言葉にならない…
芸術と創造!
極まる、斬新さ♫
「このあと、私たちに何が書けるというのだ…?」
〜シューベルト〜
自由に発想され、つむがれていく7楽章形式の「弦楽四重奏曲」の驚異!今回は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番の解説とおすすめ名盤を紹介です。
- 【解説】ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番
- 【各楽章を解説】ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番
- 【名盤3選の感想と解説】ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番
- 【まとめ】ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番
【解説】ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番
ベートーヴェンが(中略)自発的にこの曲を書いているのは、彼がこの時期に四重奏曲用の楽想をありあまるほど抱え、それをまとめることに非常な喜びを覚えていたことを物語る。 曲は全部で7楽章(というよりは7つの部分)からなるが、演奏は中断されない。始まったら最後まで40分ほどは息も入れられないのだから、演奏者はもちろんきき手も容易ではない。(中略)自由さはやはり破格なものであると同時に、その流動してゆく音楽の語るものの深さも群を抜くものとなった。
出典:大木正興・大木正純 共著 「室内楽名曲名盤100」P78より引用
「言葉にならない…人間の芸術と創造で成し遂げられる極限にまできている…」
とはシューマンの言葉です。解説にある通り「四重奏曲用の楽想をありあまるほど抱え、それをまとめることに非常な喜びを覚えていた」のかもしれません。ベートーヴェン自身も、
「ありがたいことに、創造力は昔よりもそんなに衰えてはいないよ…」
と友人に語っています。
弦楽四重奏曲第14番の完成から2週間後、ベートーヴェンの甥であるカールが自殺未遂を起こします。ベートーヴェンはカールの親権をもっており、いわば「父」でした。
教育熱心なベートーヴェンの期待の重さは、かなり大きなものなのに対してカールの学業での成績は不振を極めます。カール自身の母、ベートーヴェンにとっては義妹との泥沼の法廷闘争によりカールにかかるストレスも大きなものでした。
自殺が未遂に終わった後、カールはベートーヴェンから距離をとるために軍に入隊することになります。ベートーヴェンは感謝の意を込めて軍の中将であったヨーゼフ・フォン・シュトゥッターハイム男爵に弦楽四重奏曲第14番を献呈しています。(もともとはベートーヴェンの友人のヴォルフマイヤーに献呈する予定でした。)
弦楽四重奏曲第14番は曲が始まると、全7楽章が中断されることなく演奏されます。しかし、全7楽章は、聴きようによっては4楽章に見ることもできると言われています。
第1楽章を第2楽章への長い序奏、第3楽章を4楽章への経過句、第6楽章を第7楽章への経過句と見ると4楽章形式に見えるというわけです。
- 第1楽章(序奏)〜第2楽章
- 第3楽章(経過句)〜第4楽章
- 第5楽章
- 第6楽章(経過句)〜第7楽章
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の中でも「最高傑作」と言われることが多い曲ですが、実際のところ評価通りとみていいでしょう。ベートーヴェンのどの弦楽四重奏曲よりも劇的であり斬新でもあるからです。
初演:1828年6月2日にて
献呈先:ヨーゼフ・フォン・シュトゥッターハイム男爵
【各楽章を解説】ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番
第1楽章 アダージョ・マ・ノン・トロッポ・エ・モルト・エスプレッシーヴォ
深い闇が覆う、その中で、静かにむせび泣くような弦が歌います…。これから展開していく「弦楽四重奏曲第14番」のいわば序章は、いきなりドラマ性を帯びます。室内楽でありながら激情をはらむようなフーガが織りなされます。
「漆黒…」ともとれるイメージの、暗い感情をともなった「黒」からは、まさしく「漆(うるし)」のごとき妖(あや)しい光を放ちますが…
第2楽章 アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ
…打って変わって、曲調は明るく弾むようなものへと変わります。第1楽章と第2楽章を含めて1曲という見方もあります…
第3楽章 アレグロ・モデラート|アダージョ
…わずか11小節のみの演奏であり、1分もかからない程度の小さな曲で、全体の中では間奏曲のような可愛らしい1曲に…
第4楽章 アンダンテ・マ・ノン・トロッポ・エ・モルト・カンタービレ…
…主題と6つの変奏で成り立っていますが、全曲の中では一番長い楽章。2つのヴァイオリンで主題が歌われ、第1変奏では主題を引き継ぎながら高低を織り交ぜます。第2変奏では速度があがり、第3変奏は、対位法的に楽器たちが同じメロディを趣きを変えながら歌います。
第4変奏である程度、音が一定に保たれながら流れるようにメロディを奏で、第5変奏において拍子やアクセントを自在に変化させながら展開。最後の第6変奏はヴァイオリンが音を刻みながらメロディを歌い、明るい雰囲気を保って終わります。
第5楽章 プレスト
…愉快に弾む感じの曲でピチカートで遊んだり、急にテンポを遅くし、おどけたりしながら展開する楽章。ヴァイオリンの駒の近くをこすりながら「キシキシキシ…」と鳴らすといったユーモラスな場面もあり…
第6楽章 アダージョ・クワジ・ウン・ポーコ・アンダンテ
…ゆるやかな曲でありながら、深い悲しみを歌っています。ベートーヴェンのさみしさからにじむ美感のようなものが漂います。苦悩の人生を生きたベートーヴェンの日々が思われ…
第7楽章 アレグロ
…第6楽章の悲しみが激情にかわりますが、力強く前へ進まんとする思いのようなものが感じられます。弦楽四重奏曲第14番を作曲後、甥が自殺未遂をし溺愛しすぎた罪に苛まれながら苦しみますがその感情を先取りしたような曲調。
しかし、ベートーヴェン自身は強くしっかりと大地に足をつけながら「意志」という名の根っこが地の底へと深く伸びてゆくものが感じられます。弦楽四重奏曲第14番は「荘厳」の印象すら帯びながら終わりを迎えます。
【名盤3選の感想と解説】ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番
ブダペスト弦楽四重奏団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
厳粛であり、容赦のなさから放たれる緊張感を持ちながら、なぜか親しみを持って聴き入ってしまう美感を漂わせる名盤です。突き放すような冷たさから香る妖艶さの魅力はブダペスト弦楽四重奏団の独特のもの。
鬼気迫る中に芯の強さを貫き、第1楽章から引き込まれ、第2楽章で弾み、第3楽章では愛らしい。第4楽章では豊かな表情の変化を見せ、第5楽章ではユーモアを楽しんだかと思うと第6楽章では感情が打ち沈む際のその美しさ…。
最終楽章はブダペスト弦楽四重奏団の真骨頂ともいえる激情という嵐を究極のバランスを持って崩さない緊張感。けだし、弦楽四重奏曲第14番の名演奏です。
アルバンベルク弦楽四重奏団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
重厚さを保ちながらも透徹した音の飛翔を感じる名盤です。緊張感の高さはブダペスト弦楽四重奏団に迫るものがあり、弦楽四重奏曲第14番の美感に合っています。
限りなく純度の高い水が第1楽章では凍りつき、第4楽章では変幻自在に踊り、第5楽章では波打ち遊ぶ。第6楽章では凍る寸前まで冷え、第7楽章では煮えたぎります。極めて透明度の高い澄み切った美しさを放つ名盤です。
スメタナ弦楽四重奏団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
柔らかい印象で聴きやすく好感の持てる名盤です。淡々と弾きこなしているようでありながら流れるような気品は、他の追随をゆるさないものがあります。バイタリティや凄まじさで聴かせるというよりは抑制した中から香りたつスメタナ弦楽四重奏団の素晴らしさが発揮されています。
ブダペスト弦楽四重奏団やアルバンベルク弦楽四重奏団のようなグイグイと完璧を目指す上で表れる緊張感に疲れを感じた際にはスメタナ弦楽四重奏団。バランス感覚の優れた名盤です。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【まとめ】ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第14番
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
言葉にならない…
芸術と創造!
極まる、斬新さ♫
ベートーヴェンの創造力があふれて止まず、自由に発想されてつむがれていく驚異の7楽章形式の弦楽四重奏曲。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の中でも「最高傑作」と言われることの多い名曲。
作曲当時のベートーヴェンの心の内を想像しながら聴くと、さらなる深みを増すかもしれません。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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