おお美しい…
と、思いきや
ずっこける迷曲♫
面白くねえ!!
ちまたの演奏家は下手な音を響かせ、
作曲家はくだらない旋律を量産しやがる!
鬱屈するモーツァルトのルサンチマン(強者への嫉妬)、メラメラと燃ゆ!
- おかしげに音が外れるホルン…
- 不安定に揺れ動くメロディ…
- まとまりの無いアンサンブル…
でも、コレ、ちゃんと楽譜通り!
ある意味、演奏、むっちゃムズい。
さて、今回は、モーツァルト:音楽の冗談の解説とおすすめ名盤を紹介です。
【解説】モーツァルト《音楽の冗談》
ルサンチマン(強者への嫉妬心)燃ゆ
モーツァルトを描いた映画《アマデウス》で、大勢で馬鹿騒ぎをしながら、ひとつの曲をバッハ風に弾いて見せる場面がありました。
さらに、まわりのリクエストで
「サリエリ風で…」
これを要望したのは仮面で顔を隠したサリエリ本人だったわけですが、これに対して、モーツァルトは、
「面白い、腕の見せどころだ」
サリエリ本人を馬鹿にしたような、まだるっこしい雰囲気で弾きます。
そして引き終わった後、
ぶううう〜っ!
と、勢いよくオ○ラ…。
(以上の場面はもちろん、映画を面白くするシーンであって、史実ではありません)
映画の中では、そんな強烈な印象が残る場面でした。
《音楽の冗談》という曲も、日頃のモーツァルトの冗談っぽい遊び心が表れています。
さて、モーツァルト自身は自分の作曲する音楽に対する自己評価は高かったことでしょう。
現在でもなおモーツァルトの音楽は演奏され続けていることからもその評価は正しかったと言えます。
ただ、当時の貧乏なモーツァルトにしてみれば、日ごろ、下手な演奏や作曲をする豊かな階級のひとたちへの嫉妬の念は強かったことと思います。
そんな感情を持って、いわば当てつけるように《音楽の冗談》は書かれたと考えられています。
つまり、あえて下手くそが演奏するような音楽を正確に楽譜に書き上げることで、豊かな階級の人たちを皮肉っていたと思われます。
前述したサリエリや、モーツァルトの父レオポルトの作曲した曲からの引用も一部見られるということも興味深いところです。
サリエリにしても、父レオポルトにしても当時の貴族とは上手に交流しながら生き切ることが出来た人種でした。
そういった意味で、モーツァルトの2人に対して羨望の思いを持っていたことも可能性としてはゼロではありません。
死への恐怖と憧れ
《音楽の冗談》が作曲されたのと同じ頃、モーツァルトは父レオポルトに手紙を書いています。
死は人生の真の最終目標ですが、数年このかた、ぼくはこの真実の最上の友にすっかり馴れてしまったので(中略)ぼくは(まだこんなはに若いのに)おそらく明日はこの世にはいまいと考えずに床についたことはありません。しかしながら、ぼくを知っている者は、ひとりとして、ぼくがつき合いの上で、陰気だとか悲しげだとか言える者はないはずです。
出典:アンリ・ゲオン 著「モーツァルトとの散歩」p249より引用
冗談や下品な話が大好きなモーツァルトでしたが、人なら誰しもが持つ不安や焦燥のようなものは心に渦巻いていたものと思われます。
その心の闇が深いからこそ、モーツァルトにとってのユーモアは必要不可欠のものだったのかもしれません。
この手紙を書いてから間もなくモーツァルトの愛する父レオポルトが他界します。
そして、その父の死から2週間後に《音楽の冗談》は完成したわけですが出版しようとした意図は見られません。
父レオポルトの曲からも一部引用しながら、モーツァルト特有のユーモアいっぱいに贈った父へのオマージュでもあったのかな。
そんなことも想像してしまいます。
ちなみに《音楽の冗談》を作曲していたのと同じころ、モーツァルトの曲の中ではもっとも有名な《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》も作曲されています。
これは底抜けに明るい曲ですね。
これとは間逆な暗い雰囲気の名曲《弦楽五重奏曲第4番》も大体同じころに作曲された名曲であり、当時のモーツァルトの揺れる心の内が読み取れます。
《音楽の冗談》は別名《村の楽士の六重奏曲》とも呼ばれます。
これはモーツァルト自身ではなく、シューベルトの友人の作曲家ヒュッテンブレンナーが名付けたと言われています。
編成:
ホルン×2、ヴァイオリン×2、ヴィオラ×1、バス×1
(編成も冗談っぽい、木管は無くチェロも無いです)
【各楽章を解説】モーツァルト《音楽の冗談》
モーツァルト《音楽の冗談》は第1楽章から第4楽章までの4曲で成り立っています。
第1楽章 アレグロ(速く)
「う〜ん、なんと軽やか、さすがモーツァルト…」。
と、思いきや途中から怪しげな展開になりながらズルズルとおかしくなっていきます。
- 繰り返される旋律
- ブレる音形
- さて、終わる…と思ったらそのまま続く…
色んな意味で裏切られ、肩透かしを食らうモーツァルト《音楽の冗談》始まりの楽章です。
第2楽章 メヌエット(踊るように)
第2楽章が緩徐楽章ではないところから、変。
「音痴なホルンの…イヤイヤ、ちゃんと楽譜通りだし…」ということで、本来優雅なはずであるメヌエット楽章がガッタガタ…。
第3楽章 アダージョ・カンタービレ(歌うようにゆっくりと)
う〜ん、調和的で優美なアダージョ…。
でも、どことなく不安定な音の流れは続きます。
さあて、ラストはヴァイオリンのソロが思い切りその演奏技術を見せびらかして感動を呼ぶ場面で、思い切り、音、外す!
え?そこでかい??
という調子っぱずれな楽章です。
あ、でも、ちゃんと楽譜通りなのですよね…。
第4楽章 プレスト(きわめて速く)
楽器たちは調和しているように見せかけていながら、それぞれ主張してしまって調和しない。
ブレる、あばれる、空気読まずに自己主張な楽器たちの楽しい(?)競演(?)。
なんか微妙(?)文章的にも疑問符だらけのフィナーレです!!
【名盤2選の感想と解説】モーツァルト《音楽の冗談》
オルフェウス室内管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
スカッと明るくて見通しの良い演奏をするオルフェウス室内管弦楽団の名盤です。
一貫して《音楽の冗談》を冗談っぽく楽しんでいる感覚も好ましいですが、ホルンを始め音が不安定に揺らめく感じすら繊細で美しいですね。
本来、音楽は整然とした音運びをするものですが、演奏するのは人なのですから音を外すことはあり得ます。
それでも《音楽の冗談》のように「楽譜通りに音を外さなくてはいけない」となるとこれはこれで超難易度の高い曲と言えそうです。
なぜなら「楽譜通りに演奏できずに」音を外した場合、どこが楽譜通りで「どこが楽譜通りでないのか」がわからなくなるわけですから。
その意味でもアンサンブルのきっちりしたオルフェウス室内管弦楽団の名盤は好ましい1枚と言えそうです。
ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団
ハンス・ベルガー(第1ホルン)、ヨーゼフ・コラー(第2ホルン)
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
なんとも気品のあるあたたかい名盤です。
モノラルですので、音のクオリティという意味ではステレオにはかなわないかもしれませんが、充分に「優雅さを含んだユーモアが楽しめる名盤」です。
危なげのない構築感を持ちながら柔らかい風がそよぐような素晴らしい名盤です。
《音楽の冗談》が「笑い」という楽しさを提供してくれる名曲であることを再認識させてくれる名盤でもあります。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【まとめ】モーツァルト《音楽の冗談》
モーツァルト《音楽の冗談》の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
鬱屈するモーツァルトのルサンチマン(強者への嫉妬)、メラメラと燃ゆ!
こんな嘘みたいな名曲で、しかも「ユーモアいっぱいモーツァルト!」
- 理路整然
- 窮屈
- クソ真面目
現代に生きる私たちは、もう自由がなくって苦しくていっぱいいっぱいな毎日を送っています。
でも、それは18世紀のモーツァルトだって似たようなもの。
「大好きな音楽を作曲して」、そして、「後世に名曲と言われる曲ばかりであったって」、やっぱり不満タラタラな感情もあったはず…。
たまにはハメを外して冗談炸裂で生きたって何が悪いのさ!
そんな思いが《音楽の冗談》から伝わってきそうです。
さ、楽しも…だって、「音楽は自由」でしょ?
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。