そのしなやかな悲しみは、
どこから来るの、おもむろに。
憂いをおびた女神の横顔。
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- 【解説と名盤、まとめ】モーツァルト:交響曲第40番
【解説!クラリネットの謎】モーツァルト:交響曲第40番
モーツァルト:交響曲第40番は、
後述する小林秀雄先生の言葉にあるように、
「悲しく」ありながら、「透明」で、「しなやかな鋼鉄」のよう。
そして、音楽の、はしばしにまで、凛(りん)とした切れ味の良さがありますね。
このモーツァルト:交響曲第40番は、モーツァルトの…というよりは、クラシック音楽全体からみても「名曲」と言っていいのではないでしょうか。
それゆえに名盤がとても多いのが特徴です。(名盤解説は後述します。)
モーツァルト:交響曲第40番について、文芸評論家の小林秀雄先生のこんな解説があります。
(横向きの絵画の)モオツァルトは、大きな眼を一杯に見開いて、少しうつ向きになっていた。…ト短調シンフォニイ(交響曲第40番)は、時々こんな顔をしなければならない人物から生まれたものに間違いはない、僕はそう信じた 。(中略)
ほんとうに悲しい音楽とは、こういうものであろうと僕は思った。その悲しさは、透明な冷(つめた)い水の様に、僕の乾いた喉(のど)をうるおし、僕を鼓舞(こぶ)する、そんな事を思った。(中略)
人間は彼の優しさに馴(な)れ会う事は出来ない。彼は切れ味のいい鋼鉄の様にしなやかだ。
「切れ味のいい鋼鉄(こうてつ)の様にしなやか」
そのひとこと、
言い得て妙(みょう)…ですね。
モーツァルト:交響曲第40番について…
モーツァルトの41番まである、交響曲は明るい基調の曲(長調)がほとんどです。
けれども、例外的に、2曲だけ、暗い基調の曲があります。
それが、交響曲第25番と今回、解説している交響曲第40番です。
暗い基調の曲は「短調の曲」と言われますが、ふつう、交響曲第25番を「小ト短調」交響曲第40番を「大ト短調」などと呼ばれたりもします。
モーツァルトのたくさんある交響曲の中で、もっとも親しまれ、一般にもよく知られている「交響曲第40番」。
短調の「暗い基調の曲」でありながら、親しまれている理由は、解説からの引用にもありましたように、
「透明」で、「しなやか」であり、そこからただよう、美しさがあるからではないかなという感想を持っています。
クラリネットの謎について…
モーツァルト:交響曲第40番で、優美な魅力を醸(かも)
し出すのは、クラリネットです。
モーツァルト:交響曲第40番は、はじめ、この「クラリネット」のパートはありませんでしたが、後にモーツァルト自身の手によって、書き加えられています。
これについては様々な説があります。
- 演奏会にはクラリネット奏者であるシュタードラー兄弟が出演する予定なので、クラリネットを追加しなければいけなかった。(もっとも可能性の低い説)
- ある曲を編曲する際に、クラリネットをはじめ4種類の管楽器で作曲したが、その時の思いつきで、「交響曲第40番」にもクラリネットを加えた。
- 実際に演奏会を行うに当たり、「交響曲第40番」の楽譜を見直して、訂正する際にクラリネットを加えた。(生前には演奏されず、演奏会の予定すらも、なかったとの説もあり)
これだけ、時間がたってしまった今となっては、さすがに、もう確かなことは、わかりませんね。
ただ、有名な物理学者の「アインシュタインが語ったことが、意外と、真実だったかもしれない」なんて思ってしまいます。
つまり、
「もはや(演奏会の)注文もなく、直接の意図もない。 あるのは永遠への訴えである。」
う〜ん。
カッコいい。
たしかに、クラリネットの少しさみしげな音色が加わることで、なんとも切々(せつせつ)とした「悲しさの訴え」に磨きがかかったという感想をもちます…。
(このアインシュタインの言葉は、「交響曲第40番」を含めた3曲の交響曲についての、ひと言ですが、「クラリネットの件」についても、言えることと思います。)
アルパカの、モーツァルト:交響曲第40番の体験について…
アルパカが、とくにクラシック音楽に興味がない小学生のころのこと。
エレクトーンを習っていて、音楽にくわしい姉が「モーツァルトの『交響曲第40番』は大胆な転調(てんちょう)がイイのよ!!」
楽譜を片手にそんなことを言われました。
楽譜が読めないアルパカは、なんだか、チンプンカンプンだったのを覚えています。
でも、クラシック名盤を聴かない小学生のアルパカでも、このモーツァルト「交響曲第40番」の音楽の心地よさや素晴らしさは曲を聴いただけで、わかったものでした。
「なんだか、さみしげだけど、心に残る。」
そんな印象を持ったものでした。
やっぱり、音楽っていうのは理屈抜きにいいものですよね。
【各楽章の感想と解説】モーツァルト:交響曲第40番
それでは、各楽章についての解説と感想をお伝えしたいと思います。
この曲は第1楽章から第4楽章までの4曲で成り立っています。
第1楽章「モルト・アレグロ(きわめて速く)」
「モオツァルトの悲しみは疾走する」
とは、小林秀雄先生がモーツァルトの他のト短調の曲(弦楽五重奏曲第4番)を言いあらわしたものです。(厳密に言うと、このもとになっているのは、アンリ・ゲオンの言葉です)
でも、このモーツァルト:交響曲第40番にもそれは、言えると思います。
「透明」で「しなやか」という形容にも通じると思いますが、これらに増して、「疾走する」というイメージを上乗せすると、このモーツァルト:交響曲第40番、第1楽章の表現にピッタリくるという感想を持っています。
う〜ん、モーツァルトを賛美する過去の文筆家の先生たちの言葉の豊富さに、脱帽ですね。
第2楽章「アンダンテ(歩く速さで)」
なんとも静かで、そして、なんとも、瞑想的なのでしょう。
深い「悲しさ」を限りなく「透明感」あふれる心境で見つめている。
そんな感覚でしょうか。
それは、すでに「よろこび」の反対側にある「悲しみ」ではありません。
「悲しみ」がその大元(おおもと)にありながら、その立場から、相対する人間のこころのうちにある「よろこび」と「悲しみ」を見つめている。
そんな心境でしょうか。
モーツァルトが音楽に没頭する時、モーツァルトは音楽そのものであり、その他の何者でもない。
「よろこび」も「悲しみ」もそして、「生」や「死」すらも超えてしまっていた。
そんな心の「声」、「響き」、「思い」がこの第2楽章なのだという感想です。
第3楽章「メヌエット、アレグレット:トリオ(踊るように、やや速く)」
運命的な響きであり、また、そんな状況の中をしっかりとした足取りで歩む。
時に安らぎ、ほほえみの時を迎えながら、再び運命の荒波へとむかっていきます。
運命に、もてあそばれそうになりながらも、前を向いて力強くその歩を進めていく姿が浮かびます。
第4楽章「フィナーレ:アレグロ・アッサイ(非常に速く)」
劇的でありながら、「透明感」があり、「しなやか」でもあります。
このモーツァルト:交響曲第40番のクライマックスにふさわしいテーマ性に満ちた1曲だと感じます。
【名盤5選の感想と解説】モーツァルト:交響曲第40番
カール・ベーム:指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
史上初、モーツァルトの交響曲全集を完成させたベームの風格ある演奏の名盤です。
今なお模範といっていい名盤ですよね。
第1楽章は、少しゆったりめに歌いながら、モーツァルト:交響曲第40番の本来の透明感を、ともなった美しさを、いかんなく引き出していますね。
第2楽章は、その流れがスマートでよどむことがなく、清涼感があって、フレッシュな音楽運びですね。
第3楽章は、どっしりとして風格があり、また緊張感にも満ちています。ふところが深く、また目じりのやさしい老紳士といったところでしょうか。
第4楽章ですが、優雅で、華やかな装いの演奏でありながら、曲調の「疾走する悲しさ」が失われることはなく、むしろ、そのおもむきが、ますます大きくなっていきます。
そんな劇的な要素が含まれていることが、この名盤の素晴らしさかもしれません。
ブルーノ・ワルター:指揮 コロンビア交響楽団
「美感と情感を歌う楽器たち。」
この歌は、指揮者ワルターの心のうちに響く歌ですね♫
ゆったりめのテンポで、ひとつひとつの楽器たちの、歌が楽しめます。
「歌」こそがモーツァルトのキモ。
そして、オーケストラを、歌わせることを、大切にしたワルターだからこそ、実現した歴史に残るであろう、名盤ですね。
たくさんの名盤に触れたある時、何が基準かが、わからなくなったら帰ってくる。
そんな故郷のような、あたたかさを持った名盤という感想をいだいています。
必聴です♫
クリストファー・ホグウッド:指揮 エンシェント室内管弦楽団
非常に高速で「疾走する悲しみ」が古楽器で表現された名盤です。
古楽器を使用しての演奏は、意外と、こんな「疾走感」で、透明な悲しみを表現出来るのかもしれないなと、ふと思ったりしますね。
この枯れた味わいが、凄まじく、(悪い意味でなく、)焦燥感のようなものを駆り立てていて、「鬼気迫る」ものすら感じる名盤です。
まるで、このモーツァルト「交響曲第40番」が透明感を超えて、澄み切った「無の境地」をあらわす音楽のように感じられてきて、驚きますね。
ホグウッドの業績は、古楽器の持つあらゆる可能性を、提示しきったところにあるかもしれませんね。
その可能性を、この名盤で確認したいですね。
トン・コープマン:指揮 アムステルダム・バロック管弦楽団
コープマンらしくて、かわいらしい、古楽器による名盤です。
名もなき小さな花が、かすかな香りをまわりに運びながら、ほほ笑む。
そんな、感想が持てる、第40番の交響曲です。
コープマンのアルバムの第1楽章は、このモーツァルト:交響曲第40番における「疾走する悲しみ」までが、かわいらしい。
「楚々(そそ)として」と言いますか、なんとも純粋で清潔感のある演奏です。
第2楽章は、室内楽を思わせる優しい趣(おもむ)きを感じます。
華麗に、美しく演奏するのもアリとは思いますが、こんな、いい意味で、こじんまりとした装(よそお)いの第2楽章もいいものです。
第3楽章 も、とても個性的です。
ピリオド奏法(弾むような演奏法)のおもしろさが存分に楽しめる楽章になっています。
弾むテンポでノリがよく、また、だからといって雑な感じはありません。
品があって、聴いていて心地いい。
そんな演奏です。
第4楽章は速いテンポで「悲しみが疾走」します。
それが古楽器を使った枯れた味わいで展開するところがまた個性的。
全体として、「個性で勝負」した名盤と感じますね。
ヨーゼフ・クリップス:指揮 コンセルトヘボウ管弦楽団
第1楽章は非常にゆったりとした速度で演奏されます。
コンセルトヘボウ管弦楽団の繊細な美感と、このゆったり感がクセになる。
午後のカフェで、ほおずえをついて、アンニュイなひとときを過ごす心地よさに近いかなという感想を持ちます。
第2楽章は、むしろ速めにキレがよく演奏されています。
このモーツァルト:交響曲第40番全体としてのバランス感覚が面白い。
第3楽章は、あまり悲壮感が強調されることはなく、スッキリとまとめていて好感がもてますね。
第4楽章は、落ち着いた音運びです。
第1楽章ほどではありませんが、じっくりと本来のモーツァルトの「歌」を聴かせてくれる楽章です。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【解説と名盤、まとめ】モーツァルト:交響曲第40番
さて、モーツァルト:交響曲第40番、名盤の紹介と、解説はいかがでしたか?
誰もが知っているモーツァルトの、だれもが知っている「交響曲第40番」にフォーカスしてみました。
「悲しさ」や「透明感」というキーワードを頭に思い浮かべながら、聴き慣れたモーツァルト:交響曲第40番の名盤を聴くと、また、違ったさまざまなイメージが、湧いてくるかもしれませんね。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、
クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は以上になります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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