「死」の苦しみ…
始まる「変容」…
そして、「浄化」を体感す!
生死をさまよう芸術家のストーリー
- 生への執着
- あらがえぬ運命の「死」
- そして「変容」…からの…、
浄化…。
さて、今回は、R.シュトラウス:《死と変容(浄化)》解説とおすすめ名盤を紹介です。
- 【解説】R.シュトラウス:《死と変容(浄化)》
- 【各楽章を解説】R.シュトラウス:《死と変容(浄化)》
- 【名盤3選の感想と解説】R.シュトラウス:《死と変容(浄化)》
- 【まとめ】R.シュトラウス:《死と変容(浄化)》
【解説】R.シュトラウス:《死と変容(浄化)》
西洋的な解釈「受難」と「変容」
R.シュトラウスの31歳年上の友人、アレクサンダー・リッターは《死と変容(浄化)》の印象を詩(ポエム)として表現しています。
「高い理想の実現に向けて努力するひとりの芸術家が病に倒れ、死の苦しみを味わっている。
発作が治まり、苦痛が和らぐと、彼は過ぎ去った日々を思い出し始める。
子供のころ、芸術表現の情熱を燃やした青年時代、心に掲げた高い理想・・・・・・。
しかし志半ばで、終末が訪れてしまった。
死の時、現世で実現できなかった高い理想を永遠の時のうちに完成すべく、芸術家の魂は肉体から解放されてゆく」。
松沢憲:文(ユージン・オーマンディ:指揮 R.シュトラウス集CDライナーノートより引用)
「言い得て妙」と言いますか、R.シュトラウス:《死と変容(浄化)》は、以上の詩を象徴するような内容を持っています。
さて、「変容」とはドイツ語では「verklärung」と表します。
「変容」という言葉は、キリスト教社会である西洋では「深い意味を含んだ言葉」と言えます。
以下は、聖書にあるストーリーの要約です。
日ごろイエス・キリストは、間もなくやってくるであろう受難(十字架上での死)について弟子たちに話していました。
そして、ある日3人の弟子たち(ペテロ、ヤコブ、ヨハネ)をともなって高い山へ登ります。
するとそこに天国の住人(モーセとエリア)が現れて、光り輝きながらイエス・キリストと語り合う姿を3人の弟子たちに見せるのでした。
これは、いずれ信仰においてつまづくであろう弟子たちに、その後の改心と言いますか「変容」への希望を与えるために見せたという解釈があるようです。
東洋的な解釈「諦観」と「変容」
日本のオーケストラの礎(いしずえ)を築き、指揮者でもあった近衛秀麿は、《死と変容》を日本に紹介する際に《死と成仏》と訳しました。
イメージとしては東洋的、あるいは日本らしいとも言えます。
仏教思想の中には「泥中(でいちゅう)の花」という考え方があります。
「花」とは「蓮の花」を表していますが、「蓮の花」の咲く場所というのは、
- 水はにごり、
- 黒くぬかるみ、
- そして、悪臭を放つ
いわば不浄の極みとも言える泥沼です。
しかしその不浄の沼の中からこそ、蓮の花は清らかに、そして美しくその茎をのばしていきます。
その姿はこの世のものとは思えないような存在であり、
- 紅かったり、
- 青紫であったり…
また、
- 限りなく透き通った白であったりする…
そう、その泥沼に咲き乱れる、
花…。花…。花…。
華…。華…。華…。
そんな風景、そう見事な「変容」の姿が浮かぶのです。
R.シュトラウス、晩年のエピソード
R.シュトラウスの晩年に起きた、こんなエピソードがあります。
R.シュトラウスは、死の48時間前、ベッドにおいて昏睡状態にあったシュトラウスは一瞬意識を取り戻します。
そして、語りました。
「私が《死と変容(浄化)》のなかで作曲したことは全て正しかった。
今だからこそ、そう言うことができる。
つい先ほど、私はそれを文字通り体験してきたのよ…」。
【各楽章を解説】R.シュトラウス:《死と変容(浄化)》
それでは、楽曲に込められたストーリーを解説します。
病に臥す芸術家
始まりは、死の淵をさまよう芸術家が描かれます。
不安定に鼓動する病んだ心臓を思わせるティンパニの弱奏…
- とん…とんとん…♫
- とん…とんとん…♫
- とん…とんとん…♫
そんな音とともに不安な心情を表す弦の歌…。
一瞬、木管による安らぎのメロディが表れ芸術家の幸福だった日々のことが描かれますが、再び不安定な曲調へ…
生死をさまよう
すると、
吠える!
ティンパニ!!
鳴り響き、迫る!
死の恐怖!!
しかし、生きん!!!
芸術を求めて鍛えられたハガネの意志が、生への執着を呼び起こす!
その戦いは
- 時にゆるやかに
- ときに激しく
曲調を揺らめかせながら展開します。
少年の夢、青春の日々!
- 夢多き少年時代!
- 芸術を探求して燃えさかった青春の日々!!
ここで一瞬現れる「変容」し「浄化」されていく様、そうラストを飾る曲想が表れます。
しかし、力尽き…終わる…芸術家の生命…。
死と変容
そして、生命の終わりを迎えるにあたって始まる…変容…。
- 燃え尽きる生命…
そしてよみがえる、
- 光り輝ける魂…
そう、これこそ、
- 肉体の死…からの、
「変容」そして、「浄化」
そんな根本テーマが感動的に描かれ、この感動的な音楽ストーリーは幕を閉じるのです。
【名盤3選の感想と解説】R.シュトラウス:《死と変容(浄化)》
ベルナルド・ハイティンク:指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
なんともあたたか味があり、また愛情の感じられる名盤です。
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の彩り豊かな響きは聴いていてクセになるレベルですね。
一見(一聴)冷たく感じる《死と変容(浄化)》ですが、本来こんなにも含まれたメッセージの多い楽曲なのだなと感じさせてくれます。
いついかなる時にもどこか「ほっこりとした響き」のあるハイティンク指揮のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団による《死と変容(浄化)》。
新しい魅力、側面を教えてくれる貴重な名盤とも言えそうです。
ヘルベルト・フォン・カラヤン:指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
冷徹な目で「透明な湖底にあるきらめく蒼い鉱石たち」をながめて美しい…。
そんな情景が浮かんできます。
ハイティンクによる「思いやりに満ちた名盤」とは、ある意味で対極に位置する「理性的で凛々しい」名盤です。
少し冷たすぎる感はありますが、こういった演奏を好む方からは、深い理解を得られる名盤であると感じます。
ルドルフ・ケンペ:指揮 シュターツカペレ・ドレスデン
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
生真面目でありながらたくましい名盤。
質実剛健というのでしょうか、なんとも整った演奏の、まさしくドイツ的な名盤でもあります。
「死」と「変容」という哲学的なテーマを持った《死と変容(浄化)》です。
こんなドイツ的な重厚感のある紳士的名盤はR.シュトラウス:《死と変容(浄化)》には相性がいい。
そんな名盤です。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【まとめ】R.シュトラウス:《死と変容(浄化)》
さて、R.シュトラウス:《死と変容(浄化)》の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
生死をさまよう芸術家のストーリー、
- 生への執着
- あらがえぬ運命の「死」
- そして、「変容」…からの…、
浄化…。
古今東西、様々なストーリーにも原型として登場する「死と変容(浄化)」のテーマを
- 真摯に
- 深く
- そして、美しく
音楽として昇華したR.シュトラウス:《死と変容(浄化)》。
哲学書や宗教書はどうも小難しくてキライ…。
それなら、音楽を聴くことで、万物に宿るストーリーのひな形と言える《死と変容(浄化)》のテーマを感じ取っちゃうってのもアリかも…。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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