機関車のリズムにノリノリ!
ハツラツとした感情と、牧歌的で包み込むような、あたたかさを合わせもつ名曲ですね。
ドヴォルザーク: 弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」 第1楽章
それは、黒人霊歌に宿る精神。
美、やさしさ、思いやり、また、それらから発される、朗らかさや明るさがドヴォルザーク:弦楽四重奏曲『アメリカ』の基本にあるようです。
この、
- 機関車のリズムから来るワクワク感
- 黒人霊歌に宿る精神
この2つの要素から、ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲『アメリカ』の魅力をお伝えしたいと思います。
- 【楽曲を解説】ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲「アメリカ」
- 【各楽章の解説】ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲「アメリカ」
- 【5枚の名盤を解説】ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲『アメリカ』
- 【解説と名盤、まとめ】ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲「アメリカ」
【楽曲を解説】ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲「アメリカ」
機関車とドヴォルザーク
「機関車オタク」、現代的に言えば、「鉄オタ」だったドヴォルザークは、作曲する音楽のところどころに機関車の「シュッシュポッポ、シュッシュポッポ」というリズムを入れています。
そして、それが、ドヴォルザークの心地いい音楽の根底にあるように感じますね。
ここで、ドヴォルザークの機関車に関連したエピソードをいくつか解説します。
- アメリカに招かれて渡米したのは「広大なアメリカ大陸を走る鉄道に乗れる!」と言う理由が一つにはあった。
- 毎日かかさず、最寄り駅の機関車の車両番号の記録をとっていたドヴォルザーク。用事があって、都合のつかない日があると、わざわざ弟子を行かせて車両番号を記録していた。
- 機関車が奏でる走行音を楽しんでいたある日のこと。いつも聞く「機関車の音」とは、どうも微妙に違うことに気づいたドヴォルザーク。そのことを機関車の車掌に伝えたところ、車両点検時に故障が見つかった。
- 有名な「ユーモレスク」という曲。この曲もゆったりと機関車に乗って愉しんでいた時にインスピレーションが降りてきたとのこと。
さすがは、並々ならぬ「機関車、愛!!」のドヴォルザークですね。
驚きです!
黒人霊歌とドヴォルザーク
さて、こんな解説をみつけました。
ドヴォルザークの名曲「交響曲第9番(新世界より)」や「チェロ協奏曲」、そしてこの曲(弦楽四重奏曲『アメリカ』)などが生み出されるきっかけとなったのは、ニューヨーク、ナショナル音楽院の院長をつとめた2年半にわたるアメリカでの滞在であった。
ドヴォルザークが院長を務めていたこの学院の校風は、当時としてはたいへん進歩的なもので、黒人の学生の入学も認めていた。それで彼は、多くの黒人と知り合いになり、黒人霊歌というものを知った。さらに、アメリカ・インディアンの音楽にも触れ、こうした新大陸の音楽から強い影響を受けて書かれたのが、この曲(「弦楽四重奏曲『アメリカ』」)だった
出典:志鳥栄八郎 著 「不滅の名曲はこのCDで」p263より引用
解説にあるとおり、黒人の学生たちにとっての「魂の歌」は黒人霊歌です。
(黒人霊歌とは、アフリカの原住民が、アメリカ大陸に奴隷として強制的に連れてこられて、苦役をこなす毎日の中で培われた、宗教性をおびた歌のこと)
ドヴォルザークは「弦楽四重奏曲『アメリカ』」を作曲する際に、アメリカのナショナル音楽院の黒人の学生たちから、「魂の歌」ともいえる黒人霊歌や、アメリカ・インディアンの音楽を取り入れたとのことです。
そして、この「弦楽四重奏曲『アメリカ』」を聴いていると、大自然のおいしい空気を吸ったような開放された気持ちにもなりますね。
それは、ドヴォルザークの故郷であるチェコの壮大な風景と、このアメリカで学び、将来を夢見る黒人の若者たちの、心の歌ともいえる黒人霊歌との「佳(よ)きものの融合」から成りっているのでしょうね。
ドヴォルザークがナショナル音楽院で黒人たちとほほえみながら音楽について語り合う場面が想像できて、ほっこりした気持ちにさせてくれます。
【各楽章の解説】ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲「アメリカ」
それでは、各楽章について解説したいと思います。
ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲『アメリカ』は、第1楽章から第4楽章までの4曲で成り立っています。
第1楽章「アレグロ・マ・ノン・トロッポ(速く、しかしあまり速すぎないように)」
冒頭でも解説しましたが、いわば、「これぞドヴォルザーク!」と言える美しい旋律の解放!
そんな1曲ですね。
希望を胸に新たな学び舎(まなびや)である大学に集ってきた、学生たち。
過去、様々な個性を持ちながら、学び、また経験をしてきた学生たちが、アメリカンドリームを実現せんとして、輝かしい将来を思い描く姿ともとれる1曲です。
第2楽章「レント(遅く)」
もの寂しい一曲ですが、ドヴォルザークにとってはふる里のチェコを思う「ちょっとしたホームシック」に近い感情でしょう。
また黒人たちが、白人たちの奴隷にされて苦しんできた歴史の、先祖から続く、つらくも悲しい物語りの歌…。
そんなイメージの1曲ですよね。
第3楽章「モルト・ヴィヴァーチェ(とても速く)」
ドヴォルザークが、アイオワ州のスピルヴィルの森を散策した際に聞こえた、鳥のさえずりを音楽にしたとのこと。
たしかに、鳥たちが森の新鮮な空気をたっぷり吸いながら語り合うさまが、ありありと聴こえて来ます。
踊るようなテンポで、楽しく鳴り響きますね。
第4楽章「ヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポ(快速に、しかしあまり速すぎないように)」
どこまでも果てしなく広がるアメリカ大陸を、ものすごいスピードで駆け抜ける機関車というイメージ。
冒頭でも解説しましたが、機関車が大好きだったドヴォルザークが、イメージしたのはこれ…だったのではないでしょうか?
しかし、まさしく駆け抜ける機関車から感じる、元気で力強い、ワクワクしてやまない心の高鳴り。
そんな1曲ですね。
【5枚の名盤を解説】ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲『アメリカ』
スメタナ四重奏団
このスメタナ四重奏団は、ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲『アメリカ』を5回も録音を残しているというから驚きです。
やはり、それだけに自信にみなぎっていますし、アンサンブル(楽器どうしの調和)も素晴らしい、説得力バツグンの驚異の演奏ですね。
このアルバムをゲットしておけば、「ハズレた!」という結果はないといっていいし、一般的に評価の高い1枚です。
ハーゲン四重奏団
ハーゲン四重奏団の演奏は、輝かしい将来やアメリカン・ドリームを夢見る青年の心象風景ともいえる、みずみずしい感性のきらめきが感じられる珠玉の名盤。
解説で書きましたが、「ドヴォルザークがナショナル音楽院で黒人たちとほほえみながら音楽について語り合う場面が想像できて、ほっこりした気持ちにさせてくれる」。
そんなさわやかなイメージの演奏がこれ。
コーヒーで言うならば、スメタナ四重奏団の演奏が深煎り(ふかいり)で苦味とコクのあるコーヒー。
そして、このハーゲン四重奏団の演奏は浅煎り(あさいり)でスッキリさわやかなコーヒーというイメージです。
それこそ、少し演奏の浅さや軽さも感じますが、若々しいさわやかさを感じたい時にはいい演奏ですよね。
このドヴォルザーク:弦楽四重奏曲『アメリカ』の根底に流れる「よろこびや楽しみ」の精神をいかんなく表現することに成功した、素晴らしい演奏ではないでしょうか。
アマデウス四重奏団
どっしりと揺るぎないアンサンブルで聴かせる、さすがのアマデウス四重奏団ですね。
どこをとっても安定的で、しかも温かく包み込むようなサウンドは耳と心を安らげてくれます。
また、とても弾む感じの元気なドヴォルザーク:弦楽四重奏曲『アメリカ』を聴かせてくれてワクワク感も満載!
素晴らしい技巧と愉しいひとときが一体化した超名盤ですね。
エマーソン四重奏団
非常にキレが良くてサクサクと音楽が進んでいきます。
アメリカ社会の持つスピード感が全面に表現されいます。
また洗練されたフレッシュな柑橘(柑橘)系な若者の姿が想像出来ます。
また、第2楽章の哀愁をおびた物悲しい一面をそれぞれの弦楽器が切々と謳い上げていますね。
そういった意味でバッチリとメリハリの効いた1枚です。
パノハ四重奏団
こちらも速めのテンポで進みます。ただ、エマーソン四重奏団の「キレのある」演奏とは一味違っていて、一音一音を感性をこめて演奏している感があります。
そんなですから、曲の速い部分と遅い部分、また音の強弱の差も大きくとって、情感をこめて音楽は流れていきますね。
この完成のするどさは、哀愁を秘めた第2楽章でいかんなく発揮されて心に残ります。
そんな音のキラメキの反射を楽しみたいならこの1枚はおすすめです。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【解説と名盤、まとめ】ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲「アメリカ」
さて、ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲『アメリカ』、名盤の紹介と解説はいかがでしたか?
夢や希望が、ぼんやりとして見えずに、日々の繰り返しのなかで消耗していく。
そんな毎日の暮らしのなかで、一瞬でもいい、みずみずしい感性と夢と希望を持ち続けていたあの頃に、戻ってみませんか?
「機関車のリズム」のワクワク感と「黒人霊歌」の癒やしの融合の名曲。
そんな気分を、味わいたいなら、ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲『アメリカ』ですよ♬
そんなわけで、
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は以上になります。 最後までお読みいただきありがとうございました。
関連記事↓
↓文中にあります有名な「ユーモレスク」とはこの曲です。