幻想?幻覚?妄想?
あやしげな情熱が
産み出した奇妙な1曲♫
病的な
- 感受性!
- 想像力!
- そして、失恋からの絶望!!
そんな感性と経験が生んだ「奇妙な美しさ」をともなった曲、ベルリオーズの《幻想交響曲》の解説とおすすめ名盤を紹介です。
【解説】ベルリオーズ:幻想交響曲
ベルリオーズ:幻想交響曲の成り立ちについてのこんな解説があります。
ベルリオーズ自身が
「失恋した若い芸術家が、苦しい眠りのなかで、恋人の幻想を見る……」(大意)
という文を書いているこの曲は、標題交響曲の先がけをなすものとして、交響曲史上大きな意義をもつ作品となった。
出典:志鳥栄八郎 著 「不滅の名曲はこのCDで」P44より引用
1827年、パリでベルリオーズは、シェイクスピア劇団の「ハムレット」を観ます。
その中で、ヒロインのオフィーリアを演じ、当時人気女優だったハリエット・スミスソンに強い恋心を持ち積極的なアプローチを試みます。
しかし、当時無名の音楽家だったベルリオーズは見向きもされません。
そして、劇団はパリを去りますが、それとともにハリエット・スミスソンもベルリオーズの前から去ってしまったのでした。
ベルリオーズは、失恋の痛手を抱えつつもスミスソンに未練たらたら…。
なんとか彼女の気持ちを引きつけようと《幻想交響曲》は作曲されました。
そして《幻想交響曲》のプログラムに書かれたベルリオーズ自身の言葉が冒頭の解説の内容でした。
つまり、
「失恋した若い芸術家が、苦しい眠りのなかで、恋人の幻想を見る……」
というものです。
そして、さらに詳しく書くと大体、以下のような内容でした。
病的な感受性と激しい想像力に富んだ若い音楽家が、恋の悩みによる絶望の発作からアヘンによる服毒自殺を図る。
麻酔薬の量は、死に至らしめるには足りず、彼は重苦しい眠りの中で一連の奇怪な幻想を見、その中で感覚、感情、記憶が、彼の病んだ脳の中に観念となって、そして音楽的な映像となって現われる。
愛する人その人が、一つの旋律となって、そしてあたかも固定観念のように現われ、そこかしこに見出され、聞えてくる。
ウィキペディアより引用
文中の最後に
「愛する人その人が、一つの旋律となって…」
とありますがこの旋律が《幻想交響曲》のところどころにあらわれて全体的な統一感を保っています。
また、20世紀を代表する指揮者のバーンスタインは、
「史上初のサイケデリックな交響曲だ」
と評価しています。
つまり、アヘンを吸った際の「幻覚的で、また幻想的な精神状態で作曲した」ということです。
そして、実際、ベルリオーズ自身が「アヘンを吸った」ことをほのめかす発言もしていたようです。
それはさておき、作曲の動機や成り立ちとは別に、ベルリオーズはベートーヴェンの交響曲に深く影響を受けていました。
つまり、ベートーヴェンの交響曲のように「音楽で情景を描写」して見せた曲に影響を受けたと言われるのがベルリオーズの《幻想交響曲》なのです。
そしてこの「音楽で情景を描写」する作曲法が、のちの「標題音楽」というジャンルのさきがけとなったという意味で、実は音楽史から見ても重要な1曲となっています。
うーん、サイケデリック要素の強い曲が意外と音楽史に影響を与えているというところがベルリオーズの《幻想交響曲》の不思議なところですね。
【各楽章を解説】ベルリオーズ:幻想交響曲
それでは、各楽章について解説します。
ベルリオーズ:幻想交響曲は第1楽章から第5楽章までの5曲で成り立っています。
第1楽章 夢、情熱
はじめの優美な旋律は恋するスミスソンへの「純粋な想い」とそれが「かなわぬ想いであるということ」が交錯しているようで興味深いです。
そして「 お、ここで盛り上がるのか…」と思いきや再び悲しみのモチーフへと逆戻りして期待を裏切られる。
そんな、なんとももどかしく曲が進行します。
しかしこれはベルリオーズの心の動きそのもののようにも感じます。
第2楽章 舞踏会
ベルリオーズ:幻想交響曲のなかではこの第2楽章がなんとも優雅で気品のある1曲となっています。
他の楽章がショッキングなだけにこの美しさやリズムの心地よさに強いコントラストを感じます。
ベルリオーズ:幻想交響曲のなかで「つかの間の安らぎの瞬間」と言えそうです。
第3楽章 野の風景
ベートーヴェンにあこがれたベルリオーズにしては田園交響曲とは打って変わっての「野の風景」です。
つまりベートーヴェンの田園交響曲におけるの「野の風景」とは
- 草木が生い茂り
- 鳥はさえずり
- 川のせせらぎが聴こえます
しかし、ベルリオーズの「野の風景」はどことなく荒れていて寂しさが漂いますね。
それはきっとベルリオーズとベートーヴェンの「心のうちに広がる風景の違い」なのでしょう。
そして第3楽章は遠雷の音がティンパニで奏されながらも静かに終わっていき…
第4楽章 断頭台への行進
第3楽章の遠雷から…なんと断頭台への行進曲へとつながるのがこの第4楽章です。
ベルリオーズ:幻想交響曲のもっとも有名な楽章と言えます。
この第4楽章の物語としては、
彼は夢の中で愛していた彼女を殺し、死刑を宣告され、断頭台へ引かれいく。
行列は行進曲にあわせて前進し、その行進曲は時に暗く荒々しく、時に華やかに厳(おごそ)かになる。
その中で鈍く重い足音に切れ目なく続くより騒々しい轟音(ごうおん)。ついに、固定観念が再び一瞬現われるが、それはあたかも最後の愛の思いのように死の一撃によって遮(さえぎ)られる。
うわ…ちょっと怖いですね。
第5楽章 魔女の夜のうたげの夢
魔女のうたげには
- 亡霊
- 魔法使い
- バケモノ
がおり、死を迎えた彼の葬儀のために集まってきます。
- 奇妙な音
- うめき声
- ケタケタという笑い声
- 遠くからのさけび声
不快で、いやしくて、気味の悪い舞踏会。
そしてその魔女のうたげに、殺したはずの彼女がやってきます。
そんな「奇妙なイメージ」を持つ最終楽章ですが、まさしく「奇妙な美しさ」をともなったなんとも不可思議な曲と言えましょう。
【3選の名盤の感想と解説】ベルリオーズ:幻想交響曲
シャルル・ミュンシュ:指揮 パリ管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
「奇妙な理念」が詰まったベルリオーズ:幻想交響曲を、色彩豊かに、また変幻自在に楽団をドライブしきった名盤です。
ベルリオーズ:幻想交響曲の長く愛され続けている名盤ですので、あまり選択肢もなく「コレ!」と言えそうな名盤でもあります。
本来デモーニッシュ(悪魔的)なイメージの《幻想交響曲》ですが、うまく美しさを抽出していると感じます。
いろいろな名盤を聴く中でもこれだけは外せないデフォルトと言っても過言ではなさそうですね。
レナード・バーンスタイン:指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
まさしくサイケな名盤 !!
40代の血気盛んなバーンスタインの「燃えたぎるパッション」を素(す)のままに、そしてダムのごとく放流した名盤!
バーンスタインの言うところの「サイケデリックな交響曲」を、最大限の知性を動員しつつ「美しさ」からブレない程度にラリってみた名盤でもありますね。
まさしく「美しさ」と「狂気」の綱渡り…。
右に傾きゃ「美しさ」に昇天し、
左に傾きゃ「狂気」に堕ちる!!
そんなバランス取るためにヒヤヒヤしながらの綱渡り的であり、また手に汗握る名盤でもあります。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【解説と名盤、まとめ】ベルリオーズ:幻想交響曲
さて、ベルリオーズ:幻想交響曲の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
- 感受性!
- 想像力!
- そして、失恋からの絶望!!
うっ…ちょっと怖い…。
どうも「狂気」と「美しさ」って紙一重なところがありますね。
このベルリオーズ:幻想交響曲はその最たる曲かも…。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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