ミニマルなのに
満ちあふれる
交響的室内楽!
磨き抜かれた品格と明るさで満ちあふれた名ピアノ三重奏曲。歴史に残る名曲が生まれ続けた時期に作曲されました。ルドルフ大公に献呈されたことから命名された副題《大公》。
今回は、ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番《大公》の解説とおすすめ名盤を紹介します。
【曲の解説】
この曲のつくられた1811年ごろは、「交響曲第5番(運命)」や「第6番(田園)」、「ヴァイオリン協奏曲」などの名作があいついで生み出された時代だっただけに、この曲も、交響的な雄大なスケールをもち、ピアノ、ヴァイオリン、チェロの三つの楽器が渾然一体となった品格の高さが、たとえようもなくすばらしい。
出典:志鳥栄八郎 著 「新版 不滅の名曲はこのCDで」P250より引用
副題として《大公》と名付けられたのは、ベートーヴェンのパトロンであり教え子でもあったルドルフ大公に献呈されたためです。友情的つながりもあったルドルフ大公には、有名な「ミサ・ソレムニス」や「ピアノ協奏曲第5番」などを含め、多くの曲を献呈した記録が残されています。
チャイコフスキーの《偉大な芸術家の思い出に》といった有名なピアノ三重奏曲もありますが、曲調としては両極端です。悲しみ深く重厚なチャイコフスキーに対して、楽しげで朗らかなベートーヴェンのピアノ三重奏曲。2つの名曲の明暗がハッキリしていることが興味深いところです。
ベートーヴェンのピアノ三重奏曲《大公》の初演はベートーヴェン自身がピアノを担当して行われました。当時はベートーヴェンの耳の疾患がかなり進行していたため、ピアノを強打した演奏になってしまい、あまり評価が高くなかったようです。初演のあとベートーヴェンは公の場面で演奏することはなくなりましたが、一部では演奏を評価する声もあったようです。
初演:1814年4月11日ホテル「ローマ皇帝」にて
ピアノ:ベートーヴェン自身
ヴァイオリン:イグナーツ・シュパンツィヒ
チェロ:ヨーゼフ・リンケ
【各楽章を解説】
第1楽章 アレグロ・モデラート(ほどよく速く)
自然に流れるようにピアノが主題を歌うと、ヴァイオリンとチェロもそっと流れに乗ってきます。アレグロよりはゆったりと主題を楽しみながら、ふんわりと調和を醸していきます。
常にほほえみながら、ふんだんに湧き出る澄んだ泉そのもののような歌がつむがれるのです。涼やかで、やわらかな光を放つような心地よさ。透明感の中に静けさを含んだ華やかさを秘めた第1楽章は感動的なふくらみを帯びながら展開します。
第2楽章 アレグロ(速く)
明朗な第1楽章のあとに、弾むようなパワフル要素が加わる第2楽章です。3つの楽器が優雅に対話を楽しんでいるような雰囲気もありそれぞれが対等に主張しています。
第3楽章 アンダンテ・カンタービレ・マ・ペロ・コン・モート(歩くような速さで歌うように、しかし、動きをつけて)
主題と4つの変奏です。ピアノによる静けさをともなった主題が始まると弦楽器が溶け合い、夢のような歌がはじまります。第1変奏へとつながり弦楽器が導きながら流れていきます。
第2変奏は、ピアノへと主導権が戻りながらわずかな弾みを持って展開。第3変奏でそれぞれの楽器が対等に会話を交わします。最後の第4変奏は、主題のような静けさへと戻りながら歌われつつ、途切れることなくそっと最終楽章へと引き継がれていきます。
第4楽章 アレグロ・モデラート|プレスト(ほどよく速く|きわめて速く)
第3楽章の静けさをスパッと断ちながら、力強く明るい光が差すように歌うピアノ。つられるようにして、ここぞとばかりに弦が歌うのです。愉快に楽しく、自由自在に楽器たちが舞い、豊かな楽想が次から次へと歌われていくさまは夢のよう。
躍動感をともなったピアノが大いに活躍しながら、弦楽器がピアノを支えつつも存分に輝きを放って紡がれていく感動的なフィナーレになります。
【名盤3選の感想と解説】
スーク・トリオ
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
ベートーヴェンのピアノ三重奏曲のようなピアノ以外の楽器も活躍する曲には息のピッタリあうトリオが必須です。スーク・トリオはベートーヴェンのピアノ三重奏曲第7番を3回録音しています。パネンカがピアノを受け持っていた1975年盤は素晴らしく、うっとりするような聴き心地があります。
長い間、専門の三重奏団として活躍した団体だからこその絶妙なアンサンブルや歌いまわしです。3つの楽器がひとつの意思のように歌いあげられていくピアノ三重奏曲《大公》の名盤です。
ウラディーミル・アシュケナージ:ピアノ
イツァーク・パールマン:ヴァイオリン
リン・ハレル:チェロ
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
大公の名にふさわしく気品と柔らかさが美感とともに流れ出てくる名盤。木漏れ日のようなやわらかいアシュケナージのピアノ。キラリと光を放つパールマンのヴァイオリン。ほほえみながら温かく支えるハレルのチェロ。
どの楽器も個性を持ちながらも、広がりを持って調和する名盤です。この3人でベートーヴェンのピアノ三重奏曲全曲録音を行っており実に貴重な記録となっています。既存の三重奏団であるスーク・トリオの調和力に迫るほどの好ましいアンサンブルが聴けます。
ヴィルヘルム・ケンプ:ピアノ
ヘンリック・シェリング:ヴァイオリン
ピエール・フルニエ:チェロ
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
いぶし銀のような印象のあるドイツ的魅力に満たされたピアノ三重奏曲《大公》です。淡々とした味わいの中にベートーヴェンの歌を乗せるケンプのピアノ。折り目正しさとともに伸びのある美感を秘めたシェリングのヴァイオリン。支えることに徹した中に含みを持たせた奥行きのある響きのフルニエのチェロも見事です。
どのソリストたちも、ただ無心にベートーヴェンのつむぎ出した歌に没頭し一体化している様が聴き取れます。ソリストとして活躍した素晴らしいプレイヤーたちは良くも悪くも個性や主張が強くなりがちです。しかし、ここでの3人は実に自然に調和した素晴らしいベートーヴェンを表現し尽くしたといって間違いのない名盤です。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【まとめ】
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番《大公》の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
ミニマルなのに
満ちあふれる
交響的室内楽!
古今東西のピアノ三重奏曲の中でも、トップクラスに素晴らしい曲を紹介してきました。明るく朗らかで、調和的なやさしさにも満ちあふれた作品といえます。ミニマルな編成でありながら、さすがはベートーヴェンといえる交響的彩りをまとった室内楽。
ぜひ一度、聴いてみてくださいね。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の醍醐味ですよね』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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