傑作の森…
抜けても溢れる
創作の泉♫
「書き尽くされた…」
50歳のベートーヴェンに向けてささやかれる噂…。しかし、独創的な構造を持つ大作は次々と生まれていきます。
苦難の多い毎日を、不屈の情熱を燃やして生きる中に創作される後期3大ピアノソナタの始まり。今回は、ベートーヴェンのピアノソナタ第30番の解説とおすすめ名盤を紹介します。
- 【解説】ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番
- 【各楽章を解説】ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番
- 【名盤3選の感想と解説】ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番
- 【まとめ】ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番
【解説】ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番
後期のソナタ、作品100番台5曲の中でも、《第30番 ホ長調 作品109》ほど一風変った存在はない。それぞれに個性的な5曲なのであるが、ピアノソナタの基本的構図からはずれる(中略)楽曲の印象は遠心的になり、散文的になり、情緒的なふん囲気が強調される。つまり、明らかにロマン的特性を備えることになるわけだ。全体になごやかな、のんびりした感じになるのは、こうしたロマン性とともに、主題類のもつ性格とか、選ばれた調性にもかかわりがあろう。
出典:諸井誠 著 「ピアノ名曲名盤100」P62より引用
1820年にピアノソナタ第30番の作曲が始まっています。出版社のアドルフ・シュレジンガーの依頼に応える形での作曲でしたが、以前より作曲を進めていたバガテルが原型になっています。
新曲の発表が行われないベートーヴェンに対し、周囲からは「書き尽くされた」と言われていましたが、同じ頃、後世に名を残す重要な作品をスケッチ中でした。ミサ・ソレムニス、ディアベリ変奏曲、第九交響曲の3曲です。
ピアノソナタ第30番の依頼を受けた際にはミサ・ソレムニスを作曲中でしたが、中断して取り組みました。解説にありますが、情緒的でありロマンティックな印象の作品といえます。曲の献呈先はベートーヴェンの経済的な支援を行った銀行家ブレンターノの娘、マキシミリアーネ・ブレンターノでした。
【各楽章を解説】ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番
第1楽章 ヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポ
優美な響きに魅了されるようなやわらかさに満たされた第1楽章ですが、ベートーヴェンの楽想がこんこんと湧き出るような印象です。美しいピアノの歌は、のどかな春のような暖かさに覆われています。
心にじんわりと染み入ってくる感動は、ピアノという楽器の可能性を大きく広げたベートーヴェンの面目躍如といったところです。
第2楽章 プレスティッシモ
途切れることなくいきなり始まる第2楽章は、速度を上げながら熱を帯びた音楽が展開します。憂鬱な感情が大きく揺れ動きながら、悲しみが深まっていくさまがうかがえます。
第3楽章への橋渡し的な楽章で足音も高らかに駆け抜けるように終わっていきます。
第3楽章 アンダンテ・モルト・カンタービレ・エド・エスプレッシーボ
主題と6つの変奏曲になります。主題は物思いにふけるような静かな印象の曲です。第1変奏では主題の静けさを引き継ぎながらも歌うような雰囲気です。
第2変奏は、弾むような音が奏でられていきますが、少しずつ感情が含まれながらゆっくりと展開します。第3変奏に移ると変化が表れテンポが速まるのです。第4変奏は、幻想的で流れるような曲になります。
第5変奏では力強くて明るく元気。最終の第6変奏は、再び主題のような静けさに戻ります。速度を少しずつ上げながら進み感情を高めつつも最後には再び静けさに戻り、消え入るように終わっていきます。
始まり方と終わり方が、まるでバッハのゴールドベルク変奏曲のようです。実際、ベートーヴェン自身は第3楽章の随所で参考にしたといわれています。
【名盤3選の感想と解説】ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番
エミール・ギレリス:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
これほど叙情的な演奏は珍しいといった名盤です。力強く、鋼鉄のタッチで有名なギレリスですが、こんなにもゆったりとしたテンポで、ロマンティックにピアノを歌わせることに驚きます。
実に奥行きのある演奏で、柔らかくピアノを歌わせたかと思うと情熱的な部分も聴かせます。ギレリスというピアニストは技巧があるだけでなく縦横無尽に表情を変化させることにも長けた芸術家であったことが再確認できる貴重な演奏記録です。
ヴィルヘルム・ケンプ:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
淡々と弾いているようでいて味わい深いといったケンプの美感が存分に発揮された名盤です。ほどよいテンポを保ちながら、第1楽章では優しく、第2楽章では悲しみます。
第3楽章の主題でもことさらゆっくりといった印象ではなく、弾きながら主題と変奏の絶妙なバランスをとります。聴き終わって全体を思い出した時に心地よさの残る名盤です。
グレン・グールド:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
積極的な演奏で、ロマンティックな感覚からは隔絶された名盤です。激しく揺れ動きながらベートーヴェンという音楽におけるグールドのキャッチーなピアニズムが堪能できます。
特に驚かされるのは第2楽章で、激情が超高速タッチで表現されています。第3楽章の自在にテンポを変えて展開する主題と変奏も面白く聴けます。何から何まで変わっているのに引き込まれるグールドの魅力が満載の第30番ソナタです。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【まとめ】ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番
ベートーヴェンのピアノソナタ第30番の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
傑作の森…
抜けても溢れる
創作の泉♫
1804年からの10年間はいわゆる「傑作の森」といわれ、名曲がたくさん生まれた時期でした。しかし、その後にだって、まだまだ生まれた名曲があります。その中の1曲がピアノソナタ第30番です。
深まるベートーヴェンの楽想と想像力の泉であるいわば「楽想の森」に深々と分け入ってみるのもいいものですね。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の醍醐味ですよね』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。