妖(あや)しさ
熱情
恋心…
想う気持ちが狂(くる)おしい!
あのロシアの文豪トルストイの《クロイツェル・ソナタ》でも有名。
触れれば熱い!
離れれば寒い!!
そんな「想う気持ち」の切なさを奏でるベートーヴェンの名曲クロイツェル・ソナタ。
解説とおすすめ名盤を紹介です。
- 【解説】ベートーヴェン:クロイツェル・ソナタ
- 【各楽章を解説】ベートーヴェン:クロイツェル・ソナタ
- 【3選の名盤の感想と解説】ベートーヴェン:クロイツェル・ソナタ
- 【まとめ】ベートーヴェン:クロイツェル・ソナタ
【解説】ベートーヴェン:クロイツェル・ソナタ
クロイツェルの命名の由来
ベートーヴェン《クロイツェル・ソナタ》のこんな解説があります。
作曲者は「ほとんど協奏曲のように、きわめて協奏風な様式で書かれた、ヴァイオリンのオブリガートを伴うピアノのためのソナタ」と呼んでいるが、実質的にはヴァイオリンの活躍はピアノのそれに勝るとも劣らない。2つの楽器が対等にわたり合う二重奏ソナタのスタイルがここでついに確立されたのである。なお《クロイツェル》の通称は、周知のとおりこのソナタを捧げられたフランスの名ヴァイオリニストの名に由来する。
出典:大木正興・大木正純 共著 「室内楽名曲名盤100」P48より引用
解説にあります「フランスの名ヴィオリニスト」とはロドルフ・クロイツェルのことです。
しかしクロイツェル自身はベートーヴェンに対する評価は低く、この献呈をあまり喜んではいなかったようです。
しかもベートーヴェンの方にも少し下心があったようで「フランスで活躍のクロイツェル」に献呈すればフランスでも曲を知ってもらえるとの思いがあったようです。
本来はクロイツェル以外に献呈する予定だった
しかも、本来はこのクロイツェルとは別のヴァイオリニストに献呈する予定でした。
そのヴァイオリニストをジョージ・ブリッジタワーと呼びます。
その演奏に感銘を受けたベートーヴェンは自身のヴァイオリン・ソナタ、後のクロイツェル・ソナタをブリッジタワーに献呈します。
そして無事に初演も行われました。
しかしこの後、ブリッジタワーがある女性を軽んずるような発言をします。
ところがその女性はベートーヴェンの友人であったためベートーヴェンは感情がおさまりません。
そこで一度はブリッジタワーに献呈したクロイツェル・ソナタでしたがそれを取り消して改めてジョージ・クロイツェルに献呈しました。
しかし前述したようにクロイツェル自身はあまり乗り気ではなく一度も演奏する機会がなかったのでした。
もしもこの一件がなかったらこのヴァイオリン・ソナタは「クロイツェル・ソナタ」ではなく「ブリッジタワー・ソナタ」と名付けられていたことでしょう。
まあ、ある意味ベートーヴェンらしい「人間くさいエピソード」ではありますね。
文豪トルストイ「クロイツェル・ソナタ」
ロシアの文豪トルストイが書いた「クロイツェル・ソナタ」。
これはベートーヴェン《クロイツェル・ソナタ》からインスピレーションを得て書いています。
妖艶で美しい妻を持つ公爵ポズドヌイシェフが主人公です。
いくら「妻が美しい」と言っても家庭の問題は起きてきます。
子供のことで揉める毎日の中でお互い疲れ切っていきますが、ある時ポズドヌイシェフの妻が友人であるトルハチェフスキーと浮気していることを知ります。
そして怒りの思いにまかせて妻を殺してしまいます。
そんな過去を淡々と語る公爵ポズドヌイシェフの物語ですね。
そして、その妻の浮気相手のトルハチェフスキーはヴァイオリンが堪能であったことから妻のピアノとともに《クロイツェル・ソナタ》を演奏するわけです。
うーん、確かにこんな熱情を秘めた《クロイツェル・ソナタ》をともに演奏してしまった日には…堕(お)ちるよね。
まあ「そんな小説も存在するくらい名曲」ということなのでしょうかね。
【各楽章を解説】ベートーヴェン:クロイツェル・ソナタ
それでは、各楽章について解説したいと思います。
ベートーヴェン《クロイツェル・ソナタ》は第1楽章から第3楽章までの3曲で成り立っています。
第1楽章 アダージョ・ソステヌート:プレスト(速度をおさえ気味に:きわめて速く)
ヴァイオリンの静かな語りから始り、それに応えるようにピアノが歌い始めます。
甘美な歌はある時から熱情を発し始めます。
そして曲はテンポを速めていきます。
まさしく「嵐のごとく荒れ狂う情念をそのまま音楽にしたような曲調」は、恋多きベートーヴェンの心の叫び声のようにも感じます。
狂おしい思いをヴァイオリンが叫び、歌えばその声につられてシンクロするピアノがその吐息まじりの情念を発します。
2人のまるで生きて弾(はじ)ける楽器同士のせめぎあい…。
そしてその勝負のつかぬうちに、果てるがごとく突然断ち切れる…音…。
そんな緊張感と切迫感からくる、恐ろしいくらいの美しさを秘めた第1楽章です。
第2楽章 アンダンテ・コン・ヴァリアツィオーネ(歩く速さ、変奏曲)
第1楽章の熱情から一転、調和的な曲調の変奏曲になります。
ひとつの主題が奏でられるとその後4つの変奏曲が展開していきます。
- まるで春のような暖かさを感じる主題
- 弾む第1変奏
- ケラケラ笑う第2変奏
- 憂うつな旋律と公爵ポズドヌイシェフの妻の心境を思う第3変奏
- ふと優しい風に触れたような第4変奏ですね
これらを経て調和的な曲調へと変わり主題のメロディが流れながら終わっていきます。
第3楽章 プレスト(きわめて速く)
舞曲タランテラのリズムで展開する明るくて楽しい楽章です。
タランテラという舞曲は本来「踊り狂うような印象」がありますが、ベートーヴェン《クロイツェル・ソナタ》におけるタランテラ楽章には品があります。
ベートーヴェン《クロイツェル・ソナタ》の最終楽章を飾る元気で勇気の出る1曲です。
【3選の名盤の感想と解説】ベートーヴェン:クロイツェル・ソナタ
ヘンリック・シェリング:ヴァイオリン
イングリット・ヘブラー:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
その妖しさ中に、ただよう「気品」が逆に怖い名盤!!
チロチロと音もなく静かに燃える熱情がコレほど美しいとは…。
「熱い炎に近づけど、やっぱり辛くて離れおる…。
それでもやっぱり寂しくて…。
けれども近づき、苦しくて…。」
そんなわずかな苦痛をともなったシェリングのヴァイオリンを、罪深いほどの優しいヘブラーのピアノが包みます。
「知」「情」「意」のバランスの良さと妖艶さのスパイスが佳(よ)いあんばいで効(聴)いた名盤です。
アルトゥール・グリュミオー:ヴァイオリン
クララ・ハスキル:ピアノ
アルパカのおすすめ度★★★★★
【名盤の解説】
ピアノとヴァイオリンが対等のベートーヴェン《クロイツェル・ソナタ》です。
でもこの名盤ではヴァイオリンの豪華な語り口に対してどこかピアノの淡々とした響きでヴィオリンを引き立てている感のあるピアノというイメージです。
ヴァイオリンが人間の情念を歌い、ピアノが人間が本来的に持っている純粋性を歌う。
そしてヴァイオリンとピアノお互いがその性格の違いはあれど究極までに磨かれ抜かれているものですからたまらない。
華々しいのに軽くないヴァイオリン、透明感の極まったピアノの純粋さ。
そんな名盤と呼ぶにふさわしいアルバムですね。
ギドン・クレーメル:ヴァイオリン
マルタ・アルゲリッチ:ピアノ
【名盤の解説】
「熱のこもったアルゲリッチのピアノ」と、どちらかと言うと「ピアノを引き立てる感のあるクレーメル」のヴァイオリンの名盤です。
熱い感情を表現するピアノを冷静さと上品さとで引きしめるヴァイオリンのコンビネーションが素晴らしいです。
でもだからといってヴァイオリンの語る場面ではしっかりピアノが引き立てているところがまたニクイ名盤ですね。
どちらかと言うと「現代的に洗練された名盤」で録音もクリアです。
Apple Musicで “紹介した名盤” が配信中
【まとめ】ベートーヴェン:クロイツェル・ソナタ
さて、ベートーヴェン《クロイツェル・ソナタ》の解説とおすすめ名盤はいかがでしたか?
第1楽章の
- 妖(あや)しさ
- 熱情
- 恋心…
と、思いきや調和的で楽しい第2楽章や第3楽章が展開する。
そんな「深刻なだけではない」色んな要素が含まれてるベートーヴェン《クロイツェル・ソナタ》もベートーヴェンの室内楽の名曲です。
ぜひ、じっくり楽しんでみてくださいね。
そんなわけで…
『ひとつの曲で、
たくさんな、楽しみが満喫できる。
それが、クラシック音楽の、醍醐味ですよね。』
今回は、以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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