete such oft daselbst mit seinen Jüngern.
イエスは弟子たちとともに、いくどもここに集まられたからである。
Da nun Judas zu sich hatte genommen die Schar
それでユダは、一部隊の兵士と、
und der Hohenpriester
大祭司連
und Pharisäer Diener,
およびパリサイ人から遣わされた
kommt er dahin mit Fackeln.
Lampen und mit Waffen.
ともし火や武器を手にしていた。
Als nun Jesus wußte alles, was ihm begegnen sollte,
イエスは自身に起こることを何もかも全てを知っておられ
ging er hinaus und sprach zu ihnen:
園から出てきて言われた。
JESUS: Wen suchet ihr?
イエス:
「 だれを捜しているのか?」
Sie antworteten ihm:
彼らが答えた。
第2曲b【合唱】
Jesum von Nazareth.
ナザレのイエスを。
第2曲c【レ】
Jesus spricht zu ihnen:
イエスは言われた。
JESUS: Ich bin's.
「私である」。
Judas aber, der ihn verriet, stund auch bei ihnen.
イエスを裏切ろうとしていたユダも一緒にいた。
Als nun Jesus zu ihnen sprach: Ich bins, wichen sie zurücke und fielen zu Boden. Da fragete er sie abermal:
イエスが「わたしである」と言われたとき、彼らは退きつつ地面に倒れた。
そこで、イエスが再びおたずねになった。
JESUS: Wen suchet ihr?
「だれを捜しているのか?」
Sie aber sprachen:
彼らが答えた。
第2曲d【合唱】
Jesum von Nazareth.
ナザレのイエスを。
第2曲e【レ】
歌詞:
Jesus antwortete:
すると、イエスは言われた。
JESUS: Ich habs euch gesagt, daß ichs sei,
「私である」と言った。
suchet ihr denn mich, so lasset diese gehen!
もし私を捜しているのなら、 この人たちには手を触れぬよう!
第3曲【コ】
歌詞:
O große Lieb, o Lieb ohn alle Maße.
おお、大いなる愛、果てしなき愛よ!
Die dich gebracht auf diese Materstaße!
その愛が、あなたを苦難の道へと招いたのです。
Ich lebte mit der Welt in Lust und Freuden.
私は、この世において楽しみを持って生きていましたのに
Und du mußt leiden!
しかし、あなたが苦しみを引き受けねばならないとは!
第4曲【レ】
歌詞:
Auf daß das Wort erfüllet, welches er sagte:
福音史家 :
それは、かつてイエスの言われた言葉が、実現されるためであった。つまり、
Ich habe der keine verioren, die du mir gegeben hast.
「あなたが与えて下さった人を、私はひとりも失いませんでした」と。
Da hatte Simon Petrus ein Schwert
シモン・ペテロは剣を持っていたので
und zog es aus
それを抜いて
und schlug nach des Hohenpriesters Knecht.
大祭司の手下に襲いかかり、
und hieb ihn sein recht Ohr ab:
右の耳を切り落とした
und der Knecht hieß Malchus.
手下の名をマルコスと言った。
Da sprach Jesus zu Petro:
イエスはペテロに言われた。
JESUS: Stecke dein Schwert in die Scheide!
イエス:
「剣をさやに納めなさい!」
Soll ich den Kelch nicht trinken, den mir mein Vater gegeben hat?
「杯は飲むべきではないか、天の父が、私にお与えになったのだから。」
第5曲【コ】
歌詞:
Dein Will gescheh, Herr Gott, zugleich
主なる神よ、あなたの御心が行われますように
Auf Erden wie im Himmelreich.
天国と同じく、この地上においても…。
Gib uns Geduld in Leidenszeit,
苦しみの時には、それを乗り超える耐え忍びの徳をお与え下さい。
Gehorsam sein in Lieb und Leid;
愛においても、苦しみにおいても、御心に献身できますように。
Wehr und steur allem Fleisch und Blut,
どうかその御心に従おうとせぬ血と肉から、私たちを守りお導きください。
Das wider deinen Willen tut!
それがあなたの御心に背くならば…。
第6曲【レ】
歌詞:
福音史家:
Die Schar aber und der Oberhauptmann
そこで一隊の兵士と千人隊長、
und die Diener der Jüden nahmen Jesum
およびユダヤの下役たちはイエスを捕らえて
und bunden ihn,
縛り上げ、
und führeten ihn aufs erste zu Hannas,
はじめにアンナスのところに連れていった。
der war Kaiphas Schwäher,
アンナスは、その年の大祭司カイアファの
welcher des Jahres Hoherpriester war.
義理の父であり、いわば相談役だったからである。
Es war aber Kaiphas, der den Jüden riet,
このカイアファは、以前ユダヤ人たちにこう助言していた。
es wäre gut, dass ein Mensch würde umbracht für das Volk.
「一人の人間が、全ての民のために殺されて死ぬほうが賢明な方策だ」と。
第7曲【ア(アルト)】
歌詞:
Von den Stricken meiner Sünden
私の犯した罪の縄目から
mich zu entbinden,
私を解放するために
wird mein Heil gebunden.
私の救い主は縄に縛られたのです。
Mich von allen Lasterbeulen
私の心を侵し尽くす悪の病
völlig zu heilen,
これを癒やすために…
Läßt er sich verwunden.
あの方は傷の痛みを受けられた。
|ペテロの否認|(第8〜14曲)
第8曲【レ】
歌詞:
Simon Petrus aber folgete Jesu nach
シモン・ペトロと、もうひとりの弟子は
und ein ander Jünger.
イエスについて行った。
第9曲【ア(ソプラノ)】
歌詞:
Ich folge dir gleichfalls,
私も、あなたについて行きます
mein Heiland,
私の主よ
mit Freuden und lasse dich nicht,
喜び勇んだ足どりで、
mein Heiland, mein Licht.
私の救い主であり、私の光。
Mein sehnlicher Lauf
私の歩みゆく道を示し、励ましてください
Hört eher nicht auf,
決して、立ち止まることはありません。
Bis daß du mich lehrest geduldig zu leiden.
苦しみの耐え忍びの中、どうか後押ししてお導きください。
第10曲【レ】
歌詞:
福音史家:
Derselbige Jünger war
このもう一人の弟子は
dem Hohenpriester bekannt
大祭司と知り合いであったので
und ging mit Jesu hinein
イエスとともに
in des Hohenpriesters Palast.
大祭司の官邸の中庭へと入った。
Petrus aber stund draußen für der Tür.
ペテロは門の外に立っていた。
Da ging der andere Jünger,
そこに、大祭司の知り合いの
der dem Hohenpriester bekannt war,
もうひとりの弟子が出てきて
hinaus und redete mit der Türhüterin
門番の女に話し、
und führete Petrum hinein.
ペテロを中へと招き入れた。
Da sprach die Magd, die Türhüterin, zu Petro:
その時、門番の女はペテロに言った。
Bist du nicht dieses Menschen Jünger einer?
「あら、あなたもあの人の弟子じゃないの?」
福音史家:
ペテロは言った
Ich bin's nicht.
「いいえ、弟子ではありません!」
福音史家:
Es stunden aber die Knechte und Diener
大祭司の下男や下役たちは寒かったので
und hatten ein Kohlfeu'r gemacht
(denn es war kalt) und wärmeten sich.
炭火をおこして暖まっていた。
Petrus aber stund bei ihnen und wärmete sich.
ペテロも彼らと一緒に暖まった。
Aber der Hohepriester fragte Jesum
大祭司はイエスに
um seine Jünger und um seine Lehre.
彼の弟子のことや彼の教えについて尋ねた。
Jesus antwortete ihm:
イエスは彼にお答えになった。
イエス:
Ich habe frei, öffentlich geredet für der Welt.
「私は多くの人たちに向かい、包み隠さずに語ってきた。
Ich habe allezeit gelehret in der Schule
私はいつも、ユダヤ人が集まる会堂や、
und in dem Tempel,
神殿の境内で教えており、
da alle Jüden zusammenkommen,
und habe nichts im Verborgnen geredt.
何一つ、こっそり隠れて語ったことなどはない。
Was fragest du mich darum?
今ごろになって、なぜその様なことを尋ねるのか?
Frage die darum, die gehöret haben,
私が彼らに語ったことは、
was ich zu ihnen geredet habe!
それを聞いた人たちに尋ねればよいことだ。
Siehe, dieselbigen wissen, was ich gesaget habe.
なぜならば、その人たちこそ、私の語ったことを知る者たちなのだか
ら。」
福音史家:
Als er aber solches redete,
イエスがそう語られたとき
gab der Diener einer, die dabeistunden,
そこにいた下役の者が
Jesu einen Backenstreich und sprach:
イエスに平手打ちをし、言った。
下役:
Solltest du dem Hohenpriester also antworten?
「大祭司に向かってなんという口の利き方だ?」
福音史家:
Jesus aber antwortete:
イエスが答えた
イエス:
Hab ich übel geredt,
「私が何か悪しきことを語ったならば
so beweise es, dass es böse sei,
その悪しきところを指摘しなさい
hab ich aber recht geredt,
もし、私が正しきことを語ったならば、
was schlägest du mich?
なぜ私を打つのか?」
第11曲【合唱】
歌詞:
Wer hat dich so geschlagen,
誰があなたを、ひどく打つのでしょうか。
Mein Heil, und dich mit Plagen
私の救い主よ、誰があなたを苦しめ
So übel zugericht'?
こんなにもひどい仕打ちを、浴びせるのでしょうか。
Du bist ja nicht ein Sünder
あなたは決して罪人などではありません。
Wie wir und unsre Kinder,
Von Missetaten weißt du nicht.
私たちや、私たちの子供と違い、
あなたに悪事など知るよしもありますまいに…。
Ich, ich und meine Sünden,
私です、私の罪なのです。
Die sich wie Körnlein finden
浜辺の無数の砂つぶのように
Des Sandes an dem Meer,
無数に広がる私たちのこの罪が
Die haben dir erreget
あなたを追いやってしまうのです、
Das Elend, das dich schläget,
あなたを打ち砕く悲しみと、
Und das betrübte Marterheer.
多くの責めさいなみへと。
第12曲a【レ】
歌詞:
福音史家:
Und Hannas sandte ihn gebunden
アンナス(大祭司カイアファの義理の父)は、
イエスを縛ったままで
zu dem Hohenpriester Kaiphas.
大祭司カイアファのもとへと送った。
Simon Petrus stund und wärmete sich,
そこでシモン・ペテロは立ち、暖をとっていた。
da sprachen sie zu ihm:
人びとは彼に言い放った。
第12曲b【合唱】
歌詞:
Bist du nicht seiner Jünger einer?
「お前もあの男の弟子のひとりではなかったか?」
第12曲c【レ】
歌詞:
福音史家:
Er leugnete aber und sprach:
ペトロは振り払うように言った。
ペテロ:
Ich bin's nicht.
「いや違う、私はではない!」
福音史家:
Spricht des Hohenpriesters Knecht' einer,
大祭司の下役のひとりが言った。
ein Gefreundter des, dem Petrus
彼は、ペテロに片方の耳を切り落とされた兵士の
das Ohr abgehauen hatte:
身内であった。
下役:
Sahe ich dich nicht im Garten bei ihm?
「園でお前があの男と一緒に居るのを、俺に見られたではないか?」
福音史家:
Da verleugnete Petrus abermal,
ペテロは再び振り払うように否認した。
und alsobald krähete der Hahn.
すると、間もなく鶏が鳴いた。
Da gedachte Petrus an die Worte Jesu
ペテロはハッとなり、イエスの言葉を思い出した。
und ging hinaus und weinete bitterlich.
そして、外へ飛び出し、さめざめと泣き崩れた。
第13曲【ア(テノール)】
歌詞:
Ach, mein Sinn,
ああ、私の心…、
wo willt du endlich hin,
どこへ逃れようとしているのか、
Wo soll ich mich erquicken?
どこへ行けば、安らぎを取り戻すことができるのか?
Bleib ich hier, oder wünsch ich mir
ここにいるか、または、この背中に
Berg und Hügel auf den Rücken?
山や丘をこの背に負うことを望むのか?
Bei der Welt ist gar kein Rat,
どこへ行ってもしかたなく、
und im Herzen stehn die Schmerzen
私の心は、罪の痛みと苦悩とが
meiner Missetat,
ただ、あるばかり。
Weil der Knecht den Herrn verleugnet hat.
私自身の主のことを、知らぬと言って否認してしまったのだから…。
第14曲【合唱】
歌詞:
Petrus, der nicht denkt zurück,
ペテロは、主のみ言葉を思い出すことはなく、
Seinen Gott verneinet,
神を否認してしまい、
Der doch auf ein' ernsten Blick
それでもなお、主の慈しみのまなざしに触れて
Bitterlichen weinet.
さめざめと泣き崩れた。
Jesu, blicke mich auch an,
イエスよ、私にもその慈しみのまなざしをお与え下さい。
Wenn ich nicht will büßen;
私が悔い改めをしないときは
Wenn ich Böses hab getan,
私が悪いことを行いし時は、
Rühre mein Gewissen!
どうか、私の良心を揺るがして下さい。
第2部 第15〜40曲
|ピラトの尋問|(第15〜20曲)
第15曲【合唱】
歌詞:
Christus, der uns selig macht,
キリストは、私たちを幸福へと導いて下さる方、
Kein Bös' hat begangen,
悪いことをされることは何もなく、
Der ward für uns in der Nacht
真夜中、私たちの身代わりとして、
Als ein Dieb gefangen,
盗人のように捕えられてしまった。
Geführt für gottlose Leut
神を恐れることを知らぬ人びとの前へと引き出され、
Und fälschlich verklaget,
偽りの罪にて訴えられて、
Verlacht, verhöhnt und verspeit,
あざけられ、はずかしめられて、唾、吐かれ、
Wie denn die Schrift saget.
そう、聖書に書かれているように…。
第16曲a【レ】
歌詞:
福音史家:
Da führeten sie Jesum von Kaiphas
さて、人びとはイエスをカイアファのところから
vor das Richthaus, und es war frühe.
総督官邸へと連れて行った。
Und sie gingen nicht in das Richthaus,
それは明け方ごろのことであった。
auf dass sie nicht unrein würden,
しかし、彼らは自分からは官邸に入らなかった。
sondern Ostern essen möchten.
(異教の家に入ることで)汚れることを避けた上で、
過越しの食事をするためである。
Da ging Pilatus zu ihnen heraus und sprach:
ピラトが彼らのところに出てきて言った。
ピラト:
Was bringet ihr für Klage wider
「いかなる罪で
diesen Menschen?
この男を訴えるのか?」
福音史家:
Sie antworteten und sprachen zu ihm:
彼らは答えて、ピラトに言った。
第16曲b【合唱】
歌詞:
Wäre dieser nicht ein Übeltäter,
「この男が悪事を働いていないのに、
wir hätten dir ihn nicht überantwortet.
あなたに引き渡したりはしません。」
第16曲c【レ】
歌詞:
福音史家:
Da sprach Pilatus zu ihnen:
ピラトは彼らに言った。
ピラト:
So nehmet ihr ihn hin
「それならば、お前たちが引き取って
und richtet ihn nach eurem Gesetze!
自分たちの立法で裁いた方がいいだろう?」
福音史家
Da sprachen die Jüden zu ihm:
ユダヤ人たちは答えた。
第16曲d【レ】
歌詞:
Wir dürfen niemand töten.
「私たちには、人を死刑にする権限がありません。」
第16曲e【レ】
歌詞:
福音史家:
Auf dass erfüllet würde das Wort Jesu,
これは、かつてイエスが語った言葉が実現するためであった。
welches er sagte, da er deutete,
その語った言葉により、
welches Todes er sterben würde.
イエスご自身がどのような形で死を遂げるかを示したのであった。
Da ging Pilatus wieder hinein in das Richthaus
そこでピラトは再び官邸に入り
und rief Jesu und sprach zu ihm:
イエスを呼び寄せて言った。
ピラト:
Bist du der Jüden König?
「お前はユダヤ人の王なのか?」
福音史家
Jesus antwortete:
イエスはお答えになった。
イエス:
Redest du das von dir selbst,
「あなたが、自分自身の考えからそう言うのか?
oder haben's dir andere von mir gesagte
それとも、誰か他の人が私のことをそのように語ったのか?」
福音史家
Pilatus antwortete:
ピラトが答えた。
ピラト :
Bin ich ein Jüde?
「私をユダヤ人とでも思っているのか、一緒するな。
Dein Volk und die Hohenpriester
お前らの代表者や祭司長たちが
haben dich mir überantwortet;
お前を私に引き渡したのだ。
was hast du getan?
お前はいったい何をしでかしたのだ?」
福音史家:
Jesus antwortete:
イエスはお答えになった。
イエス:
Mein Reich ist nicht von dieser Welt;
「私の国はこの世のものではない。
wäre mein Reich von dieser Welt,
もしも私の国が、この世のものであるならば、
meine Diener würden darob kämpfen,
私の仲間たちが、ともに戦ったことだろう、
dass ich den Jüden nicht überantwortet würde;
ユダヤ人たちに、私が引き渡されることがないように。
aber nun ist mein Reich nicht von dannen.
しかし、私の国は、この世のものではない。」
第17曲【合唱】
歌詞:
Ach großer König, groß zu allen Zeiten,
ああ、偉大なる王、いつの世においても偉大なる王よ。
Wie kann ich gnugsam diese Treu ausbreiten?
この真実を、いかに広めたらよろしいのでしょうか?
Keins Menschen Herze mag indes
人間の心では、思い致すすべなどありません、
ausdenken, Was dir zu schenken.
あなたの憐れみに対して、
Ich kann's mit meinen Sinnen nicht erreichen,
何かを捧げるなどと。
Womit doch dein Erbarmen zu vergleichen.
どのように、あなたの愛の行いに対して、
Wie kann ich dir denn deine Liebestaten Im Werk erstatten?
報いることができましょうか?
第18曲a【レ】
歌詞:
福音史家:
Da sprach Pilatus zu ihm:
そこでピラトは言った。
ピラト:
So bist du dennoch ein König?
「ではやはり、お前は王なのだな?」
福音史家:
Jesus antwortete:
イエスはお答えになった。
イエス
Du sagst's, ich bin ein König.
「私は王であるという言うのは、あなたの意見、
Ich bin dazu geboren und in die Welt kommen,
ただ、私が生まれて、この世に来たりしは、
daß ich die Wahrheit zeugen soll.
真理について証を立てるためである。
Wer aus der Wahrheit ist,
真理に親しむ心ある人たちは、
der höret meine Stimme.
皆、私の言うことを理解するはずである。」
福音史家:
Spricht Pilatus zu ihm:
ピラトはイエスに言った。
ピラト:
Was ist Wahrheit?
「真理とはいかなるものか?」
福音史家:
Und da er das gesaget,
こう言ってからピラトは、
ging er wieder hinaus zu den Jüden
もう一度ユダヤ人の所に出てきて
und spricht zu ihnen:
彼らに言った。
ピラト:
Ich finde keine Schuld an ihm.
「私にはこの男が、罪びととは思えない。
Ihr habt aber eine Gewohnheit,
ところで、過越しの祭の時は、習わしとして
daß ich euch einen losgebe; wollt ihr nun,
誰かひとりに許しを与えることになっている。
daß ich euch der Jüden König losgebe?
私が、このユダヤ人の王を釈放するか?」
福音史家
Da schrieen sie wieder allesamt und sprachen:
すると彼らは、一斉に叫んで答えた。
第18曲b【合唱】
歌詞:
Nicht diesen, sondern Barrabam!
その男ではなく、バラバの釈放を!
第18曲c【レ】
歌詞:
福音史家:
Barrabas aber war ein Mörder.
バラバは強盗犯であった。
Da nahm Pilatus Jesum und geißelte ihn.
そして、ピラトはイエスを捕らえ、鞭で打たせた。
第19曲【アリオーソ(バス)(レチタティーボ風アリア)】
歌詞:
Betrachte, meine Seel, mit ängstlichem Vergnügen,
よく見つめなさい、わが魂よ、不安に覆われた喜びと
mit bittrer Lust und halb beklemmtem Herzen
苦みを帯びた喜びと、半ばふさがれたその心、
dein höchstes Gut in Jesu Schmerzen,
見よ、イエスの苦しみ、中にある、至福にいたるその宝、
Sieh hier auf Ruten, die ihn drängen,
イエスをつき刺す茨の中に
vor deine Schuld den Isop blühn
罪の浄めのヒソプ咲く、
und Jesu Blut auf dich zur Reinigung versprengen,
主の受けられた苦汁から、たくさんの幸福の果実が摘みとれる。
drum sieh ohn Unterlaß auf ihn!
それゆえに、いついかなる時であれ、イエスを見つめ続けなさい。
第20曲【ア(テノール)】
歌詞:
Erwäge, wie sein blutgefärbter Rücken
思いを寄せよう、血に染められた主の背中、
In allen Stucken
それが、全てにおいて、
Dem Himmel gleiche geht,
天の如き尊さを表しているかを、
Daran, nachdem die Wasserwoge
私たちの罪の洪水によって起こった大波が、
Von unsrer Sündflut sich verzogen,
去った後に、
Der allerschonste Regenbogen
神の恵みのみわざの表れとして、
Als Gottes Gnadenzeichen steht !
この上もなく美しい虹となって、かかっている!
|判決|(第21〜26曲)
第21曲a【レ】
歌詞:
福音史家:
Und die Kriegsknechte flochten
兵士たちは茨で
eine Krone von Dornen
王冠を編み、
und satzten sie auf sein Haupt
これをイエスの頭の上に乗せた。
und legten ihm ein Purpurkleid an und sprachen:
そして、紫色の上着を着せて、王位を授けて言った。
第21曲b【合唱】
歌詞:
Sei gegrüßet, lieber Jüdenkönig!
「ユダヤ人の王、万歳!」
第21曲c【レ】
歌詞:
福音史家:
Und gaben ihm Backenstreiche.
そう言いながら、イエスを平手で打った。
Da ging Pilatus wieder heraus
ピラトは再び出てきて
und sprach zu ihnen:
人びとに言った。
ピラト:
Sehet, ich führe ihn heraus zu euch,
「あの男をお前たちのところに連れ出すから、よく見なさい。
daß ihr erkennet, daß ich keine Schuld an ihm finde.
そうすれば、あの男には罪がないということが、お前たちにわかるだろう。」
福音史家
Also ging Jesus heraus
するとイエスが
und trug eine Dornenkrone und Purpurkleid.
茨の冠をかぶり、(王の象徴の色)紫の上着を着て外に出てきた。
Und er sprach zu ihnen:
そしてピラトは彼らに言った。
ピラト:
Sehet, welch ein Mensch!
「見なさい!この男だ。」
福音史家:
Da ihn die Hohenpriester
祭司長や下役たちは
und die Diener sahen, schrieen sie und sprachen:
イエスを見て叫んだ。
第21曲d【合唱】
歌詞:
Kreuzige, kreuzige!
「十字架につけろ、十字架につけろ!」
第21曲e【レ】
歌詞:
福音史家:
Pilatus sprach zu ihnen:
ピラトは彼らに言った。
ピラト:
Nehmet ihr ihn hin und kreuziget ihn;
「お前たちが引き取って十字架につけるがよかろう、
denn ich finde keine Schuld an ihm!
私には、この男が罪びととは思えない。」
福音史家:
Die Jüden antworteten ihm:
ユダヤ人たちは答えた
第21曲f【合唱】
歌詞:
Wir haben ein Gesetz,
「私たちには律法があります。
und nach dem Gesetz soll er sterben;
律法によれば、この男は死罪にあたります。
denn er hat sich selbst zu Gottes Sohn gemacht.
なぜなら、この男は自ら神の子と称したからです。」
第21曲g【レ】
歌詞:
福音史家:
Da Pilatus das Wort hörete,
ピラトは、彼らの(神の子という)言葉を聞いて
fürchtet' er sich noch mehr,
ますます気味が悪くなり、
und ging wieder hinein in das Richthaus,
もう一度、総督官邸に戻り、
und spricht zu Jesu:
イエスに言った。
ピラト:
Von wannen bist du?
「お前はいったいどこから来た人間なのか?(天なる父より使わされたのか)」
福音史家:
Aber Jesus gab ihm keine Antwort.
しかし、イエスはお答えにならなかった。
Da sprach Pilatus zu ihm:
そこで、ピラトはイエスに言った。
ピラト:
Redest du nicht mit mir ?
「私とは、口を利かないつもりか?
Weißest du nicht, dass ich Macht habe,
知らないわけではないだろう?
dich zu kreuzigen, und Macht habe, dich loszugehen ?
私には、お前を十字架につける権限とともに、釈放する権限をも持っている。」
福音史家:
Jesus antwortete:
イエスはお答えになった。
イエス:
Du hättest keine Macht über mich,
「あなたが、神から与えられているのでなければ、
wenn sie dir nicht wäre von oben herab gegeben;
私に対して、何の権限も持ち合わせない。
darum, der mich dir überantwortet hat,
だから、私をあなたに売った者(信仰者)たちの罪は
der hat's größ're Sünde.
あなたのよりも、もっと重い。」
福音史家:
Von dem an trachtete Pilatus, wie er ihn losließe.
これを聞いたピラトは(恐ろしくなり)イエスを釈放しようと努力した。
第22曲【合唱】
歌詞:
Durch dein Gefängnis, Gottes Sohn,
神の子よ、あなたが捕らわれたことにより、
Muß uns die Freiheit kommen;
私たちは、解き放たれることができました。
Dein Kerker ist der Gnadenthron,
あなたの牢獄、私たちにとっての恵みの王座は、
Die Freistatt aller Frommen;
全ての信仰者たちが、隠れることのできる退去の場です。
Denn gingst du nicht die Knechtschaft ein,
あなたが、捕らわれの身となって下さらなかったなら、
Müßt unsre Knechtschaft ewig sein.
私たちは、永遠に奴隷の身であったことでしょう。
第23曲a【レ】
歌詞:
福音史家:
Die Jüden aber schrieen und sprachen:
しかし、ユダヤ人たちは叫んだ。
第23曲b【合唱】
歌詞:
Lässest du diesen los,
「もし、あなたがこの男を釈放するならば
so bist du des Kaisers Freund nicht;
あなたは、カイザル皇帝の忠臣ではないことになる。
denn wer sich zum Könige machet,
自らを王と称する者は、
der ist wider den Kaiser.
誰であろとカイザル皇帝(つまり王)に背いているということになる。」
第23曲c【レ】
歌詞:
福音史家:
Da Pilatus das Wort hörete,
ピラトはこの言葉を聞くと、
führete er Jesum heraus
イエスを外に引き出し、
und satzte sich auf den Richtstuhl,
裁判の席へとつかせた。
an der Stätte, die da heißet:
この場所は「敷石」と呼ばれていて、
Hochpflaster, auf Ebräisch aber: Gabbatha.
ヘブライ語ではガバタと言った。
Es war aber der Rüsttag in Ostern
その日は、過越(すぎこし)の祭の支度の日で、
um die sechste Stunde,
12時頃のことであった。
und er spricht zu den Jüden:
そして、ピラトはユダヤ人たちに言った。
ピラト:
Sehet, das ist euer König!
「見よ、お前たちの王だ!」
福音史家:
Sie schrieen aber:
すると、彼らは叫んだ。
第23曲d【合唱】
歌詞:
Weg, weg mit dem, kreuzige ihn!
「その男を去らせよ、十字架にはりつけろ!」
第23曲e【レ】
歌詞:
福音史家:
Spricht Pilatus zu ihnen:
ピラトは彼らに言った。
ピラト:
Soll ich euren König kreuzigen?
「なぜ、私がお前たちの王を十字架につけなければならないのだ?」
福音史家:
Die Hohenpriester antworteten:
祭司長たちは答えた。
第23曲f【合唱】
歌詞:
Wir haben keinen König denn den Kaiser.
「私たちにとって、カイザル皇帝以外の王はいないのです。」
第23曲g【レ】
歌詞:
福音史家:
Da überantwortete er ihn,
そこでピラトは、十字架につけるために
daß er gekreuziget würde.
イエスを彼らに引き渡した。
Sie nahmen aber Jesum und führeten ihn hin.
こうして彼らは、イエスを引き取り、連れて行った。
Und er trug sein Kreuz und ging hinaus zur
イエスは、自ら十字架を背負い、
Stätte,die da heißet Schädelstätt,
いわゆる「されこうべの場所」に向かわれた。
welche heißet auf Ebräisch: Golgatha.
この場所は、ヘブライ語では「ゴルゴタ」と呼ばれていた。
第24曲【ア(バス)】
歌詞:
Eilt, ihr angefochtnen Seelen,
急げ、悩める魂よ!
Geht aus euren Marterhöhlen,
責めさいなみの洞窟より出よ!
eilt - Wohin ? - nach Golgatha!
急げ、「どこへ?」、ゴルゴタへ!
Nehmet an des Glaubens Flügel,
信仰の翼を身につけて
flieht - Wohin? - zum Kreuzeshügel!
逃げろ、「どこへ?」、十字架の丘へ!
Eure Wohlfahrt blüht allda!
あなたたちの幸福がそこにある!
第25曲a【レ】
歌詞:
福音史家:
Allda kreuzigten sie ihn,
そこで彼らは、イエスを十字架につけた。
und mit ihm zween andere zu beiden Seiten,
そして、イエスを中心にして、
Jesum aber mitten inne.
その両側に、他の2人の罪びとを十字架につけた。
Pilatus aber schrieb eine Überschrift
ピラトは、罪状を書いて
und satzte sie auf das Kreuz,
十字架の上に掲げさせた。
und war geschrieben:
そこにはこう書かれていた。
"Jesus von Nazareth, der Jüden König."
「ナザレのイエス、ユダヤ人の王」
Diese Überschrift lasen viel Jüden,
イエスが十字架につけられた場所は、
denn die Stätte war nahe bei der Stadt
都に近かったので、
da Jesus gekreuziget ist.
多くのユダヤ人たちが、その罪状書きを読んだ。
Und es war geschrieben auf ebräische,
罪状書きは、ヘブライ語、
griechische und lateinische Sprache.
ギリシャ語、ラテン語で書かれていた。
Da sprachen die Hohenpriester der Jüden zu Pilato:
ユダヤ人の祭司長たちが、ピラトに言った。
第25曲b【合唱】
歌詞:
Schreibe nicht: der Jüden König,
「『ユダヤ人の王』とは、書かないで、
sondern dass er gesaget habe:
『ユダヤ人の王だと称した男』
Ich bin der Jüden König.
と書き直して下さい」。
第25曲c【レ】
歌詞:
福音史家:
Pilatus antwortet:
ピラトは答えた。
ピラト
Was ich geschrieben habe, das habe ich geschrieben.
「私が書いたことは、書いたままにしておけ。」
第26曲【合唱】
歌詞:
In meines Herzens Grunde
私の、心の奥には、
Dein Nam und Kreuz allein
主のみ名と、十字架だけが、
Funkelt all Zeit und Stunde,
いついかなる時にも輝いています。
Drauf kann ich fröhlich sein.
それによって、私は幸福でいることが出来るのです。
Erschein mir in dem Bilde
どうかみ姿を現わして
Zu Trost in meiner Not,
苦悩の中にいる私を、慰めて下さい。
Wie du, Herr Christ, so milde
慈しみ深い、主なるキリストよ、
Dich hast geblut' zu Tod!
あなたが、血を流して亡くなられたそのままに!
|十字架と死|(第27〜32曲)
第27曲a【レ】
歌詞:
福音史家:
Die Kriegsknechte aber,
兵士たちはイエスを十字架につけると、
da sie Jesum gekreuziget hatten,
その服を取り、
nahmen seine Kleider und machten vier Teile,
4つに分け、
einem jeglichen Kriegesknechte sein Teil,
おのおのに、ひとつずつ渡るようにした。
dazu auch den Rock.
さらに下着も手に取ってみた。
Der Rock aber war ungenähet,
しかし、下着に縫い目は無く、
von oben an gewürket durch und durch.
上から下まで一枚織であった。
Da sprachen sie untereinander:
そこで、彼らは話し合った。
第27曲b【合唱】
歌詞:
Lasset uns den nicht zerteilen,
「これは裂かずに
sondern darum losen, wes er sein soll.
誰がものにするか、くじ引きで決めよう!」
第27曲c【レ】
歌詞:
福音史家:
Auf daß erfüllet würde die Schrift,
それは、次の聖書の言葉が
die da saget:
成就するためであった。
"Sie haben meine Kleider unter sich geteilet
「彼らは、私の服を自分たちで分け、
und haben über meinen Rock das Los geworfen."
私の下着のことで、くじ引きをした。」
Solches taten die Kriegesknechte.
兵士たちは、聖書の通りに行ったのである。
Es stund aber bei dem Kreuze Jesu seine Mutter
さて、十字架のイエスのそばには、その母と、
und seiner Mutter Schwester,
母の姉妹、
Maria, Kleophas Weib, und Maria Magdalena.
クロパの妻マリアと、マグダラのマリアが立っていた。
Da nun Jesus seine Mutter sahe
イエスは、自分の母と、
und den Jünger dabei stehen, den er lieb hatte,
その横に立っている愛弟子を見て、
spricht er zu seiner Mutter:
母に言われた。
イエス:
Weib, siehe, das ist dein Sohn!
「お母様、ごらん下さい、彼があなたのお子です。」
福音史家:
Darnach spricht er zu dem Jünger:
そして、愛弟子に言われた。
イエス:
Siehe, das ist deine Mutter!
「ごらん、こちらがこれから後、あなたのお母さまだよ。」
第28曲【合唱】
歌詞:
Er nahm alles wohl in acht
主は、最期のときに気を配られた。
In der letzten Stunde,
そう、全てのことに。
Seine Mutter noch bedacht,
母のことも考えて、
Setzt ihr ein' Vormunde.
弟子に後見人として託しました。
O Mensch, mache Richtigkeit,
おお、人よ、正しくことを行い、
Gott und Menschen liebe,
神と人を愛し、
Stirb darauf ohn alles Leid,
そして、どんな苦しみもなく死にゆくのです。
Und dich nicht betrübe!
そうすれば、悲しむこともありません。
第29曲【レ】
歌詞:
福音史家:
Und von Stund an nahm sie der Jünger zu sich.
このときから、その弟子はイエスの母を家に引き取った。
Darnach, als Jesus wusste,
この後、イエスは、
daß schon alles vollbracht war,
全てのことが成し遂げられたことを知り、
daß die Schrift erfüllet würde, spricht er:
聖書の言葉を成就させるために、こう言われた。
イエス:
Mich dürstet!
「のどが渇いた!」
福音史家:
Da stund ein Gefäße voll Essigs.
そこには、酸っぱい葡萄酒がいっぱい入った器があった。
Sie fülleten aber einen Schwamm mit Essig
人びとは、この葡萄酒を海綿にしみこませ、
und legten ihn um einen Isopen,
それをヒソプの茎につけて、
und hielten es ihm dar zum Munde.
イエスの口もとに差し出した。
Da nun Jesus den Essig genommen hatte,
イエスは、その酸っぱい葡萄酒を口にすると
sprach er:
言われた。
イエス:
Es ist vollbracht!
「成し遂げられた!」
第30曲【ア(アルト)】
歌詞:
Es ist vollbracht!
成し遂げられた!
O Trost vor die gekränkten Seelen!
おお、病める魂の慰めあれ!
Die Trauernacht läßt nun die letzte Stunde zählen.
悲しみの夜は、私に最期の時を刻んでいる。
Der Held aus Juda siegt mit Macht
ユダヤの英雄は、真なる勇気をもって勝利を収め、
und schließt den Kampf.
戦いを終わらせた。
Es ist vollbracht!
成し遂げられた!
第31曲【レ】
歌詞:
福音史家:
Und neiget das Haupt und verschied.
そして、イエスは頭を垂れ、うなだれて息を引き取られた。
第32曲【ア(バス)】
歌詞:
Mein teurer Heiland, lass dich fragen,
私の尊い救い主よ、お尋ねしてもよろしいですか。
Jesu, der du warest tot,
イエスよ、あなたは亡くなられましたが、
Da du nunmehr ans Kreuz geschlagen
あなたは、十字架につけられて、
und selbst gesagt: Es ist vollbracht,
そして、おっしゃった。「成し遂げられた!」と、
Lebest nun ohn Ende,
今や、永遠に生きておられます。
Bin ich vom Sterben frei gemacht?
私自身は、死からの解放を成すことが出来たのでしょうか?
In der letzten Todesnot
私は、最期の死の苦しみの時に、
Nirgend mich hinwende
あなた以外に向かわせないでください。
Kann ich durch deine Pein und Sterben
あなたの苦しみや死によって、
das Himmelreich ererben?
天の国を授かることが出来るのでしょうか?
Ist aller Welt Erlösung da?
全世界は、救われるのでしょうか?
Als zu dir, der mich versühnt,
他のどこにも、自分を向けません、
O du lieber Herre!
おお、愛する主なる神よ!
Du kannst vor Schmerzen zwar nichts sagen;
あなたは苦しみのあまり、何もおっしゃいませんでしたが、
Gib mir nur, was du verdient,
あなたの得られたものを、どうかお与え下さい。
Doch neigest du das Haupt
しかし、あなたは、ただ頭を垂れて、
Mehr ich nicht begehre!
それ以上のものを、私は何も望みません。
Und sprichst stillschweigend: ja.
沈黙のうちに、お答えになったのです。その通りだ!…と。
|遂げられた安息|(第33〜40曲)
第33曲【レ】
歌詞:
福音史家:
Und siehe da, der Vorhang im Tempel
すると、見よ!そのとき神殿の幕が
zerriss in zwei Stück von oben an bis unten aus.
上から下まで真っ二つに裂けた。
Und die Erde erbebete, und die Felsen zerrissen,
そして、地震が起こり、岩は砕け、
und die Gräber täten sich auf,
墓は開く。
und stunden auf viel Leiber der Heiligen.
そして、墓に眠っていた多くの聖なる人びとはよみがえった。
第34曲【アリオーソ(テノール)】
歌詞:
Mein Herz, indem die ganze Welt
我が心よ、この世界の全ては
Bei Jesu Leiden gleichfalls leidet,
等しくイエスの受難を共に分かち合い、
Die Sonne sich in Trauer kleidet,
太陽は喪服をまとい、
Der Vorhang reißt, der Fels zerfällt,
幕が裂け、岩は砕け、
Die Erde bebt, die Gräber spalten,
大地は揺らぎ、墓は開かれる。
Weil sie den Schöpfer sehn erkalten,
なぜなら、天地の創造主の肉体が冷えてゆくのを見たのだから、
Was willst du deines Ortes tun?
わが心よ、あなたは何を成そうとしているのだ?
第35曲【ア(ソプラノ)】
歌詞:
Zerfließe, mein Herze,
わが心よ、溶けてゆけ、
in Fluten der Zähren!
涙の流れとなって!
Dem Höchsten zu Ehren!
いと高き方の栄光を讃えて!
Erzähle der Welt und dem Himmel die Not:
天と地とに、この苦難を語り継げ、
Dein Jesus ist tot!
あなたのイエスが息絶えた!…と。
第36曲【レ】
歌詞:
福音史家:
Die Jüden aber,
その日は安息日の支度の日であったので、
dieweil es der Rüsttag war, dass nicht
ユダヤ人たちは、遺体を十字架の上に
die Leichname am Kreuze blieben den Sabbat über
残しておきたくなかった。
baten sie Pilatum, dass ihre Beine gebrochen
この安息日は、特別なものだったからである。
und sie abgenommen würden.
ピラトに、遺体の足を折った上で降ろすように願い出た。
Da kamen die Kriegsknechte
そこに兵士たちがやって来て、
und brachen dem ersten die Beine und dem andern,
イエスとともに十字架につけられた、
der mit ihm gekreuziget war.
最初の男と、もうひとりの男の足を折った。
Als sie aber zu Jesu kamen,
しかし、イエスのところに来てみると、
da sie sahen, daß er schon gestorben war,
イエスは既に召されておられたので
brachen sie ihm die Beine nicht;
その足を折ることをしなかった。
sondern der Kriegsknechte einer
しかし、兵士のひとりが槍を持って、
eröffnete seine Seite mit einem Speer,
イエスの脇腹を刺した。
und alsobald ging Blut und Wasser heraus.
すると、血と水とが流れ出てきた。
Und der das gesehen hat, der hat es bezeuget,
目撃した者が、それを証言している。
und sein Zeugnis ist wahr, und derselbige weiß,
その証言は、聞いている人たちもおり真実であり、
daß er die Wahrheit saget,
そのことを信じるようになることを、
auf dass ihr gläubet.
その人は知っていた。
Denn solches ist geschehen,
なぜなら、これらの出来事は
auf dass die Schrift erfüllet würde:
次の(旧約)聖書の言葉が成就するためであった。
"Ihr sollet ihm kein Bein zerbrechen".
「あなたたちは、彼の骨を砕かないでだろう。」
Und abermal spricht eine andere Schrift:
また、別の(旧約)聖書の所には書かれている。
"Sie werden sehen, in welchen sie gestochen haben."
「彼らは、自分の突き刺した者を見る。」…と。
第37曲【合唱】
歌詞:
Ohilf, Christe, Gottes Sohn,
おお、神の子イエス・キリストよ、助けてください。
Durch dein bitter Leiden,
あなたの苦しい受難の力によって、
Dass wir dir stets untertan
私たちが、常にあなたに従い、
All Untugend meiden,
あらゆる悪を、遠ざけることができますように。
Deinen Tod und sein Ursach
あなたの死と、その意味を
Fruchtbarlich bedenken,
実り多きものとして、思い巡らすことができますように。
Dafür, wiewohl arm und schwach,
いかに貧しく、力のない者であろうと、
Dir Dankopfer schenken!
あなたに、感謝の供え物を捧げます。
第38曲【レ】
歌詞:
福音史家:
Darnach bat Pilatum
その後ピラトに、
Joseph von Arimathia,
アリマタヤ出身のヨセフが願い出た。
der ein Jünger Jesu war
ヨセフは、イエスの弟子であった。
daß er möchte abnehmen den Leichnam Jesu.
彼はユダヤ人を怖がって、弟子であることを隠していた。
Und Pilatus erlaubete es.
彼が願いは、イエスの遺体を引き取りたいということであり、ピラトは許可した。
Derowegen kam er und nahm den Leichnam Jesu herab.
そこで、ヨセフはイエスの遺体を降ろしに行った。
Es kam aber auch Nikodemus,
そこにニコデモがやってきた。
der vormals bei der Nacht zu Jesu kommen war,
彼は、かつてある夜に、イエスのもとに姿を表した人である。
und brachte Myrrhen und Aloen untereinander,
彼は没薬(もつやく)とアロエのお香を混ぜた100リトラほど
bei hundert Pfunden.
持ってきた。
Da nahmen sie den Leichnam Jesu
彼らは、イエスの遺体を降ろすと、
und bunden ihn in Leinen Tücher mit Spezereien,
ユダヤ人の埋葬の習慣によって、
wie die Jüden pflegen zu begraben.
香料を添えながら亜麻布で包みこんだ。
Es war aber an der Stätte, da er gekreuziget
イエスが、十字架にかけられた所には園があり、
ward, ein Garten, und im Garten ein neu Grab,
そこには、まだ誰も埋葬されたことのない
in welches niemand je geleget war.
新しい墓があったので、
Daselbst hin legten sie Jesum,
そこにイエスを葬った。
um des Rüsttags willen der Jüden,
その日が、ユダヤ人の安息日のための支度の日であったので、
dieweil das Grab nahe war.
この墓が近くて好都合だったのである。
第39曲【合唱】
歌詞:
Ruht wohl, ihr heiligen Gebeine,
安らかにお休み下さい、聖なるなきがらよ。
die ich nun weiter nicht beweine,
私は、なげき悲しむことはありません。
Ruht wohl und bringt auch mich zur Ruh!
安らかな眠りにつき、そして、この私にも安らぎをお与え下さい!
Das Grab, so euch bestimmet ist
あなたのために定められたこの墓は、
Und ferner keine Not umschließt,
もはや、どんな苦しみにも覆われるこのない、
Macht mir den Himmel auf und schließt die Hölle zu.
私に天国への門を開き、地獄を閉ざすのです。
第40曲【合唱】
歌詞:
Ach Herr, lass dein lieb Engelein
ああ主よ、あなたを愛する天使を遣わせて、
Am letzten End die Seele mein
最期の時に、わが魂を
In Abrahams Schoß tragen,
アブラハムの懐へと、連れて行って下さい。
Den Leib in seim Schlafkämmerlein
その肉体を、その小さな部屋の中で、
Gar sanft ohn einge Qual und Pein
苦しみも痛みもなく、そして安らかに、
Ruhn bis am jüngsten Tage!
最後の審判の日まで、憩わせて下さい。
Alsdenn vom Tod erwecke mich,
そして、私を死の眠りから目覚めさせてください。
Daß meine Augen sehen dich
この目で、喜び溢れながら、
In aller Freud, o Gottes Sohn,
あなたを仰ぎ見る、おお神の御子よ、
Mein Heiland und Genadenthron!
私の救い主、恵みの王座よ!
Herr Jesu Christ, erhöre mich,
主イエス・キリストよ、私の願いを聞き入れて下さい。
Ich will dich preisen ewiglich!
私は、あなたを永遠に讃えます!
【2選の名盤の感想と解説】バッハ《ヨハネ受難曲》
カール・リヒター:指揮 ミュンヘンバッハ管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
バッハ《ヨハネ受難曲》の歴史的な名盤です。
厳かさや折り目正しい端正さはカール・リヒターの名盤以外では中々味わえない高みを感じます。
古楽演奏が一般化した現代でも、その存在感を失うことのない精神性を漂わせる名盤とも言えそうです。
バッハ《マタイ受難曲》とともに一度は聴いておきたいバッハ演奏におけるひとつのスタンダード。
そんな名盤でもあります。
ミシェル・コルボ:指揮 ローザンヌ室内管弦楽団、ローザンヌ声楽アンサンブル
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
静けさをともなった安らかさ、そしてどこまでも穏やかな音運びはミシェル・コルボ独特な魅力であり、それは《ヨハネ受難曲》でも活きています。
純粋無垢に虚飾を排した響きは、どんな豪華な飾りをも超えた美しさがある名盤です。
本来ドラマティックである《ヨハネ受難曲》ですが、こんな音の持つ美を持って表現されるとむしろ「怖いくらいにドラマティック」。
そんな魅力に満ちた名盤です。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【まとめ】バッハ《ヨハネ受難曲》
さて、バッハ《ヨハネ受難曲》の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
- 悲しみと内省
- 激しさ、静けさ、
- 清らなる…愛
バッハの名曲《マタイ受難曲》の存在感が絶大ですが、冒頭の解説にありますように、「マタイよりもこのヨハネの方が好きだという人びと」もいます。
「内省の魅力」のある「ドラマティック」な名曲です♫
ぜひ、聴いてみてくださいね。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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バッハの最高傑作と言われることも…
クリスマスにはバッハのこんな曲も美しい…♫
ヘンデルのメサイア(救世主)の中の「ハレルヤ 」は超有名!!
輝かしくも美しい!「 天地創造」のバリバリという生命誕生の音を聴こう♫