とても明るいバッハ!
クリスマスの幸福を
胸いっぱいに感じよう!!
本来のバッハの宗教曲とは
- 厳格
- 重厚
- 荘厳
などの言葉が似合いますが、バッハ:クリスマス・オラトリオは別で、
- 明るい!
- 楽しい!!
- 弾んでる!!!
と、言えますね!
オラトリオとは言わば「音楽物語」。
新約聖書の物語を音楽として表現しています。
そんな、バッハ:クリスマス・オラトリオの解説とおすすめ名盤を紹介です。
【解説】バッハ:クリスマス・オラトリオ
バッハ:クリスマス・オラトリオの特徴を表したこんな解説があります。
例のとおり、大合唱ではじまり、独唱やら重唱やらコラール(賛美歌)やらをおりあわせて、展開してゆきます。(中略)
当然のことながらクリスマスの明るい気分にみたされ、《マタイ受難曲》などとは対照的な世界をつくりだしています。
この明と暗との表現が同じ一人の作曲家によって生まれたということ自体、信じがたいことのように感じられます。
出典:皆川達夫 著 「バロック名曲名盤100」P182より引用
解説にありますように、明るい気分に満たされた素晴らしい、バッハ:クリスマス・オラトリオ。
多くのバッハの宗教曲にある重厚感から離れて、楽しく聴ける楽曲に仕上がっています。
全6部(全64曲)のつくりをしていて全てを演奏するには、ゆうに2時間半はかかる大作です。
現代では休憩をはさみながら、1日で全曲を演奏したり、抜粋で演奏されることが普通ですね。
ただ本来は、バッハ生前のころからクリスマスの時期に6日に分けて1部ずつ演奏されるというのがならわしでした。
基本的には以下の日に1部ずつ演奏されていたようです。
- 第1部から3部はキリストの誕生日(12月25日)から3日間で演奏。
- 第4部は新年1月1日。
- 第5部は新年があけてから、第一の日曜日。
- 第6部から始まる顕現節(もともと、人の目には見えない神の姿をキリストを通してあらわしたことを祝う期間)の初日の日曜日に演奏。
そして実際のバッハのころの初演は下記の日程で行われたようです。
1734年
- 12月25日 第1部 - 早朝、聖ニコライ教会、午後、聖トーマス教会
- 12月26日 第2部 - 朝、聖トーマス教会、午後、聖ニコライ教会
- 12月27日 第3部 - 朝、聖ニコライ教会
1735年
以上、ウィキペディアより引用
- 1月1日 第4部 - 朝、聖トーマス教会、午後、聖ニコライ教会
- 1月2日 第5部 - 朝、聖ニコライ教会
- 1月6日 第6部 - 朝、聖トーマス教会、午後、聖ニコライ教会
【各部を解説】バッハ:クリスマス・オラトリオ
それでは、各部について解説したいと思います。
冒頭にも書きましたが、バッハ:クリスマス・オラトリオは第1部から第6部までの全6部で成り立っています。
第1部 12月25日(降誕節第1祝日のカンタータ)
バッハ:クリスマス・オラトリオのなかでは(第1曲~第9曲)にあたります。
ちなみにカンタータとは、独唱や重唱や合唱に器楽演奏が加わった大規模な声楽曲という意味になります。
第1曲 合唱
第2曲 ルカによる福音書 第2章の1節および、3〜6節
第3曲 レチタティーヴォ:アルト
第4曲 アリア:アルト
第5曲 コラール
第6曲 ルカによる福音書 第2章の2節および7節
第7曲 コラール:ソプラノとレチタティーヴォ:バス
第8曲 アリア:バス
第9曲 コラール
中でも第1曲は、明るく開放的な、印象に残る曲です。
第1曲:歌詞
喜べ、歓喜せよ、この日をたたえよ!
この日、神のなしたまいしことを、たたえよ!
ためらうな!悲しみを追い払え!
歓声と喜びに満ちて歌え!
天の聖歌隊とともに、神につかえよ!
天地をおさめし神を、ほめたたえよ!
以上のような内容を高らかに歌います。
第1部の物語としては、イエス・キリストを身ごもっている母マリアと、父ヨセフとが住民登録のためにベツレヘムへやってくるところから始まります。
そこで母マリアは産気づいてしまい、2人は宿を探しますが、どこもいっぱいです。
そこで、いたしかたなく近くにあった家畜小屋で出産したマリアは飼い葉桶(かいばおけ)に赤ちゃんを寝かせます。
(ちなみに飼い葉桶とは家畜に餌を与える際に飼料となる干し草などを入れておく桶のことです)。
第2部 12月26日(降誕節第2祝日のカンタータ)
バッハ:クリスマス・オラトリオのなかでは(第10曲~第23曲)にあたります。
第10曲 シンフォニア
第11曲 ルカによる福音書 第2章 8、9節
第12曲 コラール
第13曲 ルカによる福音書 第2章 10、11節
第14曲 レチタティーヴォ:バス
第15曲 アリア:テノール
第16曲 ルカによる福音書 第2章 12節
第17曲 コラール
第18曲 レチタティーヴォ:バス
第19曲 アリア:アルト
第20曲 ルカによる福音書 第2章 13節
第21曲 合唱(ルカによる福音書 第2章 14節)
第22曲 レチタティーヴォ:バス
第23曲 コラール
印象的なのは第10曲のシンフォニアです。
歌が入りませんが、名曲であり、演奏会でも単独で演奏されることもあります。
「フルートと弦楽器の演奏が『天使』であり、オーボエの演奏が『羊飼いたち』であり、そのお互いの会話を表現している」。
そのような内容を、医者であり音楽学者でもあったアルベルト・シュヴァイツァーは解説されていますが、たしかにそんな表現がピッタリの素晴らしい1曲です。
物語としては、家畜小屋の近くにいた羊飼いたちのもとに天使がやってきて「救い主が誕生したことを告げる」という内容になっています。
第3部 12月27日(降誕節第3祝日のカンタータ)
バッハ:クリスマス・オラトリオのなかでは(第24曲~第35曲)にあたります。
第24曲 合唱
第25曲 ルカによる福音書 第2章 15節
第26曲 合唱(ルカによる福音書 第2章 15節)
第27曲 レチタティーヴォ:バス
第28曲 コラール
第29曲 二重唱:ソプラノとバス
第30曲 ルカによる福音書 第2章 16〜19節
第31曲 アリア:アルト
第32曲 レチタティーヴォ:アルト
第33曲 コラール
第34曲 ルカによる福音書 第2章 20節
第35曲 コラール
物語としては、羊飼いたちが天使から受けた言葉をもとに、「救い主を産んだマリアを見つけだし、その誕生を目にする」というものです。
父ヨセフをはじめ、まわりの人たちはその赤子が救い主であるとは信じられません。
しかし、マリア自身はイエス・キリストが生まれる前に受胎告知(救い主を身ごもったという知らせ)を天国にいらっしゃる大天使ガブリエルから受けていました。
この第3部で特徴的なところは救い主が産まれたことを誰も信じない中、母マリアのみが信仰を固めることを静かに決意する場面です。
第31曲などは、その敬虔さがよく表れていて名曲でもあります。
第31曲:歌詞
わが心よ、この聖なる奇蹟を
汝(なんじ)の信仰の内に抱け!
神のなしたまいしこの奇跡を
常に心の支えとして
つねに汝(なんじ)が弱き信仰の力とせよ!
第4部 1月1日(新年のカンタータ)
バッハ:クリスマス・オラトリオのなかでは(第36曲~第42曲)にあたります。
第36曲 合唱
第37曲 ルカによる福音書 第2章 21節
第38曲 レチタティーヴォ:バスと、コラール:ソプラノ
第39曲 アリア:ソプラノ
第40曲 レチタティーヴォ:バスと、コラール:ソプラノ
第41曲 アリア:テノール
第42曲 コラール
赤子の名前をつけるあたりの情景が歌われます。
第38曲:歌詞
インマヌエル、おお優しき名よ
わがイエスはわが宝
わがイエスはわが命なり
わがイエスは、わがために身をささげたまえり
わがイエスは永遠に
われを導かん
わがイエスは、わが歓喜
わがイエスは胸の内を清む
第5部 新年最初の日曜日のカンタータ
バッハ:クリスマス・オラトリオのなかでは(第43曲~第53曲)にあたります。
第43曲 合唱
第44曲 マタイによる福音書 第2章 1節
第45曲 合唱(マタイによる福音書 第2章 1節)と、レチタティーヴォ:ソプラノ
第46曲 コラール
第47曲 アリア・バス
第48曲 マタイによる福音書 第2章 3節
第49曲 レチタティーヴォ・アルト
第50曲 マタイによる福音書 第2章 4〜6節
第51曲 三重唱:ソプラノ・テノール・アルト
第52曲 レチタティーヴォ:アルト
第53曲 コラール
救い主である(ユダヤの王)が産まれられたことを星の導きによって知らされた3人の博士たちは、その旨をヘロデ王に伝えます。
いずれ「今の自分の王としての立場を追いやられる」と考えたヘロデ王は不安で心を曇らせます。
救い主があらわれたことで人びとの心に光が灯(とも)るさまを歌う第53曲は印象的です。
第53曲:歌詞
われの心の小部屋は、
美しき王侯の間ではなく、
暗き穴ぐらである。
しかし、汝(なんじ)の恵みの光が
このもののなかに、差し込むや
太陽の光に満たされる。
第6部 1月6日から顕現節、はじまりのカンタータ
バッハ:クリスマス・オラトリオのなかでは(第54曲~第64曲)にあたります。
第54曲 合唱
第55曲 マタイによる福音書 第2章 7〜8節
第56曲 レチタティーヴォ:ソプラノ
第57曲 アリア:ソプラノ
第58曲 マタイによる福音書 第2章 9〜11節
第59曲 コラール
第60曲 マタイによる福音書 第2章 12節
第61曲 レチタティーヴォ:テノール
第62曲 アリア・テノール
第63曲 レチタティーヴォ:四重唱
第64曲 コラール
導きの星をたよりに救い主である赤子を見つけた博士たちは、礼拝しながら国へと帰っていきます。
本当は、ヘロデ王のもとへ赤子の居場所を報告しに行かなければならなかったのですが、その命令には従わずに国へと帰っていくのでした。
なぜならば、救い主であるこの赤子が、ヘロデ王に殺されることを防ぐためでした。
そして、バッハ:クリスマス・オラトリオの最後の方は壮大です。
第62曲: 歌詞
今や汝(なんじ)ら、荒ぶれる悪魔
いかにわれを、おびやかすとも
汝(なんじ)ら、われにいかなる恐れも与え得ず
わが宝、わが城はここにあり
汝(なんじ)ら、われを葬(ほうむ)らんとて
怒り狂うとも、
見よ、わが救い主、ここに在(おわ)せり
第64曲:歌詞
汝(なんじ)ら、悪魔の軍勢において
いまや汝(なんじ)らは、その力なきを覚えり
キリスト、汝(なんじ)らの逆らえるところを
挫(くじ)きたまいしがゆえ
死、悪魔、罪と地獄は
力、なえぬ
全人類は
神のみそばに近づきぬ
【3枚の名盤の感想と解説】バッハ:クリスマス・オラトリオ
カール・リヒター:指揮 ミュンヘン・バッハ管弦楽団&合唱団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
最近では古楽器で演奏されることの多いバッハですが、1965年に録音されて、今もなお、モダン楽器における名盤中の名盤のほまれ高い重厚なクリスマス・オラトリオです。
本来のバッハ:クリスマス・オラトリオの明るさのうえに「華やかさ」という要素を盛り込んだ名盤でもあります。
ゆったりとうねる大河のような壮大な名盤です。
マルティン・フレーミヒ:指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団&ドレスデン聖十字架合唱団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
音楽学者の皆川達夫先生は著書『バロック名盤100』で
「東ドイツらしいおっとりとした雰囲気に満ち、これはこれで、すてがたい味がありあます」と書かれています。
柔らかく、あたたかい人情味のある名盤であり、また気品ただよう素晴らしい名盤でもあります。
全体の明るさに加えて癒やしの光がいっぱい詰まった宝箱。
そんな名盤ですね。
トン・コープマン:指揮 アムステルダム・バロック管弦楽団&合唱団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
無骨な響きの中に、「朗らかさ」や「純粋さ」の要素があふれる名盤です。
キリスト教で言うところの「幼子のように(純粋に)ならなければ天国の門は開かない」というにふさわしい、いい意味で飾り気の少ない名盤です。
子供のように繊細で壊れやすいくらいの優しい雰囲気の名盤なので、心の調和された静かなクリスマスの夜に音を少〜し、しぼり気味で聴きたい名盤でもありますね。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【解説と名盤、まとめ】バッハ:クリスマス・オラトリオ
さて、バッハ:クリスマス・オラトリオの解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
何かとせわしい年末、クリスマスはやってきます。
年末で疲れているからこそワイワイやって一年のストレスを発散したいものです。
でも、中々、人と集まれないなあ…という時には、静かな心でバッハ:クリスマス・オラトリオを聴くという選択も悪くないですね。
一年を振り返りながら、お世話になったあの人に「ありがとう」の気持ちを起こすのにも最適なバッハ:クリスマス・オラトリオです。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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