疾走する美しさ!
自由につづった音楽詩集
そして、ピアノは歌う♫
シューベルト:4つの即興曲は2曲あります。
- D 899(op.90)
- D 935(op.142)
ですね。
それぞれ4曲ずつありますので全8曲になります。
どの曲も「素晴らしい」の一言につきる名曲です。
純度の高い
- 透明感
- 美しい旋律(メロディ)
- 歌ごころ
そんな美しさで満たされた即興曲集と言っていいと思います。
シューベルトが死の前年に作曲した「型にハマらない自由な発想」が、あますところなく湧き出た音楽の泉…。
今回は、そんなシューベルトの2つある《4つの即興曲》の解説とおすすめ名盤を紹介です。
- 【解説】シューベルト:4つの即興曲
- 【各曲を解説】シューベルト:4つの即興曲 D 899(op.90)
- 【各曲を解説】シューベルト:4つの即興曲 D 935(op.142)
- 【3枚の名盤、感想と解説】シューベルト:4つの即興曲
- 【解説と名盤、まとめ】シューベルト:4つの即興曲
【解説】シューベルト:4つの即興曲
シューベルト:4つの即興曲をわかりやすく説明したこんな解説があります。
メンデルスゾーンの《無言歌集》が俳句とか短歌の世界を思わせるとすれば、シューベルト の即興曲は長唄とか、ソネット(14行の抒情詩)を思い出させる。
シューベルトは 晩年になって、八曲の即興曲を書いたが、いずれも1827年、死の前年の作といわれている。
このほの暗い抒情(じょじょう)の世界は、やがて生まれてくるブラームスの到達するであろう孤高の晩年の予感でもある。
出典:諸井誠 著 「ピアノ名曲名盤100」P82より引用
「言い得て妙!」とは、この解説のことですね。
メンデルスゾーンの《無言歌集》は、ほんの短い曲の中に「歌うピアノ」が「キラキラ輝いた名曲集」です。
それに対してシューベルトの《即興曲集》は、
「ほどよい長さで、語りすぎないピアノ」が「淡くて美しい光をはなつ名曲」
なのです。
【各曲を解説】シューベルト:4つの即興曲 D 899(op.90)
それでは、各曲について解説していきましょう。
第1曲 アレグロ・モルト・モデラート(快速に、しかしほどほどに)
おごそかな葬送行進曲風の1曲です。
その重厚感のなかにもシューベルトの歌ごころは詰まっていて飽きさせません。
タタタタタタ…と打ち鳴らされ続ける音形が不安や焦燥をあらわしているようにも感じます。
そして、ある瞬間、ふと「調和的で優しい曲調」になるところがニクいのですが、その調和の時は断続的であって、すぐ不安や焦燥のモチーフに戻る。
そんなことをくり返すところがひとの心のうちの「揺れ」のようなものを表現しているように感じます。
そして、この流れがシューベルト:4つの即興曲の全体を貫いていると言っていいと思います。
第2曲 アレグロ(速く)
華麗に流れていくピアノの音たちはその流れのままに歌いそして自由自在にその思想を述べていきます。
つまり、ひとの心に存在する
- ほの暗い心
- さみいしい心
そして、そこからくる
- 他を思いやる心
そんな七色でありながら、それが一瞬一瞬の時の中で刻まれながら色を変えていく。
そんな心の風景を見せられているように思うのです。
第3曲 アンダンテ(歩く速さで)
シューベルトの有名なアヴェ・マリア。
「ゆらめくような不安な心のうちと敬虔(けいけん)な祈りの想い」。
そんな心情が歌わている名曲ですが、このアヴェ・マリアと通ずるように感じます。
ただ、アヴェ・マリアと違うところは、その「不安な心のうち」の描写です。
つまり、アヴェ・マリアはまだ「冷静さをともなった不安」からの祈りであると感じます。
それに対し、この即興曲のアンダンテは「小きざみに揺れる胸のうち、あがないきれない不安」からの祈りの想いを感じます。
しかし、曲全体としては
- 流れるように麗(うるわ)しく、
- しなやかで、
- また、優しい光をたたえていますね
第4曲 アレグレット(やや速く)
なんとも耽美(たんび)的 であり、また憂いを秘めた響きなことでしょう。
即興曲D 899(op.90)のフィナーレを飾る曲が、こんな美しさをともなった歌ごころでいっぱいな曲であることが、なんともシューベルトらしくていいですね。
最高に盛り上がりつつ即興曲D 899(op.90)を終えていきます。
【各曲を解説】シューベルト:4つの即興曲 D 935(op.142)
第1曲 アレグロ・モデラート(ほどよく速く)
向かい風をうけながら、それでも一歩一歩を進めていく。
そんな「運命にあらがおうとする若者の苦悩」のようなものを感じます。
- 繊細で
- こわれやすく
- それでも理想をあきらめない
そんな、弱くありながらも、心のどこかでは強くありたいと、もがく姿も見えてきます。
しかし、曲自体は美しく、スーッと引き込まれるような流れや透明感をともなった感覚です。
第2曲 アレグレット(やや速く)
全体として緊張感のあるシューベルト《4つの即興曲》ですがここで、調和の響きの1曲が入ります。
ちょうど「秋の午後」を思わせるような気持ちよくありながら、冬が近づくさみしさもブレンドされたようなイメージですね。
第3曲 アンダンテ(歩く速さで)
日本の童謡を思わせるような素朴で、純粋な響きを持った1曲です。
また、これがひとつのテーマをもとにした変奏曲となっていて色とりどりに展開するから素晴らしい。
そして、この歌ごころはメンデルスゾーンの無言歌集を思わせます。
つまり、シューベルト版の無言歌に感じるわけです。
さて、シューベルトとメンデルスゾーンの無言歌はどっちがいい?
いえいえ、くらべるものではありません。
どちらも「みんなちがってみんないい」個性豊かなオンリーワン…なのですから…。
第4曲 アレグロ・スケルツァンド(速く、たわむれるように軽快に)
D 935(op.142)のラストはいままでの
- さみしさ
- 静けさ
- 憂鬱な思い
そんなものを振り払うような勇ましい曲想がハンガリー風の舞踏の要素をともなって展開します。
そして、D 935(op.142)の最後は、スピーディに、そして華やかに展開して終わっていきます。
【3枚の名盤、感想と解説】シューベルト:4つの即興曲
では、3枚の名盤を解説します。
アルフレッド・ブレンデル:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
「よどみ」というものが感じられない、まさしく「ピアノにおける歌」と言える名盤です。
表面的には冷たく感じられるピアノの一音一音です。
しかし、目を閉じて聴いていくと、シューベルトが感じていた憂いや悲しみ、そして「ピアノを歌わせることの喜び」が伝わってくるのが嬉しい名盤です。
感情に流されずに弾いているようでありながらその音の奥からシューベルトの湧き出る歌の、泉のごとく美しい旋律が聴き取れます。
シューベルト:4つの即興曲を聴く上で一度は聴いておきたい。
そんな名盤です。
ダニエル・バレンボイム:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★☆☆
【名盤の解説】
ブレンデルのピアノと比べると少し重厚な感じのする名盤です。
しかし、シューベルトの持つ独特な暗さに支配されない知性的な演奏と言えそうです。
どこか淡々としていながら静かに燃えるような力強さを感じる名盤。
「繊細な歌のこころ」の宝庫、シューベルトの感性に引き込まれずに聴きたいときに聴く(効く)名盤と言えそうですね。
イングリット・ヘブラー:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
子を想う母のまなざしや、慈(いつく)しみが感じられる名盤です。
深刻になりがちなシューベルトの音楽ですが、それが見事な
- 優しさ
- あたたかさ
- 安心感
そんな、聴いていると心を調和に導いてくれる素晴らしいシューベルトの名盤です。
あまり強い主張がないため個性を感じないかもしれません。
しかし、本来のシューベルトの精神は「赤ちゃんが安心できる」ようなさわやかな風のような歌…。
そんな本来のシューベルトに立ち返りたいときに聴きたい名盤でもあります。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【解説と名盤、まとめ】シューベルト:4つの即興曲
さて、シューベルト:4つの即興曲の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
純度の高い
- 透明感
- 美しい旋律(メロディ)
- 歌ごころ
そんな美しさで満たされたシューベルト:4つの即興曲。
寂しかったり辛かったりした時に「明るい曲」を聴くことはいい方法です。
でも時にはそれが、なんとも言えないむなしさや悲しさにつながってしまうこともあるものです。
そんな時は静かにシューベルト:4つの即興曲を聴いてみるのもおすすめです。
なんと言っても優しく寄り添ってくれるピアノ曲集、それがシューベルト:4つの即興曲なのですね。
「優しい」の感じは「にんべん」に「憂い」という作りになってます。
つまり、「人」が「憂い」に寄り添うことが優しいという本来の意味とも言えそうです。
さあ、人一倍繊細で傷つきやすかったであろうシューベルトの「優しいピアノ曲」シューベルトの4つの即興曲を聴いて心、癒やしましょ…。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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菩提樹はシューベルトの有名な歌ですね。