いと悲し…
疾走するよな
透明感…♫
モーツァルト: 弦楽五重奏曲第4番 ト短調 K. 516:第1楽章
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「かなし…」
とは、万葉の歌人が表現した「そこはかとなさ」を含んだ
- さみしさ
- むなしさ
- やるせなさ…
さて、今回は、その「かなしさ」に「疾走感」をともなわせたモーツァルトの短調の名曲《弦楽五重奏曲第4番》の解説とおすすめ名盤を紹介です。
- 【解説】モーツァルト《弦楽五重奏曲第4番》
- 【各楽章を解説】モーツァルト《弦楽五重奏曲第4番》
- 【3枚の名盤の感想と解説】モーツァルト《弦楽五重奏曲第4番》
- 【まとめ】モーツァルト《弦楽五重奏曲第4番》
【解説】モーツァルト《弦楽五重奏曲第4番》
【解説】疾走する悲しさ
モーツァルト《弦楽五重奏曲第4番》に対する文芸評論家小林秀雄先生のこんな解説があります。
モオツァルトのかなしさは疾走する。
涙は追いつけない。
涙の裡(うち)に玩弄(がんろう)するには美しすぎる。
空の青さや海の匂いの様に、「万葉」の歌人が、その使用法をよく知っていた「かなし」という言葉のようにかなしい。
こんなアレグロを書いた音楽家は、モオツァルトの後にも先にもない。
まさしく、これほど
- 深く
- 透明で
- 無色
でありながら、「疾走するようなスマートさのある美しい短調の名曲」も珍しいですね。
《弦楽五重奏曲第4番》を作曲時にモーツァルトは、父親を亡くしており「その悲しさの感情が表れている」とも言われています。
モーツァルトにとっての親…精神的に、そして何よりも「音楽という領域で最高の親であり教育者であった父」を失ったのでした。
この《弦楽五重奏曲第4番》はモーツァルトの、それこそ「疾走するかなしさが閉じ込められ、そしてあふれ来る短調の曲で最も美しい曲」のなかのひとつなのです。
ちなみに《弦楽五重奏曲》の楽器編成としては、弦楽四重奏曲の編成の他にヴィオラを含める形になります。
つまり
- ヴァイオリン2挺
- ヴィオラ2挺
- チェロ1挺
となるのですね。
【解説】ト短調とハ長調のナゾ?
また、《弦楽五重奏曲》と比較される曲がモーツァルトの有名な《交響曲第40番》です。
調性が《弦楽五重奏曲第4番》と同じく「ト短調」であることはもちろんですが、もうひとつ注目すべき点があります。
《弦楽五重奏曲第4番》の前に作曲された《弦楽五重奏曲第3番》という曲が「ハ長調」のとても明るくて親しみやすい曲に仕上がっています。
そして《交響曲第40番》の後の《交響曲第41番「ジュピター」》の調性もハ長調なのです。
つまり、《弦楽五重奏曲》の第3番と4番がハ長調とト短調の一対の曲となっているのと同様に《交響曲》の第40番と41番も同じ調性の一対になっているのです。
これらの曲を聴きながらモーツァルトの音楽にひそむ
- 光と影…
- 明るさと暗さ…
- 喜びと悲しみ…
などを聴きくらべてみるのも、モーツァルトのオススメな聴き方のひとつなのです。
【各楽章を解説】モーツァルト《弦楽五重奏曲第4番》
それでは、各楽章について解説したいと思います。
モーツァルト《弦楽五重奏曲第4番》は第1楽章から第4楽章までの4曲で成り立っています。
第1楽章 アレグロ
「おそらく明日はこの世にはいまいと考えずに床についたことはありません」。
父の死を間近に控えていたモーツァルトは自分の死が、そう遠くないことをも感じ取っていたことを、この「モーツァルトによる父への手紙」の言葉は物語っています。
明るい曲を作曲すると
- 底抜けに明るく
- 朗らかであり
- 晴れ晴れとしている
なのに、なのに暗めの曲を作曲すると、こんなにも
- ふさぎ込み
- 憂鬱なのに
- …美しい…
そんなモーツァルトが作曲したモーツァルトにらしい1曲…。
それが《弦楽五重奏曲第4番》の第1楽章なのです。
第2楽章 メヌエット
第1楽章の「悲しみ」はここでも保たれていきます 。
本来は第2楽章ではゆるやかな曲が置かれることが多いですが《弦楽五重奏曲第4番》では第1楽章の雰囲気をそのままにテンポをたくみに変えて展開します。
第3楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ
「悲しみ」のひと休み…。
- 優しく
- 美しく
- たおやか…
と、思いきや…再び「悲しみ」の曲調へと変わります。
しかし、その「悲しみ」は長く続くことはなく、再び調和的で、ささやかな光が降りてくるような思いやりが感じれれるような響きをともない展開します。
そして、静かに、消え入るように曲を終えていくのです。
第4楽章 アダージョ:アレグロ
始まりは第1楽章を思わせる陰うつなメロディが展開します。
しかし、しばらくすると今までの暗く、そして厚ぼったくも黒い雲に覆われていた「悲しみ」の空がスカッと晴れて、太陽が
- さしこみ
- ほほえみ
- あたたかい
そんな光を投げかけてきます。
なんとも楽しく、笑顔とともに踊りだしたくなるような明るい最終楽章です。
【3枚の名盤の感想と解説】モーツァルト《弦楽五重奏曲第4番》
ブダペスト弦楽四重奏団:ワルター・トランプラー(va)
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
水も漏らさぬアンサンブルが生み出す
- 緊張感
- 迫る悲しみ
- 蒸留されきった透明感…
この名盤を超える名盤は、今後あらわれるのでしょうか。
モーツァルト《弦楽五重奏曲》そのものの魅力にドハマリしたきっかけを与えてくれた名盤でもありました。
ブダペスト弦楽四重奏団の《弦楽五重奏曲》全6曲の演奏は全て素晴らしいですが、その中でも、とくにこの第4番のインパクトは言いようの知れぬ魅力にあふれています。
解説にも書きましたが、ぜひ一度《弦楽五重奏曲》の第3番との聴き比べもしてみて欲しい名盤でもあります。
アルバン・ベルク弦楽四重奏団:マルクス・ヴォルフ(va)
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
「疾走」する「悲しみ」…の名盤です。
悲しみの感情とはこんなにも
- 心、震わせ、
- 残酷で、
- そして美しいのか…
そんな感想を引き出してくる名盤でもあるのです。
「スッキリと洗練された感覚」でモーツァルト《弦楽五重奏曲》を聴きたい方にはオススメですね。
- ブダペスト弦楽四重奏団の「成熟に達した悲しみ」を取るか
- アルバンベルク弦楽四重奏団の「青春期に思い悩むごとくの悲しみ」か…
さて、どちらを選ぼうか?
アマデウス四重奏団:セシル・アロノヴィッツ(va)
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
「理性」を効かせて抑えている「悲しみ」が、せきを切って漏れ出してくる名盤。
アルバン・ベルク四重奏団のような「疾走感」もありながら、その「スピードをともなった悲しみ」に流されまいとして抗(あらが)う演奏です。
しかし、
しかし、
しかし、
あふれ来たりて止まない「悲しみ」には抗(あらが)えない…。
そんな「諦(あきら)め」とも言える風情がありながらも、その「諦(あきら)め」の中から、
- 無色で、
- 透明感のある
- 聡明さ
を感じ取ることが出来ます。
録音自体は古いですがモーツァルトの「心の深淵」を聴きたい時に効(聴)く名盤です。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【まとめ】モーツァルト《弦楽五重奏曲第4番》
さて、モーツァルト《弦楽五重奏曲第4番》解説とおすすめ名盤の紹介はいかがでしたか?
- さみしさ
- むなしさ
- やるせなさ…
そんな「悲しさ」の持つ様々な表情を見せるモーツァルトの短調の名曲《弦楽五重奏曲第4番》。
そんなモーツァルト《弦楽五重奏曲第4番》を、また違ったスピード、疾走感のある名盤で聴くというのも、悲しくも優美なひとときです。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。