「ココにいる」ことを受け入れたい時に聴きたい♫
淡い光のやさしさと、
凪(な)いだ湖面の静けき心…
「アダージョ」とはイタリア語で、「くつろぎ」の意味。
今回は、正確に言うと「アダージェット」ではありますが…。
前回につづき、「アダージョの名曲を解説」です。
- 【楽曲を解説】マーラー:交響曲第5番「アダージェット」
- 【各部を解説】マーラー:交響曲第5番
- 【3枚の名盤を解説】マーラー:交響曲第5番「アダージェット」
- 【解説と名盤、まとめ】マーラー:交響曲第5番「アダージェット」
【楽曲を解説】マーラー:交響曲第5番「アダージェット」
この「アダージェット」とは音楽用語では、本来、「アダージョより、やや速く」という意味です。
ただ、マーラー自身は、交響曲第5番「アダージェット」の楽譜に「とても遅く」と記述しています。
そして、実際の演奏も遅く、ゆったりしたものが多いですね。
さて、マーラー:交響曲第5番の全体(全5楽章)の、こんな解説があります。
1902年(42歳)に作曲されたもので、この「(交響曲)第5番」は、オーケストラだけの純粋な器楽曲(声楽無しの曲)となっており、全体に悲痛で、憂愁な気分が色濃くただよっている。
ことに、名高い第1楽章の「葬送行進曲」は、マーラーの音楽のもつ暗さが前面に出たもので、また、第4楽章(アダージェット)は、それとは対照的に、せつないまでに甘く、耽美的な音楽となっている。
出典:志鳥栄八郎 著 「不滅の名曲はこのCDで」P71より引用
解説にあるように、11曲あるマーラーの交響曲(1曲は未完)のなかで、もっとも「せつないまでに甘く、耽美」なマーラー:交響曲第5番の第4楽章「アダージェット」です。
交響曲第5番を作曲当時のマーラーは、苦難の中にありました。
持病の痔の悪化による大出血で、大きな手術を3回受けています。
また、同じ時期に、ウィーン・フィルの首席指揮者という地位を失ってもいます。
もともと、ウィーンの保守的な批評家や、聴衆からの、非難が多かったマーラーですが、病気を機に、ほとほと嫌気がさしたことが、原因と言われています。
こんな失意の中で、ひとつの希望も、めばえ始めていました。
運命の女性、アルマとの出会いです。
当時、アルマは、別に想いを寄せる人が、いたようですが、マーラーと出会ってお互いに一目惚れ。
翌年には結婚しています。
作曲をはじめた頃は、「アダージェット」を入れる予定は、なかったのですが、アルマと出会ったことによって、入れた楽章だと、いわれています。
つまり、この「アダージェット」はマーラーによる、音楽による、アルマへの告白であったということです。
マーラーと親交のあった指揮者にメンゲルベルクがいました。
彼は、自身が使った、楽譜に「このアダージェットは、マーラーがアルマに宛てた愛の証である」と書き込んでいたというエピソードもあります。
【各部を解説】マーラー:交響曲第5番
マーラー:交響曲第5番は、第1楽章から第5楽章までの5曲で出来あがっています。
ちなみに、全体の構成としては3部構成となっていて、
- 第1部ー第1楽章と第2楽章
- 第2部ー第3楽章
- 第3部ー第4楽章と第5楽章
という形をとっています。
第1部
第1楽章 葬送行進曲 (正確な速さで、厳粛、葬列のように)
重々しく、また、おごそかな曲調です。
途中、激しい展開もあり、ドラマティックな1曲とも言えそうです。
第2楽章 (嵐のような荒々しい動きをもって。最大の激烈さをもって)
運命の荒波を超えんとして、立ち向かっていくようなイメージ。
冒頭で、作曲時のマーラーの失意については書きました。
つまり、大手術の話しや、ウィーンフィル主席指揮者からの地位を無くしたことです。
この荒波を、越えていこうとの意志というものを曲のなかに感じます。
第2部
第3楽章 スケルツォ(力強く、速すぎずに)
ノリのいい三拍子で、進められる明るく元気な1曲ですね。
第3部
第4楽章 アダージェット(とても遅く)
解説は冒頭に書いています。
第5楽章 ロンドーフィナーレ、アレグロ(楽しげに)
とても元気が良く、第1楽章の葬送行進曲の、重々しさを吹き飛ばすかのような勢いの、素晴らしい楽章です。
有名なベートーヴェン:交響曲第9番《合唱》は、よく「苦悩から歓喜へ」という言葉で表現されます。
そして、この、マーラー:交響曲第5番も似たような構造をしています。
つまり、第1楽章の葬送行進曲からはじまって、最後の第5楽章で、明るく楽しげな曲でラストも華やかに終わっていくわけです。
映画やドラマでもそうですが、やはり、ハッピーエンドというのは、いいものですね。
【3枚の名盤を解説】マーラー:交響曲第5番「アダージェット」
ヘルベルト・フォン・カラヤン:指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
耽美の極地!
第4楽章「アダージョ」の調和のやわらかい光が、心にさしてくる。
そんな名盤です。
マーラー:交響曲第5番の全体としても、バランス感覚が冴えた名盤でもありますね。
こちらは、マーラー:交響曲第5番の「アダージェット」も収録されたカラヤン指揮のアダージョ集。
さまざまな作曲家の、さまざまな「アダージョ」が、たっぷり収録された、癒やしの1枚ですね。
こちらもオススメです。
レナード・バーンスタイン:指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
アルパカのおすすめ度★★★★★
マーラーの音楽を広めたい、知ってもらたい、そして聴いてもらいたい!
そんな、思いの熱量がハンパない「情熱的名盤!!」
バーンスタインのマーラー演奏は、一般的には、最新の録音のほうの評価が高いです。
でも、アルパカ的には1960年代に、集中的に録音された、このニューヨーク・フィルハーモニックの録音が断然好きっ!!
晩年の豪華で、録音もクリアなバーンスタインのマーラーも、好きですが、60年代の汗が飛び散ってるような、そして、踊るようなノリのいいマーラーが断然、熱い!!
「アダージョ」だって、情念のこもり方に、並々ならぬものがありますですよ。
必聴の名盤です!
一般的な評価の高いアルバムはこちらです♫ ↓↓↓
ブルーノ・ワルター:指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
アルパカのおすすめ度★★★★☆
本来の「アダージェット」の表記に近い速さの名盤。
つまり、「アダージョより、やや速く」の指示に忠実な名盤と言えます。
カサカサと雑音が入り、また残響の少ない音芸術です。
しかし、「マーラーの弟子」でもあった、ブルーノ・ワルターの師に対する、謙虚な忠誠のようなものを感じます。
あまり甘さにおぼれることなく、理性的に聴きたい時には、こんな演奏はステキかも…。
ラファエル・クーベリック:指揮 バイエルン放送交響楽団
アルパカのおすすめ度★★★★★
伝統を感じさせる誠実さと、重厚感のある安定感。
深い情感を胸に、マーラーの壮大な音芸術をこの三次元世界に、見事に開花させた超絶名盤♫
バーンスタインのマーラー演奏とともに、長く後世に残したい名盤でもありますね。
ベルナルド・ハイティンク:指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
アムステルダム・コンセルトヘボウの、なんとも柔らかいシルクのような、肌ざわりの音世界。
「こんなあたたかいマーラーも、素晴らしいな」
そんなことを深く感じさせてくれる名盤。
とくに「アダージェット」のその優しい、表現には、舌を巻きますね。
これは、さすがの名盤です。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【解説と名盤、まとめ】マーラー:交響曲第5番「アダージェット」
さて、マーラー:交響曲第5番「アダージェット」の名盤の紹介と、解説はいかがでしたか?
ふた夜にわたって、解説してきました「癒やしのアダージョとアダージェット」。
休日や、ホッと一息つきたい時に、寄りそってくれる音楽って、あるものですね。
そのレパートリーの、ひとつに、加えたい2曲を選んで、解説してみました。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は以上になります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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