その勇姿
堂々!
皇帝協奏曲!!
みなぎる生命力と勇壮な曲想、交響曲的なスケールの大きさをも兼ね備えた名曲。ベートーヴェンの苦悩の時、横溢するインスピレーションの泉が溢れ出して止まらない。
今回は、ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番《皇帝》の解説とおすすめ名盤を紹介します。
【曲の解説】
協奏曲大陸に数多ある王国の、王の中の王… "皇帝 " である。 変ホ長調。この調の響きには英雄の魂 (第3交響曲)がひそんでおり、皇帝の厳かな声が聴えるのだ。
出典:諸井誠 著 「ピアノ名曲名盤100」P74より引用
1809年、ナポレオン率いるフランス軍のウィーン進行によって町が砲弾の攻撃にさらされていました。39歳のベートーヴェンは、弟カールの自宅地下室で避難生活を送りながらピアノ協奏曲第5番の作曲を行っていました。
ベートーヴェンを手厚く援助していたオーストリア貴族たちが疎開して、生活的にも苦しい中で、もともと患っていた耳の疾病も攻撃の爆音が原因で急激に悪化。ベートーヴェンは、ピアノ協奏曲第4番までは自身で初演を務めていましたが、第5番はベートーヴェン以外の人物が行っています。ピアノ協奏曲第5番が完成した頃には、すでに耳の症状がかなり進行していたためです。
ピアノ協奏曲第5番を「皇帝」と名付けたのは、ベートーヴェンとも面識のあったヨハン・バプティスト・クラーマーでした。作曲当時、ベートーヴェンがナポレオン軍の攻撃に悩まされていたことを考えるとそぐわないとの意見があります。
しかし、ベートーヴェンの全協奏曲からみて、もっとも堂々とした曲想を持っており力強い「皇帝」を思わせる大曲といえます。 この壮大で交響曲的な要素を持ったピアノ協奏曲第5番は、後世のブラームスのピアノ協奏曲にも影響しており、大変意味のある曲ともいえます。
初演:
非公開初演:1811年1月13日*ロプコヴィツ侯爵宮殿
独奏:ルドルフ大公
ライプツィヒ公開初演:1811年11月28日*ゲヴァントハウス演奏会
独奏:J.Fシュナイダー
ウィーン初演:1812年2月12日*ケルントナートーア劇場
独奏:チェルニー
編成:
ピアノ、弦5部、フルート×2、オーボエ×2、クラリネット(B管)×2、ファゴット×2、ホルン×2、トランペット×2、ティンパニ
【各楽章を解説】
第1楽章 アレグロ(速く)
始まりから威厳のある序奏が鳴り響くと、導かれるようにピアノが高らかに歌い始めます。「苦悩から歓喜へ」といったベートーヴェンの曲によく採用される型の「苦悩」を飛び越え、いきなり「歓喜へ」といった趣きです。
曲想が大きく膨れ上がった上で、強固な信念に裏打ちされた楽章で印象的。協奏曲ではほぼ必ず挿入されていた即興のカデンツァはなくベートーヴェン自身で作曲して残しています。
壮大でありながら曲全体として粗暴さはなく、ただただ美しさに包みこまれた類まれなる楽章です。
第2楽章 アダージョ・ウン・ポーコ・モッソ(ゆっくりと、少し動きをつけて)
調和的な第2楽章は静かな弦楽器から始まり、ピアノがそっと歌を重ねていきます。春のそよ風がそっと髪に触れたかと思うとそれに気づかせることなく通り過ぎます。
優しい過去を追想するような甘くて美しい楽章で、心に深く印象に残ります。夢見るような柔和な緩徐楽章となっており最後は、ピアノの音とともに静かに消え入ろうとします…。
第3楽章 ロンド|アレグロ:ピウ・アレグロ
第2楽章から引き継がれた消え入りそうなピアノが、いきなり力を持って情熱を燃え上がらせます。最終楽章を彩る華やかな曲で、第1楽章に勝るとも劣らない雄渾壮大な曲です。
エネルギーに満たされた躍動と飛翔感覚は、皇帝ピアノ協奏曲独特なもの。最後はそっとささやくピアノとティンパニだけが残ったかと思いきやピアノが壮大に奏でられて勢いを持った強奏で幕を閉じます。
【名盤3選の感想と解説】
ヴィルヘルム・ケンプ:ピアノ
フェルディナント・ライトナー:指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
力強さの中に存分に溢れて止まない歌心が流れています。ケンプのピアノにしても、ライトナーとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のバックにしてもです。自然に奏でられるベートーヴェンの旋律が美しくまとまりを持ちます。
しかし、だからといって計算高さは皆無といってよく、機械的なぎこちなさがありません。どこまでも流麗で美しく鳴らしきったベートーヴェンといった印象です。堂々としていながら慈しみ深いとても好感の持てる「皇帝」です。
アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ:ピアノ
カルロ・マリア・ジュリーニ:指揮
ウィーン交響楽団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
ミケランジェリのピアノが豪華な弾きっぷりで圧倒してくる名盤です。ただただ華やかで超絶技巧とはこういったものかと思わせてくれます。これが鼻につかないのはジュリーニの指揮する管弦楽の柔和ながらも芯の強さを持ったウィーン交響楽団です。
ピアノの主張をしっかりと支えながら大調和を作っており、曲の持つ壮大さを嫌味のない心地良いものに昇華しています。1979年ウィーンにおける貴重なライブ録音でホールの感動が伝わってくる名盤でもあります。
クラウディオ・アラウ:ピアノ
サー・コリン・デイヴィス:指揮
シュターツカペレ・ドレスデン
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
ミケランジェリのような華やかさとは対象的な、優美な要素のある名盤で、ふとしたニュアンスにあたたかみを含んでいます。当時アラウは81歳、全くもって年齢を感じさせない力強さがあり驚かされます。
ディヴィス指揮のもと、シュターツカペレ・ドレスデンもとても重厚でありながら包容力もあって好感が持てるサポートです。舌を巻くような技巧で惹きつけるというよりは、しっかりと歌いながら何度聴いても慈しみ深い響きに感動できる名盤です。
マウリツィオ・ポリーニ:ピアノ
クラウディオ・アバド:指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
磨き抜かれた技巧を遺憾なく発揮するポリーニとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の美感を引き出すアバドが創り出した名盤。過去、カール・ベームとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と共演した素晴らしい演奏もありました。
そちらもピアノと指揮者オーケストラが調和していて聴き応えがあります。
今回紹介するアバドとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との共演は、ピアノとオーケストラがしっかり主張。しかも絶妙に調和したバランス感覚で聴かせる名盤になっています。
アルフレッド・ブレンデル:ピアノ
ジェイムス・レヴァイン:指揮
シカゴ交響楽団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
ブレンデルのきらめくピアノに、レヴァインとシカゴ交響楽団のエネルギッシュなサポートを得た皇帝協奏曲です。ブレンデルには珍しくライブ録音で独特の臨場感を伴っています。
ブレンデルの繊細さの感じられるピアノの響きですが、決して弱々しいわけではなく皇帝協奏曲にふさわしい風格を持って迫ってきます。特に疾走感のある最終楽章を珠のような光を放って響くブレンデルのピアノが美しい。全体としては、レヴァインとシカゴ交響楽団との共演で力強くありながらも優美さをも含んだバランス系の名盤です。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【まとめ】
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番《皇帝》の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
その勇姿
堂々!
皇帝協奏曲!!
苦悩の続く毎日の中から勇壮な「皇帝」を思わせる大曲が生まれた背景を追ってみました。
壮大で交響曲的な要素を持ったピアノ協奏曲第5番《皇帝》ぜひ、一度、聴いてみてくださいね。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の醍醐味ですよね』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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