アルパカと聴く幸福なクラシック

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モーツァルト:ピアノ協奏曲第7番【解説と名盤5選】家族の情景を奏でる慈しみのアンサンブル

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3つのピアノ

家族をつむいだ

癒しの音色

ロドロン伯爵家の母娘のために書かれた「ピアノ協奏曲第7番」は、演奏会用としてのみの作品ではありません。

家族がピアノを並べて音楽を分かち合うための「ソーシャル・ミュージック」でした。思いやりを交わす家族の光景が目に浮かぶような素朴で優しい調べが流れます。

「ピアノ協奏曲第7番」には、もう一つの顔があります。母という存在を失った2つの家族、ロドロン家とモーツァルト家。深い喪失感の中にいた姉妹や姉弟にとって、大切な人を失った悲しみに寄り添う「グリーフケアの音楽」として響いていたかもしれません。

この記事では、音楽を通した家族のつながりと喪失、そして再生への物語を辿っていきます。

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家族をつなぐピアノ協奏曲

ロドロン伯爵夫人と2人の令嬢のための曲

ピアノ協奏曲第7番は「3台のピアノのための協奏曲」としても知られています。ロドロン伯爵夫人マリア・アントニアと、2人の令嬢アロイジアとジュゼッピーナのために書かれた「オーダーメイド」の作品です。

想像してみましょう。

1776年、冬のザルツブルク。ロドロン伯爵邸の広間には、3台のピアノが置かれています。雪舞う外の冷たさとは対照的に、暖炉と灯りが揺れるサロンは、親子の笑顔で満ちています。

第3ピアノは幼い次女ジュゼッピーナのために、とても易しく書かれました。たとえ習熟度が低くても、3人で一緒に音楽を楽しんでもらおうというモーツァルトの配慮が伝わってきます。

音楽的な完成度を追求するよりは、家族が輪になって笑い合える協奏曲をモーツァルトは目指したのかもしれません。ピアノ協奏曲第7番は家族のためのソーシャルミュージックであり、素朴な明るさと優しさの伝わる1曲と言えそうです。

他にも、ロドロン家には2曲のディヴェルティメント(K.247、K.287)を献呈しており、両家が親密な関係にあったことが分かります。

 

ある姉弟がモーツァルトに与えた光と影

ロドロン伯爵夫人には、カール・ヨーゼフ・フォン・アルコという実の弟がいました。ザルツブルク大司教の待遇の悪さに不満を持つモーツァルトの抗議を一蹴し、尻を蹴飛ばして追い出したエピソードの持ち主です。

モーツァルトの才能を認め、経済的にも支えようとした姉のロドロン伯爵夫人。一方で、彼を無下に扱い、宮廷から突き放した弟のアルコ伯爵同じ血を分けた姉弟でありながら、天才に向けられた眼差しは――驚くほど対照的でした。

なんとも不思議で、また皮肉な縁によって、モーツァルトの運命は大きく動かされたと言えるかもしれません。

»資料:Mozart: New Documents

 

2つの家族を癒やす「グリーフケア」として

1780年、「3台のピアノのための協奏曲」は「2台版」へと編曲されました。モーツァルトが姉のナンネルと演奏するためと考えられていますが、2人で演奏した確かな記録は残っていません。しかし2人の親密な関係を思えば、ピアノ協奏曲第7番がモーツァルト姉弟のレパートリーであったことは想像できます。

同じ1780年、この曲の献呈先であるロドロン伯爵夫人が、42歳という若さでこの世を去りました。母と共にこの曲を弾いた思い出を持つ姉妹は、母の不在を埋めるようにこの楽譜を広げたかもしれません。

「3台のピアノ版」が献呈されてから4年。次女のジュゼッピーナは、当時よりピアノの腕を上げたことでしょう母と共にこの曲を弾いた在りし日を懐かしみながら、姉妹は鍵盤に向き合ったのではないでしょうか

一方、モーツァルト家にとっても、この時期は喪失の時代でした。モーツァルトは1778年に母アンナを亡くしています。母を亡くした直後の姉ナンネルは、食事が喉を通らないほど落ち込んでいたことが、ある手紙に記されています

母親はモーツァルトの転職目的の旅行に同行しながら、その途中での不幸でした。旅にはピアノ協奏曲第7番も携行され、実際に演奏した記録も残っています。

家族の喪失と思いやりの記憶を繋ぐ、グリーフケア(喪失への寄り添い)として、ピアノ協奏曲第7番は響いていたかもしれません

編成:

独奏ピアノ×3台または2台

弦5部、オーボエ×2、ホルン×2

»モーツァルト:ピアノ協奏曲第6番【解説と名盤3選】自由と喝采を求めて!旅する楽譜の物語

 

各楽章を解説

第1楽章 アレグロ

[速く]

明るく楽しい会話が始まります。ピアノを奏でるのは母マリア・アントニアと2人の令嬢です。周囲では管楽器や弦楽器が次々と会話に加わります。

ロドロン伯爵邸のサロンには、晴れやかな空気が広がります。暖かい日が差し込む広間で、家族の笑い声が音楽と共に響き渡るのです。ピアノのメロディに応えるように管弦楽が重なり、サロンは華やぎに包まれます。音楽は、まるで家族の弾むような笑い声そのもの……。

モーツァルトが紡いだ音楽は、奏でられたその瞬間から――互いの音と音とが言葉を交わすように優しく語り合うような感覚です。3人の親子が微笑み合いながら、音楽という名の対話を楽しんでいる様が目に浮かぶようです。

 

第2楽章 アダージョ

[ゆっくりと]

ピアノ協奏曲第7番の中で、最も柔らかい時間が流れる温かな楽章です。第1・第2ピアノのゆったりとした優雅なメロディを奏でる中、第3ピアノは曲の厚みやリズムをしっかりと支えていきます

母と長女アロイジアのピアノが、まだ未熟なジュゼッピーナの可愛らしい演奏を優しく包み込みます。

ジュゼッピーナも共にピアノを楽しめるように――、そんなモーツァルトの思いやりが溢れた楽章がのんびりと流れていきます……。

 

第3楽章 ロンド:テンポ・ディ・メヌエット

[舞曲のテンポで]

優雅で軽やかな舞曲のリズムに乗って、気楽で微笑ましい主題が彩られていきます。家族みんなで音楽の輪に加わり、流れに乗りながら喜びを分かち合う様子が心に浮かぶ楽章です。

ちょこんと可愛らしくお話をする第3ピアノもとても楽しそう。

3台のピアノと楽器たちが寄り添い、歌を交わし合う確かな温もりがいつまでも余韻として残る最終楽章です。

 

名盤5選の感想と解説

カサドシュ(家族):ピアノ|ユージン・オーマンディ:指揮|フィラデルフィア管弦楽団

ロベール・カサドシュが奏でる、飾り気のないピアノの気品。共演するのは妻のギャビーと息子のジャンです。まさに「家族の音楽」であり、ザルツブルクでのロドロン家の母娘が奏でた、あの幸せな情景そのもの。

血のつながった家族同士だからこその絶妙の呼吸が魅力で、心からアンサンブルを楽しんでいる様が感じられます。

ユージン・オーマンディの、エレガントで華やかなサウンドがサポートしながら全体として芳醇なモーツァルトを描き出しています。家族で音楽を共有する喜びを聴きたい時におすすめの名盤です。

 

ブレンデル&クーパー(師匠と弟子):ピアノ|サー・ネヴィル・マリナー:指揮|アカデミー室内管弦楽団

音の粒がキラリ光るブレンデルのピアニズムが、華やかにはじける「2台版」の名盤です。ブレンデルから薫陶を受けた弟子のイモージェン・クーパーも共に創り上げるモーツァルト

ロドロン家の末娘ジュゼッピーナが、母と姉に一生懸命ついていきながら存分に楽しんだ光景が重なるようです。

モーツァルトのジュゼッピーナへの「優しい配慮」が、そのまま録音に昇華したような心地よさ。ネヴィル・マリナーの活き活きとしながら品のあるバックも盛り上げます

音楽文化の継承と導き「あとに続く者」との音楽を通した結びつきと楽しみを聴かせてくれる美しい名盤です。

 

ラベック姉妹:ピアノ|セミヨン・ビシュコフ:ピアノ&指揮|ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

ラベック姉妹による力強いピアノと、セミヨン・ビシュコフがピアノを弾きながら指揮する名盤です。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が厚みを持たせながら、とても豪華な響きをもったモーツァルトに仕上がっています。

ラベック姉妹がのびのびと自由にピアノを歌わせ、むしろ男性のビシュコフが母のように支えて調和する名盤。ピアノ協奏曲第7番をロマンティックに、かつ面白く聴ける痛快な名盤です。

 

アシュケナージ&ツォン(友人):ピアノ|ダニエル・バレンボイム:ピアノ&指揮

1955年ショパンコンクールで2位のアシュケナージと3位のフー・ツォンと共に、バレンボイムを加えた3人は友人同士。ただただ楽しい時間を友人と共有したいという純粋な想いが、3人のピアノから溢れ出しています。

親子や兄弟姉妹とはまた違った集いと語らいがあり、名手がそれぞれのピアノニズムを持ち寄って結実した美しいモーツァルト

アシュケナージとバレンボイムというモーツァルトのピアノ協奏曲全集を完成させた2人による、最高のサロンが眼前に広がります。フー・ツォンも集いながら、バックのイギリス室内管弦楽団も存分にモーツァルトを楽しむ名盤です。

 

ロバート・レヴィン:タンジェントピアノ&ヤ=フェイ・チュアン:フォルテピアノ(夫婦)|ローレンス・カミングス:チェンバロ&指揮|エンシェント室内管弦楽団 

それぞれ個性の異なる3台の鍵盤楽器が、響きを交わします。ロバート・レヴィンはタンジェントピアノ、ヤ=フェイ・チュアンはフォルテピアノを。そしてローレンス・カミングスがチェンバロを操りながら、指揮も行うという編成です。

それぞれの楽器が持つ音色の分離――その個性が混ざり合って生まれるハーモニーは、他では味わえない稀有な体験です。

レヴィンとチュアンは夫婦であり、ここにも家族で音楽を慈しむ「ソーシャル・ミュージック」の精神が息づいています。モーツァルトが生きた時代の音が鮮やかに蘇る、興味の尽きない名盤です。

タンジェントピアノは耳慣れない楽器かもしれませんが、フォルテピアノの柔らかさとチェンバロの鋭いアタックの中間にある、いわば「透明感のある鐘のような音色」が特徴です。即興や装飾を自由に彩る演奏からは、モーツァルトの音楽への「溌剌とした感性」がほとばしっており、聴くたびに新しい発見がある名盤です。

 

まとめ

ロドロン家とモーツァルト家――ふたつの家族の思いやりと悲しみに寄り添う「ピアノ協奏曲第7番」。ひとつの解釈に過ぎませんが、「グリーフケア(喪失への癒やし)」という視点から、音楽物語を紐解いてみました。

重なり合うピアノの旋律は、聴く人の心を癒やし、明日への一歩を踏み出す力を与えてくれます。「ピアノ協奏曲第7番」の素朴で朗らかな響きは、今この瞬間の気持ちに寄り添ってくれることでしょう

今回ご紹介した5つの名盤にも、それぞれ異なる「絆」の形が刻まれています。人と人をつなぐこの名曲とともに、心温まるひとときをお楽しみください。

 

 

 そんなわけで…

『ひとつの曲で、

たくさんな楽しみが満喫できる。

それが、クラシック音楽の醍醐味ですよね』

 

今回は、以上になります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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