見わたす限りの白
そんなロシアの雪が見えるよう
庶民の生活も見えてくるピアノの名曲
「透明感」が「音楽として結晶化」したチャイコフスキーのピアノ曲《四季》。
解説と3枚のおすすめ名盤を紹介です。
【解説】チャイコフスキー:四季
チャイコフスキー:四季は、ロシアの生活や、自然、季節の移り変わりなどがピアノ曲に結晶化した名曲です。
チャイコフスキー:四季はロシアのペテルブルクで発行されていた音楽雑誌「ヌーベリスト」が企画して作曲されました。
それは、このような流れです。
つまり、ロシアのさまざまな詩人が書いた「季節の詩」を選びます。
そして、その「季節の詩」をピアノ曲 に表現するべくチャイコフスキーがピアノ曲、四季を作曲しました。
そして、毎月季節を表現した「詩」と「ピアノ曲」が「ヌーベリスト」誌上でシリーズとして掲載されたということだったわけです。
季節の移り変わりを「詩」と「音楽」で楽しめる、なんとも言えない素敵な企画ですよね。
タイムリーに経験した読者の方たちは、なんとも「幸福な時」を過ごしたことでしょう。
【各曲を解説】チャイコフスキー:四季
チャイコフスキー:四季は1月から12月までをテーマに成り立った曲集です。
今回はそのチャイコフスキー:四季の詩の紹介をしながら解説します。
1月 炉ばたで【詩】プーシキン
詩:
おだやかで安らかな、かたすみ
ふと降(お)りてくる夜の闇。
暖炉に灯(とも)る、かすかな炎
燃えがら残る、消えしろうそく。
1日の労働を終えた市民、あるいは農民たちが、その1日を思いながら、炎の前でまどろむ。
そんな情景が浮かびます。
なんとも優しげな、チャイコフスキー:四季の始まりです。
2月 ロシアの謝肉祭【詩】ヴャゼムスキィ
詩:
もうじき、にぎやか
ざわめくよ!
さわぎて歩きし謝肉祭!
愉快なお祭り
ざわめくよ!!
謝肉祭(カーニバル)で、飲んだり食べたりしながら、さわいでいる人びとが描かれています。
いかにも楽しげでテンポも速い曲になっています。
3月 ひばりの歌【詩】マイコフ:詩
詩:
野原の花はゆらめいて
空の光は降り注ぎ、
ひばりの歌は、高らかに
お空の青に満ちていく
少し暗めの基調の1曲ですが、春の訪れを告げて歌う、ひばりの姿が、ありありと見えるようです。
4月 待雪草【詩】マイコフ
詩:
その清らかな水色の
待雪草(まつゆきそう)は透きとおる
かたわら、消えかけ、溶けし雪…
過ぎた悲しみ思いては
最後の涙を流しおる
そして初めて夢を見る
ふたたび別の幸福を…
旧約聖書で有名な禁断の「知恵の木の実」を食べてしまったアダムとイヴ。
2人が楽園を追われ、雪の中を歩いている姿を天使が見つけます。
その際、イヴを憐れに思った天使が雪に息を吹きかけます。
そして、その雪が地に落ちて咲いた花が待雪草です。
英語名はスノードロップ、まさしく空から雪が降りてきて咲いた、まっ白で可憐な花ですね。
そんな儚(はかな)さが見事に音楽に昇華しています。
5月 白夜【詩】フェート
詩:
なんとも癒やされ、安らぐ夜なことでしょう
夜の国のふるさと、ありがとう!
ああ5月、あなたはなんとも新鮮で、
なんとも、すがすがしいことでしょう
一日中、太陽が沈まない、そんな明るくも静かな夜を歌っています。
まるで雪のような透明感のある1曲です。
ちなみに「5月」とありますが、チャイコフスキーが作曲した頃は旧暦をもとに時を過ごしていましたので、現在で言うと「6月」にあたります。
6月 舟歌【詩】プレシシェーエフ
詩:
水辺へ出よう…
足に向けては波が口づけ交わしくる。
ふと見上げると
憂いを秘めた星たちが
僕らの上に、光ることでしょう。
チャイコフスキー:四季の中ではもっとも有名な1曲です。
やはり有名になるだけのことはあって、なんとも美しく、そして寂しげでもあって心に残るメロディですね。
7月 刈入れ人の歌【詩】コリツォフ
詩:
わが手は楽しみワクワクしてる
さあ、振り上げよう!
みなみ風、
このわが顔を吹きぬけろ!
いきおいよく、また元気に草を刈る様を描いていますね。
音楽も、チャイコフスキー:四季には、ある意味「めずらしく」と言っていいでしょう。
明るい1曲に仕上がっています。
8月 収穫【詩】コリツォフ
詩:
男も女もみな集い
さあ刈り取ろう収穫だ
茎(くき)までみんな刈り取ろう
束にした麦、 山のよに
村に運んで、ひと晩じゅう、
荷ぐるま、音楽、鳴り響く
収穫の忙しさを速いテンポで表しています。
少しの休憩を、表現したゆったりとした部分もありながら、ふたたび速いテンポのメロディが繰り返されます。
収穫する農民たちの姿が見えてきます。
9月 狩り【詩】プーシキン
詩:
ときは来たれり、鳴るホルン(角笛)
狩人(かりゅうど)たちは猟犬と
前へ前へと突き進む
今となりては飛び跳ねる、猟犬とどめる術(すべ)もなし
狩りを行う際の勇壮なイメージの曲です。
高らかになるホルンの様や狩人が進む足取りなどもイメージできます。
10月 秋の歌【詩】トルストイ
詩:
秋はおとずれ、小さな庭は
黄金(こがね)の落ち葉がいっぱいだ
木立のすき間に風が吹き、
木の葉、ふき飛ぶ、舞い上がる
大いに盛り上がった収穫の時を終えて、「冬」への序章、「秋」 がやってきます。
吹いてくる風も少し冷たさが増してきているように感じる1曲ですね。
11月 トロイカに乗って【詩】ネクラーソフ
詩:
あこがれ持ちて道を見ず
トロイカあとは追うなかれ
胸の内には憂いとおそれ
いますぐ永遠(とわ)にかき消そう
冬は寂しいばかりでは、ありませんね。
3頭立ての馬がひくソリが雪原をゆく様を描いています。
はじめはゆっくりと、後になるとだんだんスピードはあがっていきます。
まさしく「胸の内の憂いとおそれ」を振り払うようにソリは、突き進みます。
12月 クリスマス週間【詩】ジュコフスキィ
詩:
クリスマス、ある夜(よ)の時の
その晩に、少女(しょうじょ)ら占う
履いてるくつを、放り投げ
門へと向けて転がりし
子供のころは、天気予報も今ほど正確では、ありませんでしたので、明日の天気を占うべく、靴を飛ばして占いました。
表なら「晴れ」、裏なら「雨」、横向きなら「曇り」そんな他愛もないお天気占いですが、ずいぶんと、そぼくな世界に生きていたなあと思います。
この詩の娘たちは何を占っているのでしょう?
やっぱり「天気」?
【3枚の名盤の感想と解説】チャイコフスキー:四季
ウラディーミル・トロップ:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【解説】
全体のバランスを見すえながら感性に流されすぎずに弾くピアノが心地いいですね。
見通しも良くて安心して聴ける名盤です。
ロシアの広大な雪原が見えてくるような透明感と憂いを帯びた表現が心に沁みる。
そんな名盤でもありあますね。
ウラディーミル・アシュケナージ:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【解説】
トロップのようなバランス感というよりは、むしろ感性重視の優しい名盤です。
どこか淡々としていながらも憂愁の美を余すところなく表現していますね。
目をそっと、つむりながら、じっくりと聴きたい、癒やしの名盤ですね。
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【解説と名盤、まとめ】チャイコフスキー:四季
さて、チャイコフスキー:四季の名盤のオススメと、解説はいかがでしたか?
1年中、どな季節に聴いてもジンと心に届く季節の挨拶、または手紙とも言えそう。
そんな季節の移り変わりを音楽で楽しむのも悪くないですよね。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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