「孤独だが、自由だ…」
でも、寂しくもある
老いさき…♫
ブラームス自身が「私の苦悩の子守歌」と呼んだ「3つの間奏曲」。
ブラームスの晩年、作曲への意欲が衰えていく中でリリック(叙情的)な心情とともに降りるピアノ曲のインスピレーション…。
今回は「ゆっくりと降り積もる落ち葉のような静けさに包まれた名曲」3つの間奏曲の解説とおすすめ名盤を紹介です。
【解説】ブラームス:3つの間奏曲
晩年のブラームスが到達した心境は、何にたとえられるだろうか…。「孤独だが、自由だ」それは生涯を通じて独身を貫いた彼のモットーだった。この孤高の魂の歌や呟きや呻きがもっともよく描き出されているのが、作品116から作品119に至る4つのピアノ曲集だ。 それらは粒揃いのミニアチュール(細密画)として、ピアノ音楽史上際立った独自の領域を形成しているのである。
出典:諸井誠 著 「ピアノ名曲名盤100」P148より引用
テンポが安定していてシンプルであり、驚くような転調もなく恬淡(てんたん)とした味わいがあります。どことなく透明感をともなっていて晩年のブラームスのいい意味での諦(あきら)めの境地のようなものが感じられます。
解説にありますが、作品116から作品119に至る4つのピアノ曲集は「粒揃いのミニアチュール(細密画)」という喩(たと)えがピッタリ。「3つの間奏曲」というピアノ曲は、ブラームスの心境があますところなく表わされていると感じます。
「3つの間奏曲」は「作品117」ですが、作品116から119にいたる4つのピアノ曲集はブラームス自身を雄弁に語っているような…。まさしくブラームスの「ミニアチュール(細密画)集」と呼んでも差し支えないくらいの「豊かな詩情の薫(かお)るピアノ小品集」に仕上がっています。
【各楽章を解説】ブラームス:3つの間奏曲
第1番 変ホ長調 アンダンテ・モデラート(歩くような速さで)
ブラームスはドイツの詩人ヘルダーの詩集《諸国民の声》の中のスコットランドの子守唄の一節を楽譜に書き入れています。
すやすやと眠っておくれ…わが子よ…
君が泣くと、私がつらいから…
子守唄にふさわしく安らぎに満ちたテンポとメロディは、年老いてゆくブラームスと逆行するような無邪気な境地ともとれます。どことなくブラームスの恩人、シューマンの曲で有名なトロイメライのような雰囲気もあります。
…でも、やっぱり…ほんの少しさみしげです…。
第2番 変ロ短調 アンダンテ・ノン・トロッポ・エ・コン・モルト・エスプレッシオーネ(歩く速さで…表情豊かに)
メランコリックな要素がブラームスの旋律と合わさって、とても美しい歌を展開していきます。時にやさしく、時にほほえみ、そして時にさみしげに表情を変えながら語られるおとぎ話のような1曲です。
第3番 嬰ハ短調 アンダンテ・コン・モート(歩く速さで、動きもつけて)
「舞曲」とまでは行かないまでも、ほんの少しだけ心拍数をあげた響きを持ちます。何か物思いにふけっているようにも感じます。
淡々としてはいますが、最後はやはり静かに幕を弾くように終わっていきます。
【名盤3選の感想と解説】ブラームス:3つの間奏曲
ヴィルヘルム・ケンプ:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
重厚さだけでは表わせない子守唄の要素を、彩り豊かにきらめくタッチで表現された名盤です。アルバム1枚にブラームスの晩年に作曲された小品集がギュッと詰まっている選曲であるのもおすすめの理由。
3つの間奏曲という静かな曲と誠実に向き合いながら、ブラームスの心情に深い共鳴を持って表現しているように感じます。晩年のブラームスを思ってか、そこはかとなくさみしく、また端正で、音のひと粒ひと粒がほどよくはじけていてステキです。全体のバランスがとれており安心して長く聴き続けられる名盤です。
グレン・グールド:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
ゆったりとしたテンポできっちりとした知的なアプローチをしながら晩年のブラームスの寂寥(せきりょう)感を表出した名盤です。グールドのピアニズムの中には凍えながら廃墟をさまよう旅人のような印象があります。
デカダン(退廃主義)を謳いながら「深い闇を掘り起こして打ち抜いた先に垣間見える小さな光」が感じられます。
本来、子守唄から発想された間奏曲集ですが、彩色を取り去ってしまったあとの澄み切った空気のようなものが風として吹き渡ってきます。
明らかに異質なブラームスですが、グールドが開いた新しい境地といっていいかもしれません。
ブラームスの晩年のピアノ小品をチョイスして順番を変えながら1枚のアルバムに仕上げたところも新しい試みの名盤です。
マリア・ジョアン・ピレシュ:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
「3つの間奏曲」にある子守唄の要素をピリスの優美なタッチで表出させた名盤。どこまでも思いやりのある包み込むようなやわらかさです。ブラームスの憂いの部分というよりは本来の旋律作家として優れた面がでています。
ショパンが得意なピリスらしく、とても詩情豊かで美しいブラームスが聴けます。ピリスの弾く子守唄を聴きながら夢の中で心楽しく遊べるような心地の名盤です。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【まとめ】ブラームス:3つの間奏曲
ブラームス:3つの間奏曲の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
「孤独だが、自由だ…」
でも、寂しくもある
老いさき…♫
ブラームスの晩年は作曲への意欲が衰えていきました。さみしくもあり、しかし、音楽における功績もそれなりに多かった人生…。
そっと何かが頬をなでるようにブラームスの肩越しに降ろされてくるピアノ曲の小品たちのインスピレーション…。
うなだれていた頭を少しあげ、五線譜に音符をつむいでいったブラームスの姿を思います。
特に、秋から冬のはじまりにかけて聴くと心の深いところにまで沁みてきますね…。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。