殻を破って
飛翔する
ピアノ協奏曲♫
ベートーヴェンのピアノ協奏曲は、3曲目にして変貌を遂げます。
- 古典派からロマン派への橋渡し
- 交響曲的な壮大な着想
- 当時としては珍しい短調のピアノ協奏曲
有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」の翌年に初演されたベートーヴェンにとっての転機ともなる曲。
この記事では、ドラマティックなピアノ協奏曲の始まりともいえるベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番の解説とおすすめ名盤を紹介します。
【曲の解説】
第3協奏曲こそ、古典独奏協奏曲の最後の傑作といえるのではなかろうか。《第4》、《第5》になると、冒頭から型破りのピアノの登場。大規模な序、あるいは序奏部がおかれている。特に《第5》は、それまでの協奏曲の様式を一新した、非常に大規模な交響的構成にまで拡大されており、ピアノの演奏技法上もさまざまな工夫が見られる。ここにおいて、ロマン派独奏協奏曲の基礎が見事に確立されたわけだが、その萌芽は、《第3》にすでに見られたといってもさしつかえないだろう。
出典:諸井誠 著 「ピアノ名曲名盤100」P70より引用
「ロマン派独奏協奏曲の基礎」とその萌芽との解説がありますが、まさしくロマン派的な抒情性とドラマラスな要素のあるピアノ協奏曲といえます。調性が短調であることは珍しく、ベートーヴェンは生涯で5曲のピアノ協奏曲を作曲していますが短調は第3番のみです。
最も多くのピアノ協奏曲を残したモーツァルトでも全27曲(その他ピアノと管弦楽のための作品が数曲)のうち短調の曲はわずか2曲。もともとピアノ協奏曲のジャンルが古典派音楽的な貴族のサロンを彩るBGMのような位置づけであったことが要因としてあります。
ベートーヴェン自身、モーツァルトのピアノ協奏曲への思い入れがあったことは疑いようがありません。第20番のニ短調協奏曲のカデンツァをベートーヴェン自身が書き残していることからも明らかです。ピアノ協奏曲第3番は、短調で書き上げることによって情感を盛り込みながらもシンフォニックで重厚な仕上がりになっています。
ベートーヴェンの交響曲がそうであったように、ピアノ協奏曲でも第3番からもスタイルが一段と飛躍したところが面白いところ。有名な運命交響曲と調性が同じハ短調であることもまさしく運命的なピアノ協奏曲第3番との共通項として興味深いです。ある意味で交響曲的な要素を盛り込んだ初めてのピアノ協奏曲といえるかもしれません。
初演は1803年の4月で、1802年にベートーヴェンが耳の疾患により「ハイリゲンシュタットの遺書」を記した翌年。これもドラマ性を帯びたピアノ協奏曲が生まれた要因といえるかもしれません。
初演時にはベートーヴェン自身がピアノを担当しましたが、実はピアノパートの楽譜は完成していませんでした。演奏会ではベートーヴェンは即興で弾いたといわれています。ピアノパートまで楽譜を書き終えたのは、1804年の7月で改めて演奏された際には、ベートーヴェンのピアノの弟子フェルディナント・リースがピアノを担当しました。
初演:1803年4月5日アン・デア・ウィーン劇場にて
ピアノ:フェルディナント・リース
編成:
ピアノ独奏
弦5部、フルート×2、オーボエ×2、クラリネット×2、ファゴット×2、ホルン×2、ティンパニ
【各楽章を解説】
第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ(快活に速く)
序奏が弦楽で始まることで古典派的なピアノ協奏曲の形式を残していますが、曲に内在する情感はすでにロマン派のもの。ピアノ協奏曲第4番、5番ほどではなくとも十分に斬新さがあります。
不安定に揺れる感情と、激情が混ざり合いピアノ協奏曲第3番の歌が紡がれていきます。運命交響曲のような熱を帯びた悲劇性が感じられながら、流麗さの感じられる楽章です。
第2楽章 ラルゴ(表情ゆたかにゆっくりと)
夢を見るような甘い調べと優しさに満ちた楽章です。まるでショパンを思わせるようなピアノのささやきと、それに応える木管の優美さや弦のつややかな響きが印象的。
ベートーヴェンの曲における緩徐楽章全体をみても優れた詩情を含んだ名曲といえます。どこからともなく吹いてきた風が胸の深いところにある感性をそっとなでては良い記憶を残して去ってゆくような感覚です。
第3楽章 モルト・アレグロ(きわめて速く)
トルコ風で一定の勇ましいリズムをとりながら、第1楽章では劇的な音楽を聴かせたハ短調を採用しています。重い調性をとりながら弾むリズムで力強さが生まれています。情熱的で積極的な印象を持ち推進力すら感じられます。
ラストはハ長調へと転調が行われ、冒頭とは打って変わっての明るく晴れ晴れしい曲調へと変化して終わっていきます。
【名盤3選の感想と解説】
ヴィルヘルム・ケンプ :ピアノ
パウル・ファン・ケンペン:指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
ロマン派の持つ豊かな感性と、ドイツ的な重厚感もたっぷりな名盤で聴きごたえがあります。曲の持つ激しい情感の表現もじょう舌になることなく流麗に歌います。人間味あふれるケンプのピアノのバランス感覚と相まってベルリン・フィルの憂いを含んだ重厚さもこの名盤に魅力を添えています。
少し録音の古さが感じられますが、その向こうから響くベートーヴェンは伝統性と情緒の伝わってくる香り高いものといえます。
ウラディーミル・アシュケナージ:ピアノ
サー・ゲオルグ・ショルティ:指揮
シカゴ交響楽団
アルパカのおすすめ度★★★☆☆
【名盤の解説】
繊細で詩情豊かなアシュケナージのピアノをショルティが指揮するシカゴ交響楽団の重厚なバックがしっかり支えた名盤です。全体的には激情というよりは優美な感覚が強く特に第2楽章の詩情をピアノで深く歌い込んでいる印象です。
ショルティの盤石な支えから、自由に流れ出してくるロマンティックなピアノに深い魅力を覚える名盤です。
アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ ピアノ
カルロ・マリア・ジュリーニ:指揮
ウィーン交響楽団
アルパカのおすすめ度★★★★☆
【名盤の解説】
アシュケナージの名盤とは真逆の名盤といえるかもしれません。ミケランジェリの指のタッチから生み出される華麗な音を、ジュリーニ指揮の柔らかいバックがそっと支えます。輝かしい音をもって放たれる力強い説得力と、自在に流れ出てくる曲の持つ情感が素晴らしい。
曲の性格からすると少し語りすぎな所があるかもしれませんが、そこはジュリーニの柔和な管弦楽が取り持つといったバランス感覚です。ミケランジェリの録音はそれほど多くはありませんが貴重なアルバムのひとつといえます。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【まとめ】
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
殻を破って
飛翔する
ピアノ協奏曲♫
ベートーヴェンにとっては転機となったといえるピアノ協奏曲第3番は、古典派からロマン派への橋渡しとしての役割もありました。当時としては短調のピアノ協奏曲であること自体が珍しいこと。
交響曲的な壮大な着想も魅力のひとつになっています。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番、ぜひ一度聴いてみてくださいね。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の醍醐味ですよね』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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