右手を失ったピアニスト…
戦後のメランコリックな心と
そこから放つ美しさのある名曲♫
重い心情の表現がありながらも、鮮(あざ)やかな展開をするモーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲の解説とおすすめ名盤を紹介です。
- 【解説】モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
- 【各楽章を解説】モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
- 【3枚の名盤の感想と解説】モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
- 【解説と名盤、まとめ】モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
【解説】モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
エピソードを解説:モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲の独特なエピソードを含む、こんな解説があります。
ポール・ヴィトゲンシュタインという金持ちのピアニストがいた。
戦争で右手を失ったが、ピアノをあきらめず、金にあかせていろいろな人々に左手のための協奏曲を依嘱した。
リヒャルト・シュトラウスやプロコフィエフも書いたが、いずれも成功しなかった。
この挑戦の勝利の桂冠は、ラヴェルのものだった。(中略)
どこか悲劇的な気分をただよわせるのは、「片手のピアニスト」を思い、悲惨な戦争を 意識したせいであろうか?
出典:諸井誠 著 「ピアノ名曲名盤100」P190より引用
1931年11月、ヴィトゲンシュタイン自身によるピアノによる初演が行われました。
しかし、あまりにも難易度の高さに弾きこなすことが出来ませんでした。
そこで、楽譜を書き換えて演奏したため、そのことを良く思わなかったモーリス・ラヴェルとの仲が悪くなったというエピソードがあります。
また、左手のためのピアノ協奏曲が「技巧にこだわりすぎだ」との批判をしたことも、その原因をつくるのに追い打ちをかけたようです。
そんなエピソードのあるモーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲です。
そして、今でも、さまざまな事情で「左手のみ」でしか活動できないピアニストたちにとってのレパートリーのひとつとなっています。
楽曲の特色を解説:モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲の特徴としては、ジャズの要素が色濃く反映していると言われます。
1928年、モーリス・ラヴェルはアメリカでの演奏旅行を行っています。
その際に触れたジャズに流れる、黒人音楽のもつ独特な音階をラヴェル自身が取り入れています。
そのため当時としては、とても「新しい感覚のクラシック音楽」と言えました。
また、モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲の、オーケストラの部分をピアノであらわした自筆の楽譜がありあます。
この表紙には「たわむれる女神たち」と書かれていました。
この意味はモーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲がさまざまな要素を取り入れているという意味です。
つまり、ロマンティックであり、ジャズ的でもあり、またマーチ(行進曲)のようでもあるという意味が含まれているのです。
そういった意味で《左手のためのピアノ協奏曲》は、モーリス・ラヴェルによる音楽的な挑戦が詰め込まれているのです。
【各楽章を解説】モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲は単一の曲として出来上がってはいますが構成としては3部に分かれています。
その各部について解説したいと思います。
第1部 モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
第一次世界大戦の重苦しいイメージがここに表れているのかもしれません。
はじまりは、重く、切なく、憂うつです。
しかし、そんな暗いイメージであったとしてもモーリス・ラヴェルの音楽は優雅さを失いません。
また、曲が進むにつれて、わずかばかりではありますが明るさを帯びてきます。
そのしらじらと夜が明けていくようなイメージは重苦しい戦争が終わりに近づいていくイメージにも感じられもしますね。
第2部 モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
軍事パレードのごとき、勇ましいマーチ(行進曲)を思わせるドラマティックな始まりです。
ズンチャッチャ♫
ズンチャッチャ♫
ズンチャッチャ♫
というリズムとともに、縦横無尽に変化を遂げていく音楽の流れの面白さでワクワクと気持ちが高ぶってきます。
最後は「戦いにおける勝利」を思わせるような、劇的な展開を見せて、第3部へと移っていくのです。
第3部 モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
第1部の陰うつなモチーフが再び現れてきますが、第1部よりも「優雅に舞うミューズ(女神)」のイメージに近く、とても艷(つや)やかです。
モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲の印象が豪華に感じられるのはこの「終わり方の明るいイメージ」があるからなのだと感じますね。
【3枚の名盤の感想と解説】モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
サンソン・フランソワ:ピアノ
アンドレ・クリュイタンス指揮
パリ音楽院管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
冒頭の重々しく沈鬱(ちんうつ)な響きは恐ろしさを感じます。
戦後の荒廃の中を、なんとか気持ちを保って生き抜こうとし、懸命に一歩を進めようとする人々のイメージが湧いてくるくらいです。
それ故に全体をつらぬくラヴェル独特の耽美(たんび)さがコントラスト強く、表現されている名盤中の名盤です。
1950年代の、とても古い録音で音は鮮明とは言えませんが一度は聴いておきたい名盤とも言えます。
フランソワの斜に構えた皮肉系の演奏がまた「ココロニクイ」。
そのピアノをサポートするべく「重厚さ」と「華やかさ」を縦横無尽に使い分けて美しいクリュイタンスの棒さばきも見事と言える名盤でもありますね。
パスカル・ロジェ:ピアノ
シャルル・デュトワ指揮
モントリオール交響楽団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
フランソワとクリュイタンスのコンビとは真逆と言っていいくらいのすっきり系の豊かな名盤。
ラヴェルのもつ音の美感を「左手のためのピアノ協奏曲」という素材を使って鮮やかに表現しています。
作曲の背景である戦争後の重々しさには欠けますが、ラヴェル本来の色彩感を満喫したい時に、聴きたい名盤です。
ゾルタン・コチシュ:ピアノ
イヴァン・フィッシャー指揮
ブダペスト祝祭管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
華やかなコチシュのピアノは本来、重厚なつくりのモーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲の演奏の際でも印象的。
そんな名盤です。
冒頭が重々しく、悲劇的な印象のある、モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲ですがピアノの華麗な響きがなんともドラマティックです。
決して悲劇の底までは打ち沈まないくらいの程よいバランスを保っている名盤でもあります。
軍隊パレード風の部分でも品がありますし、全体としてとても聴きやすい感性にそっと触れてくる系の名盤ですね。
アルド・チッコリーニ:ピアノ
ジャン・マルティノン:指揮
パリ管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
チッコリーニの繊細で、こまやかなタッチの名盤です。
ことさら重苦しくすることはなく、また、明るい部分であってもまぶしくなりすぎることはありません。
抜けるような透明感もあって優しくキラキラと光ってる音のつぶたちが弾けてる名盤でもあります。
ラヴェルを得意としたマルティノンとパリ管弦楽団のコンビも、そんなチッコリーニのピアノを巧みに引き立てて気持ちいいですね。
肌触りのいい聴きやすいモーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲の名盤です。
ヴラド・ペルルミュテール:ピアノ
ヤッシャ・ホーレンシュタイン:指揮
コロンヌ管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
普段ラヴェルは演奏者に対して指示を出すことはせず自由に弾いてもらっていたそうです。
しかしペルルミュテールにだけは、楽譜には書かれていない指示や弾き方などを伝授した唯一のピアニストだったそうです。
「衣鉢(いはつ)を継ぐ」という言葉があります。
師匠から弟子へ、その「奥義や教えなどを継承すること」ですが、このエピソードは、まるで音楽的に「衣鉢(いはつ)を継いだ」ように見えなくもありません。
実際の演奏は、悠揚(ゆうよう)迫らぬテンポといいますか、ゆったりと動じない流れを感じます。
ラヴェルの伝えたかったこととはなんだったのでしょう。
表面的な派手さよりは、淡々とした味わいの中にある「深いコク」を伝えていたのかな…。
今となってはその心意はわかりませんし、ピアニストのペルルミュテールはすでに師のラヴェルのもとへ旅立っています。
後世に残された、凡人リスナーのアルパカは残された録音をじっくり聴いて、わずかばかりでもラヴェルやペルルミュテールの思いを感じ取るしかありませんね。
そんな深い意味や思いを含んだ名盤と言えそうです。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【解説と名盤、まとめ】モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
さて、モーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
彩り豊かにドラマティックな展開するモーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲は全曲聴いても20分足らずの曲です。
忙しい現代人でもモーリス・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲の織りなす音楽ドラマが楽しめますよ〜♫
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。