
弟子の才能が
導く明るい
協奏曲
ウィーンで独立を果たしたモーツァルトが、自作品目録を書き始めた第1曲目、ピアノ協奏曲第14番。才能あふれる女性弟子、バルバラ・プロイヤー嬢のために作曲されました。
管楽器を省いた弦楽とピアノでも演奏できるように書かれており、家庭での私的な演奏を想定した変幻自在な名曲です。第1楽章の心が浮き立つような明るさから、終楽章の軽やかさまで、曲全体がポジティブな優しさに包まれています。
今回は、師弟の温かい交流から生まれた穏やかな傑作、モーツァルト:ピアノ協奏曲第14番の解説とおすすめ名盤を紹介します。
ウィーンでの成功と女性弟子
ウィーンでの喝采!記念すべき目録第1番
1784年3月17日、ウィーンのトラットナー邸で開かれた予約演奏会。満員のホールに詰めかけた聴衆を前に、モーツァルトはピアノ協奏曲第14番などを披露しました。当時の手紙には、その熱狂ぶりがこう記されています。
「モーツァルトの手紙」
演奏会はうまくいきました。満員になった会場には人々がぎっしりと詰め込まれていました。私が演奏した新しい協奏曲はとても喜ばれて、どこへ行っても演奏会を称賛する声が聞こえてきます。
1784年3月20日ウィーン W.A.モーツァルト
»国際モーツァルテウム財団(DME)ウェブサイトより引用
ウィーンで独立を果たしたモーツァルトにとって、ピアノ教師としての活動と予約演奏会のための作曲は生活の糧でした。同時にモーツァルト自身の芸術を証明する場でもありました。ピアノ協奏曲第14番は、当時モーツァルトが書き始めた『自作品目録』において、記念すべき第1曲目として記録された作品。
柔軟な編成で書かれ、管楽器(オーボエ、ホルン)は任意とされており、管楽器なしの弦楽四重奏とピアノだけでも演奏可能です。第11番から第13番までの3曲と同様に、家庭内の演奏が考慮されており楽譜が広く売れるように工夫した後がうかがえます。
»ピアノ協奏曲第11番
»ピアノ協奏曲第12番
»ピアノ協奏曲第13番
そして、ピアノ協奏曲第14番の初演成功の陰には、モーツァルトが信頼を寄せたひとりの女性弟子の存在がありました。
才能あふれる女性弟子プロイヤー
モーツァルトによる初演から数日後の3月23日、プロイヤー邸のサロンでも披露されました。この時にピアノ独奏を務めたバルバラ・プロイヤー嬢(愛称バベッテ)は、優れた技術を持つピアニストでした。
モーツァルトがその才能を高く評価していた女性弟子であり、ピアノ協奏曲第14番はプロイヤー嬢に献呈されています。同年に作曲されたピアノ協奏曲第17番もプロイヤー嬢のために作曲。彼女自身によって初演されました。
そのためピアノ協奏曲第14番は「プロイヤー協奏曲第1番」、17番を「第2番」と呼ぶこともあります。両曲ともピアノパートの難易度の高さから、モーツァルトがその腕を高く評価していたことがうかがえます。
»ピアノ協奏曲第17番
手紙が語る「海賊版」への用心
当時の音楽界では、人気作曲家の新作を写譜屋がこっそり複製し、横流しする「海賊版」が横行していました。モーツァルト自身も当時のハイドンの海賊版を見つけており、楽譜の流出には敏感になっていたようです。
モーツァルトがピアノ協奏曲第14番の楽譜を父へ送った際の手紙には、こう書かれています。
「モーツァルトの手紙」
くれぐれも誰にも渡さないようにしてください。これはプロイヤー嬢のために作曲した作品であり、彼女はその対価を十分に支払ってくれたのですから。
1784年2月20日
以上の内容からプロイヤー嬢が、十分な報酬を保障してくれる所有権を守るべきパトロンであったことがわかります。海賊版が横行する時代に、権利を守ろうとした背景には、音楽家同士の対等な契約意識があったと思われます。
ユーモアを持って応じた師弟の絆
プロイヤー嬢は優れたピアニストでしたが、対位法の勉強には手を焼いていたようです。そんなプロイヤー嬢を励まそうとしたのか、モーツァルトは『対位法先生の葬送行進曲』というユーモアあふれる小品を書き上げました。曲を弾いて覚えながら「これで対位法先生もおしまいだね」と冗談を言っているような、心優しい師匠の姿が目に浮かびます。
モーツァルトの、ある自筆譜には彼女と思われる似顔絵の落書きも残されており、2人の楽しげな師弟関係を物語っています。
モーツァルトが弟子バーバラ・プロイヤーを描いたスケッチは、The Guardianの記事で紹介されています。
»The Guardian「Embellished Mozart manuscript uncovered」
編成:
ピアノ独奏
弦5部、オーボエ×2、ホルン×2
(ピアノと弦楽四重奏のみでも演奏可能)
各楽章を解説
第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ
[速く、活き活きと]
冒頭からあふれ出すのは、ポジティブな流れの中に柔らかさを内包した、心地よい響きです。活き活きと心が浮き立つような明るさがありながら、聴く者を包み込む思いやりと朗らかさに満ちています。
彩り豊かなリズムに身を任せていると、元気に前を向いて歩き出したくなるような思いが感じられてきます。活気と優しさが絶妙に調和した第1楽章です。
第2楽章 アンダンティーノ
[歩くよりやや速く]
アンダンティーノよりはむしろ「アダージョ(ゆっくりと)」のように感じられる第2楽章で、ピアノがゆったりと優しく歌い上げます。メロディは、そっと癒やすような温かさに満ちています。
耳を澄ませば、ふと自然と笑みがこぼれるような、静かな喜びと安心感がじんわりと広がっていくはず。華やかな協奏曲の中にそっと置かれた第2楽章は、穏やかな時間を味わえます。
第3楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ
[速く、しかしあまり速すぎないように]
天真爛漫に弾むモーツァルトの姿が息づいています。どこまでも屈託がなく軽やかなその音楽は、まさしく「モーツァルトらしいモーツァルト」そのもの。輝かしいメロディやリズムの変化は、まるで夏を間近に控えてキラキラと降り注ぐ春の陽光のようにも聴こえてきます。
ピアノと弦楽器が楽しげに会話しながら、心を明るく照らすような晴れやかな気分で全曲を締めくくります。
名盤3選の感想と解説
内田光子:ピアノ|ジェフリー・テイト:指揮|イギリス室内管弦楽団
内田光子によるピアノの細やかなタッチが、モーツァルト特有の優しいニュアンスを引き出しています。テイトの指揮はモーツァルトへの深い慈しみを持ちながらも、キレのある爽やかな響きで全体をまとめ上げており魅力的。
ピアノとオーケストラが親密に語り合い、かつ冷静と情熱のバランスの良い温かみを味わえる演奏と言えるでしょう。
ゲザ・アンダ・:ピアノ&指揮|カメラータ・ザルツブルク
世界で初めてピアノと指揮によるいわゆる「弾き振り」で、全曲録音を行ったゲザ・アンダ。第1楽章から小気味よい速めのテンポで音楽を進め、アンダのピアノが開放的に展開していくのが印象的です。第2楽章ではロマン派を思わせるような麗しさを加味しつつも、モーツァルトらしい柔軟さを保っています。
終楽章で再びテンポの速さを取り戻し、クライマックスへと向かう高揚感が素晴らしい名盤です。
ロバート・レヴィン:フォルテピアノ|クリストファー・ホグウッド:指揮|エンシェント室内管弦楽団
ハキハキとしたリズミカルな音楽の流れの中に、古楽器ならではの優美なおもむきが添えられた名盤です。ホグウッド特有のスマートなアンサンブルをバックに、レヴィンの知的なフォルテピアノが美しく歌います。
ピリオド楽器の軽やかな響きを通して、モーツァルトが生きた当時のサロンの空気を楽しめる感覚です。
まとめ
記念すべき自作品目録の第1曲目であり、モーツァルトのウィーンでの独立を支えたピアノ協奏曲第14番。プロイヤー嬢との温かい交流から生まれたこの曲は、親しみやすさと明るさが調和しています。
日々の喧騒から少し離れて、心静か向き合う豊かな時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。モーツァルトが彼女のさらなる才能を引き出した、もう一つの傑作「第17番」の世界へも、ぜひ続けて足を踏み入れてみてくださいね。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の醍醐味ですよね』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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