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シューベルト:魔王【解説とおすすめ名盤3選】あらすじからわかる怖〜い歌曲の正体!

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父と子をのせ馬がゆく

追うは魔王の黒い影

小さな命、さまようか!

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音楽の教科書に載っていて、誰もが知っている怖い歌…「魔王」

少年の命を奪わんとして迫る魔王の姿が見えない父…。

「魔王」の影に怯える息子…。

迫る、魔王…。

今回は、鬼気迫る不思議な美しさに満たされた名歌曲魔王解説とおすすめ名盤を紹介です。

【ここをクリックすると名盤の解説へ飛びます】

【解説】シューベルト:魔王

歌曲「魔王」の成り立ち

 18歳の若さで有名な「魔王」を作曲して以来、死の床についてからも、創作の手をけっして休めなかったのである。ところで、シューベルトの歌曲は、その旋律の美しさ
が大きな魅力となっているが、忘れてはならないのは、ピアノによって歌では表現しきれない詩の内容をおぎなおうとしたことである。

出典:志鳥栄八郎 著 「新版 不滅の名曲はこのCDで」P351より引用

解説の通り「魔王」という歌曲も、ピアノパートが歌を引き立てて登場人物の情感をあますところなく表しています。18歳の若きシューベルトが歌曲「魔王」の元となる詩を読んでひらめいた旋律を4時間という短い時間で一気に書き上げたと考えられています。

作品ナンバーも「1」となっており歌曲王シューベルトの原点ともいえそうです。

※注:ナンバー「1」(op.1)というのは出版社がつけたもので「魔王」がシューベルトの人生で初の作品というわけではありません。

歌曲「魔王」は、なぜ魅力的なのか?

「魔王」はゲーテが書いたバラード形式の作品です。現在では、バラードとは「スローテンポで心を癒やしてくれる音楽」といったイメージがありますが本来は違います。

ゲーテの時代には「バラード」とは物語性を含んだポエム(詩)としてのひとつの形式でした。歌曲「魔王」では4人の登場人物がいますが「語り手」と「父」と「息子」そして「魔王」です。

シューベルトの「魔王」は5分前後の短い歌曲ですが、歌手1人が4人の役を歌い分けなくてはならないため難しい曲といえます。4人の性格や心情をテンポ、リズム、声のトーンなどを駆使して表現します。

解説にありましたがシューベルトの歌曲は「ピアノ伴奏」も主役の歌手に迫るほどの重要性を持っていることが特徴的です。歌曲「魔王」の持つ神韻縹渺(しんいんびょうびょう)たる芸術性が発揮されていることが証拠づけていると感じます。

4人の登場人物の性格分けとしては

  • 「語り手」=中音域、短調の旋律
  • 「父」=低音域、長調と短調の旋律
  • 「息子」=高音域、短調の旋律
  • 「魔王」=はじめ高音域で長調、最後に低音域で短調

極めつけは「魔王」の部分で、始めのうちは天使のような高い声を使った猫なで声で「息子」をあの世は楽しい世界だよといって誘惑します。始めにいい人のように振る舞うのは詐欺師や誘拐犯のやり口と同じ

しかし、最後で「魔王」が低い声で本性を表すところがますます恐ろしいという作りになっています。歌曲「魔王」が名曲であるとの評価は「5分という短い中で濃密なドラマと芸術性が込められているからである」といえるかもしれません。

歌曲「魔王」の原作はデンマークにあり

歌曲「魔王」はゲーテが原作の「ハンノキの王」を読んだシューベルトが感銘を受けて書いたといわれています。

ゲーテ自身も「ハンノキの王」を書く前に友人であるヘルダーの「民謡集」の中の同名の作品をモチーフにして書いています。

さらにヘルダー自身も、デンマークの作品である「妖精の一撃」という作品をもとに「ハンノキの王」を書きました。

しかし「妖精の一撃」をドイツ語に訳す際にヘルダーが誤って訳したという説があります。デンマーク語の題名「妖精の一撃」(Elveskud)は、妖精を意味する「elve」とスペルが似ている「elle」と取り違えてしまったのではないかというのです。

「elle」というのはデンマーク語で「ハンノキ」です。「妖精」が「ハンノキ」に変わって訳されて、さらに「一撃」が取り除かれた形に…。結果的にドイツ語の題名が「ハンノキの王」になってしまったという説です。

この「ハンノキの王」という題名ですが日本で訳された際には「魔王」となりました。もともとドイツでは「ハンノキ」には精霊や悪霊が宿っているとの考えがあるので「魔王」と訳されたいわれています。

初演:1821年3月7日ケルントナートーア劇場にて
(私的には1820年12月1日の集会にて)

独唱:ヨハン・ミヒャエル・フォーグル

【歌詞を解説】シューベルト:魔王

 

Wer reitet so spät durch Nacht und Wind?

Es ist der Vater mit seinem Kind;

Er hat den Knaben wohl in dem Arm,

Er faßt ihn sicher, er hält ihn warm.

(語り手)
風の吹く夜、切り裂いて

馬を駆りゆく者は誰?

それは父、腕に抱え

息子の体、温める

 

"Mein Sohn, was birgst du so bang dein Gesicht?"

"Siehst, Vater, du den Erlkönig nicht?

Den Erlenkönig mit Kron und Schweif?"

"Mein Sohn, es ist ein Nebelstreif."

「息子よ、何を恐れて顔、隠すのだ?」

「父さん、魔王が見えないの?

王冠かぶり、シッポを持った魔王が…」

「息子よ、あれは、霧の模様ではないか…」

 

"Du liebes Kind, komm, geh mit mir!

Gar schöne Spiele spiel ich mit dir;

Manch bunte Blumen sind an dem Strand,

Meine Mutter hat manch gülden Gewand."

(魔王)

「可愛い子よ、私と一緒においで…

踊って遊ぼう

歌って楽しもう、花は咲き、

こがね色の着物もたくさんあるさ…」

 

"Mein Vater, mein Vater, und hörst du nicht,

Was Erlenkönig mir leise verspricht?"

"Sei ruhig, bleibe ruhig, mein Kind;

In dürren Blättern säuselt der Wind."

「お父さん、お父さん!

なぜ魔王の誘いが聞こえないの?」

「落ち着くのだ息子よ

枯れた葉が揺れているだけさ…」

 

"Willst, feiner Knabe, du mit mir gehn?

Meine Töchter sollen dich warten schön;

Meine Töchter führen den nächtlichen Reihn

Und wiegen und tanzen und singen dich ein,

Sie wiegen und tanzen und singen dich ein."

(魔王)

「可愛い子よ、私と一緒においで…

私の娘たちが心を込めて君の面倒を見て

歌や踊りも毎晩楽しめる…」

 

"Mein Vater, mein Vater, und siehst du nicht dort

Erlkönigs Töchter am düstern Ort?"

"Mein Sohn, mein Sohn, ich seh es genau,

Es scheinen die alten Weiden so grau."

「お父さん、お父さん、

あれが見えないの?

魔王の娘たちが薄暗がりに立っている…」

「息子よ、息子よ、ああ、見えるさ

それは灰色の枯れた柳だ」

 

"Ich liebe dich, mich reizt deine schöne Gestalt,

Und bist du nicht willig, so brauch ich Gewalt."

"Mein Vater, mein Vater, jetzt faßt er mich an!

Erlkönig hat mir ein Leids getan!"

(魔王)

「私は君が大好きだ。可愛らしいその姿…

いやなら、力ずくでも連れて行く!」

「お父さん、お父さん!

魔王が僕をつかんでくる!

魔王が僕を苦しめるんだ!」

 

Dem Vater grauset's, er reitet geschwind,

Er hält in dem Armen das ächzende Kind,

Erreicht den Hof mit Müh und Not;

In seinen Armen das Kind war tot.

(語り手)

父は恐怖の中で馬を急がせる

苦しむ息子を腕に抱き

やっとの思いで医者の館に着くと

腕の中、息子は天に召されていた…

【名盤3選の感想と解説】シューベルト:魔王

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ:バリトン 
ジェラルド・ムーア ピアノ

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ & ジェラルド・ムーア

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アルパカのおすすめ度★★★★★

【名盤の解説】

ディースカウの澄み切ったバリトンが歌う鬼気迫る「魔王」は素晴らしい。歌の始めのうちに長調で天使のごとく語りかけてくる「魔王」が最後には短調で豹変する様は背筋が凍る思い。

淡々と歌う「語り手」、父の「焦り」、「息子」の恐怖心、そして虎視眈々(こしたんたん)と命を狙う「魔王」の策略…どれもが息を飲みます。

ピアノ伴奏のムーアもディースカウの「歌」を最大限に引き立てます。それまで歌手の下にみられていた「伴奏者」を歌手と同等の認識にまで高めたムーア。絶妙なピアノが朗々と流れるように歌う生粋の名盤です。

 

ヘルマン・プライ:バリトン 
カール・エンゲル:ピアノ

Schubert: 野ばら

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アルパカのおすすめ度★★★★☆

【名盤の解説】

ディースカウの美しいバリトンが完璧過ぎるという向きには感情豊かな表現を得意としたプライのバリトンも感動的な聴き応えです。「語り手」にも揺れる心が表れ、登場する父も体のがっしりした頼りがいのあるイメージです。

おびえる息子の恐怖心も、ただ事ではなく「魔王」の目論見になすすべもない様子。「魔王」は始めはどことなく「ユーモア」さえ表しているかのような余裕の迫り方です。

感情の波に起伏が多くドラマティックに聴ける名盤です。

 

クリスタ・ルートヴィッヒ:ソプラノ 
ジェフリー・パーソンズ:ピアノ
 

クリスタ・ルートヴィヒ

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アルパカのおすすめ度★★★★☆

【名盤の解説】

メゾソプラノの高い音域の「魔王」です。「父」の印象はディースカウやプライにあるような図太くガッシリとしたものではありません。しかし「魔王」が高く美しい声で誘ってくる感じはなかなか怖いものがあります。

登場人物を声の高低で変化をつけるというよりは歌のテンポを速めていくことで効果を出しているように感じます。特に歌の最後で、医者の館へとスピードを上げていく場面の緊迫感が印象的な名盤です。

 

【まとめ】シューベルト:魔王

歌曲「魔王」の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?鬼気迫る不思議な美しさに満たされた名歌曲としても有名な「魔王」ですが、作曲までの成り立ちもなかなか興味深いものがありますね。

名曲なだけに名盤も多いですので、色々と聴いてみてもそれぞれのドラマがあって面白いものです。

 

 

 そんなわけで…

 

『ひとつの曲で、

 

たくさんな、楽しみが満喫できる。

 

それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』

 

今回は、以上になります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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